【守護者の誓い】
魔物へと進化したアヴァロンの最初行動は、敵を討つ事ではなかった。
「【守護転嫁】【異常転嫁】」
発動された二つのスキルは一見すれば何も起きていないように見える。
だが、
二つのスキルはどちらもこの場にいない者への向けられた〈守る〉という意思そのものだった。
「今のスキルは…」
ギブスはアヴァロンが発動したスキルに心当たりがあった。
「なんだ?知っているのかギブス」
何か気付いた様子のギブスに問う。
「はい。あの二つのスキルはどちらも、他者を守るためのスキルです」
「他者を?だがこの場にはあのアヴァロンとか言うゴーレムしか居ないぞ」
アヴァロン達が待機していた広間にはアヴァロンを含め五体のゴーレムがいた。
だが、すでに他四体は騎士団によって核を破壊されている状態だ。
「—っ!まさかこの場にいないダンジョンマスターに遠隔でスキルを付与したのか⁈」
「はい。おそらく」
「とんだ忠臣者だな。まさか最初のスキルが自己強化ではなく、主人の守りとは」
アヴァロンは続けて新たなスキルを発動する。
「【守護者ノ誓イ】」
スキルが発動された瞬間、アヴァロンの身体から黄金に輝く魔力が噴き出す。
その光景を見た騎士団は皆一様に戦闘の構えを取る。
「なんだ?どんなスキルを使った⁉︎」
「…おそらく自己強化系ですね」
アヴァロンが使ったスキルは
ユニークスキル【守護者の誓い】
その効果は、守ると誓った者が多ければ多いほど、ステータスが増し、新たな能力が付与されるという物だ。
現在アヴァロンが誓いを立てているのは自身の主人であるダンジョンマスターのみ。
だが、騎士団は知らぬことだが、その主人とはダンジョン・コアそのもの。
実質的にアヴァロンはダンジョンそのものに誓いを立てていると同義の状態になっている。
つまり対象はダンジョンに属する魔物全て。
日々の冒険者との戦闘や今回の騎士団により数は減りはしたが、
現在の魔物の総数は、532体。
アヴァロンは532体分のステータス上昇、能力追加を受けている。
そのため現在アヴァロンの強化値は、532パーセント。役5倍の上昇
追加能力は
〈状態異常無効〉〈ダメージ軽減〉〈即死耐性〉〈精神耐性〉〈反応速度上昇〉
「これはもはやダンジョン攻略どころではないな」
「えぇそうですね。コイツは骨が折れそだ」
「まずは一撃を喰らわせる。〈豪炎斬〉!」
オリアンヌから放たれた斬撃をアヴァロンは一瞥する事なく防御した。
「簡単に防御してくれるな!」
オリアンヌが悪態をつくと
歩みを止めていたアヴァロンが騎士団へと進む。
「盾役、前へ」
オリアンヌがすかさず指示を出し、防御の構えを取る。
目の前に来た瞬間、アヴァロンからの一撃薙ぎ払いが繰り出される。
その薙ぎ払いは進化前と同様、技術などない力任せの振りだが
人間程度を殺すには十分な物だった。
アヴァロンが剣を振り切ると同時に
オリアンヌの前に出た盾役の3名の胴体と脚が切り離される。
「貴様!」
怒気に駆られたオリアンヌが飛び出そうとするが
「待って下さい!団長!」
ギブスに強引に止められる。
「放せギブス!私はあの者たちの仇を打たねばならない」
「放せません。落ち着いてください!今のままでは貴方までやられてしまいます。アイツらの命を無駄にするきですか!」
「——!…すまない。私としたことが冷静さを失っていた。」
冷静さを取り戻しても現状は変わらない。
騎士団の命運はこの先の指揮にかかっていた。
——————
目の前のモニターにはアヴァロンが一対多数にも関わらず騎士団を圧倒している姿が映し出されている。
その光景を見た感想は
これ…明らかに俺たち、悪役じゃね?
まぁいいけれども。
それにしても
「アイツすげーな」
思わずそんな声が漏れる。
実験場の横に作った観戦ルームにて、俺達は皆んなでアヴァロンの戦いを観戦していた。
「…一時はどうなるかと思ったが一安心だな」
あの映像を見た時は騎士団があまりに主人公すぎて驚いたね。
さっきまではアヴァロン対二人の騎士。おそらく団長と副団長。
ゴーレム4体対その他騎士。
「アヴァロンだけじゃ無くて他のゴーレムの確認も出来たしな。意外と善戦してくれたし」
『善戦することが出来たのはルシフェルによる指揮の賜物です。マスターのゴーレムの性能がイマイチなことには変わりありません』
なんか、酷くない?
でもそうか確かにな。
「ルシフェルの指揮のおかげだな。こんなに上手くいったのは。希望が見えた一戦だ」
「お褒めくださり感謝致します。ですが結果的には4体とも騎士共に倒されてしまいました。私の不得によるところ。精進致します」
真面目だな。
それにしてもアヴァロンは何の指示も無しに行動出来ていた。炉心核が上手く動作してよかった。
「それに初めて喋ったぞ。あんまり話さないから、機能してないのかと思ったぐらいなのに」
でもあの宣言はカッコよかったな。
「星屑の守護者なり」ってなんだよ。
俺の厨二が移ったか?
