冒険者
ホルウルカゼ村からほど近い街、ソーテリエの冒険者ギルドにて一つの中堅パーティが依頼を受けようとしていた。
「ホルウルカゼ村とホーセロルス大山脈を繋ぐ道の周辺調査…って、何であんな何もないところの調査依頼なんてあるんだ?あそこは大した分かれ道もない一本道だろ」
中堅パーティ『風の旅団』のリーダー、ガイオが疑問を口にすると仲間の魔法使い、ヒューが答えた。
「知らないんですか?最近ホーセロルス大山脈の麓で大規模な鉱床が見つかったんですよ。これまでも採掘現場で鉱床が発見されてきましたが、今回のは人手が足りなくなるほどだそうですよ」
「そうなのか。ベックお前は知ってたか?鉱床が見つかったなんて話」
「当たり前だろ。数十年ぶりの鉱床で街のあちこちで噂になってる。知らないのはお前ぐらいだ」
もう1人の仲間、盗賊のベックが呆れたように口にした。
「そんなに噂になってたのか。よし、この依頼を受けよう。報酬もいいし…何より報酬がいい」
「…同じこと言ってるぞ。言うことが無いなら下手なことを言うな」
「何だと、まるで俺がバカみたいじゃあねえか」
「まるでじゃなないだろ、このバカが」
「あ゛!」
ギルドの中で喧嘩を始めた2人を周りは誰も止めず、いつもの事だとばかりに流していた。
「2人ともなに喧嘩なんかしてるんですか。さっさと依頼書を受付に持っていきますよ」
ヒューが仲裁に入るも2人は止まる事なく言い合っていた。
「はぁ…まったく」
止まる様子のない2人に呆れたヒューは、依頼書を手に取り1人で受付まで足を運んだ。
「この依頼をお願いします」
ヒューは空いていた受付嬢のところへ依頼書を提出した。
「はい、街道調査の依頼ですね。パーティでの参加ですか?」
「はい、後ろの2人も一緒に参加します。…すみません、いつもうるさくして」
「いえ、そんなことは。…この依頼を受ける場合、まずギルドマスターからの説明があります。ギルドマスターに話を通してきますので、しばらくお待ちください」
そう言い、受付嬢は階段を登って行った。
「2人ともいつまでやっているつもりですか?今からギルドマスターに会って話を聞きますよ」
だが、やはり喧嘩はおさまらない。
「…〈スリープ〉」
一言、ヒューが口に出すと2人は突然静かになりその場に崩れ落ちた。
ヒューの魔法で眠らされたのだ。
「世話が焼ける人達だ」
ヒューは2人をすぐ側の椅子に掛けさせ受付嬢が戻るのを待った。
—数分後—
「お待たせいたしました。面会の準備が整いましたので、執務室までお越しください」
「わかりました。ほら2人とも起きてください、面会にいきますよ」
声を掛けても2人は起きず眠ったままだった。
「僕が魔法をかけたとは言え…〈ショック〉」
「うわっ!」「あぎゃっ!」
ヒューは電撃の魔法をかけ強制的に起こした。痺れているのか2人はピクピク痙攣している。
「あの…大丈夫ですか?」
受付嬢が心配そうに様子を見ていたが
「大丈夫です。いつもの事ですから」
ヒューは何事もないように答えた。
「さぁ、行きましょうか」
3人は執務室で待つギルドマスターの元まで向かった。
「くそ、まだ痺れてやがる。もっと違う起こし方があるだろ」
「全くだ」
「2人がいつまでも喧嘩しているのが悪いんですよ。…それより着きましたよ。リーダーから入ってください」
ガイオは不満げな顔をしながらも言われた通り執務者に入って行った。
「ギルマス、入りますよ」
一言声をかけながら堂々と執務室の中へと進んでいった。
「ちょっと、失礼ですよ」
「これだからバカは」
一連のガイオの行動にヒューは咎め、ベックは呆れていた。
「おう、ご苦労。よく来てくれたな。俺が直接行ってもよかったんだが、最近腰が悪くてな」
そう声をかけてきたのは初老の男性だった。
「よく言うぜ。元一級冒険者さまがそれ位で動けなくなるもんかよ」
ガイオの言う通り、鍛え上げられた肉体は衰えてはおらず、現役と言われても通じるほどの覇気を纏っていた。
「さすがは拳士の最上位クラス覇闘拳士まで上り詰めた元一級冒険者、『覇拳』のグレイさんですね」
「元、元言うな。悲しくなるだろ。それより調査依頼の件だ。内容はわかってるか?」
「あぁ、なんか鉱床が見つかったからそこまでの道のりの周辺調査だろ」
「まぁ、基本的にはそうなんだが…もう一つやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいって何をです?」
「賊の討伐依頼だ。討伐が難しい場合、拠点の場所や賊の人数などの確認だけでも構わない」
グレイは真剣な顔でガイオ達へと告げた。
「なんだそんなことかよ。俺たちは、言っちゃなんだが中堅のパーティだぜ?その類の依頼