ていうかさっきからアヴァロンが使ってるのってスキルだよね。
機械でもスキルが持てるのか。意外だ。
『いえ、アヴァロンは既に人工ゴーレムではありません。マスターが仰ったアヴァロンの宣言の寸前、霧が掛かった瞬間にアヴァロンは擬似生命から魔物へと進化したました』
進化ね。だからボロボロだったのに治ったのか…
って進化⁈人工ゴーレムって進化すんの⁈
『おそらくダンジョンという環境に長らく身をおいていたことと、炉心核による魔力供給の結果、進化に至ったと考えます』
マジか。
そもそも人工ゴーレムと魔物のゴーレムの違いって何なんだ?
『人工ゴーレムはアヴァロンのように人工的に作られた物。魔物のゴーレムは鉱石が長い年月をかけ魔力を帯び、更に帯び続けることで本能的な知性を得た存在です。魔物のゴーレム元となった鉱石を核とし、体を形成しています』
という事はあんな騎士みたいなデザインされたのはいないのか。
『はい。大体がマスターが最初に作られた人型の化け物のような姿です』
…あんまり言わないでくれないか。
まぁ悲しい事は後にして。
アイツはどんなスキルを獲得したんだろうな。
アヴァロンのステータスがとても気になる。
『確認しますか』
「えっ!こんな遠隔で確認できるの?」
今まではわざわざ呼んでいたのに
『可能です』
もっと早く言ってくれ。頼むから
「まぁいい。ステータス」
——ステータス——
名前:アヴァロン
種族:星屑ノ騎士
称号:魔へと至し者
メインクラス:守護者
サブクラス:大騎士
ユニークスキル
・守護者の誓い
スキル
・守護転嫁 ・異常転嫁 ・状態異常耐性 ・忠臣 ・騎士剣術 ・騎士盾術
—————————
「見事に守りばっかりだな。アヴァロンが使っていたスキルは【守護転嫁】【異常転嫁】【守護者の誓い】か。どんなスキルなんだ?」
アヴァロンに話を聞きたいが今は戦闘中だしな…
『スキルの詳細の確認は鑑定スキルを使う事で可能です』
え?鑑定で詳細見れるの?
…ネクロの時苦労した意味はいったい。
というか何であの時教えてくれなかったんだよ。
『あの時は目の前にネクロがいたので必要がないと判断しました』
必要だったよ。ネクロは話せないんだから。
バットコミュニケーションだよ。
あの時ミカエルが居なかったらただの召喚スキルだと思ってたんだから。
AIみたいな奴だと思ってたけど結構抜けてるな。
「はぁ。とりあえず詳細を見るか」
…ふむふむ。【守護転嫁】と【異常転嫁】はどっちも他者を守るスキルか。
そういえばさっきアヴァロンがスキルを、発動した時、演算機が『干渉を確認しました』とかなんとか言ってたな。まさかあの状況で俺に使ったのか?
いやまぁ、俺を守ってねとは言ったけれども。
そして【守護者の誓い】だいぶやばいな。
なんだよ守るものの数だけ強くなるって。
主人公かよ。
さっきまで悪役みたいだったのに。
まぁデメリットもあるみたいだから最強ではないけど。
それでも十分だな。
だが、このままだと全滅させそうな予感。
全滅させたらさせたで色々とめんどくさそうだが、まぁそこはアヴァロンに任せるか。
倒しちゃったらその時はその時。
アヴァロンの主人としてここはドンと構えよう。
「とりあえず確認はこれくらいにしてアヴァロンの戦いに戻るかな」
忠臣を信じて待つ。
こういう展開、良いよね。
俺が頼りになる主人をノリで演じていると。
「アヴィリル様。私は所用を片付けに席をはずします」
一言断りを入れるとミカエルが観戦ルームから出て行った。
「所用ってなんだ?」
——————
進化したアヴァロンと対峙して数分。
数時間とも思える戦闘の中。
オリアンヌとギブスはもはや自分達の手に負える相手ではないことを理解していた。
「…団長」
「あぁ。分かっている」
オリアンヌは既に撤退を視野に入れていた。
たが、全員が無事に逃げ切る策が思いつかなかった。
否、一つだけ存在はする。
「撤退だ。あのゴーレムは私達が叶う相手ではない」
「了解です。お前達聞こえたな?撤退だ!」
騎士団の皆が徐々に後方へ下がり退路を築いていく。
そんな中。
オリアンヌはアヴァロンを相手に対峙し行動を封じていた。
ギブスは一人残るオリアンヌに気がつきすぐさま声をかける。
「—!団ちょ——」
「ギブス!必ずダンジョンから脱出しろ。そして伯爵様、冒険者ギルドに必ず伝えろ。このダンジョンの危険性を」
そう話すオリアンヌの眼前に剣が迫る。
だが防がれる。
「ぐっ!」
ギブスがすんでで間に入ったのだ。
だが防いだ盾ごと腕が切り落とされる。
「ふぅ…の、残るなんて言うから今ことになるんですよ。お前ら団長を引き摺ってでも連れて行け」
「ハッ」
オリアンヌが部下に抑えられながらも撤退していく。
拘束を振り払おうと動くが、体力を使い切ったオリアンヌにもはや解く事はできなかった。
「さっ行きますよ」
ギブスもオリアンヌの手を取り引き返していく。
「…お前が残るかと思ったが違うのか」
「俺は死ぬ覚悟は有りますが無駄死になんてしないですよ。片腕失って勝てるわけ無いじゃないですか」
撤退していく騎士団は一応アヴァロンや周囲に対して警戒を向けているがまさに隙だらけだ。
だが、アヴァロンは追撃を仕掛ける事はなかった。
騎士団全員が広間を出ていくと同時に、アヴァロンは元の位置へ戻り、まるで像のように、動かず待機状態へと戻った。
あけましておめでとうございます。
今年も「大迷宮の創造者」をどうぞよろしくお願いします。




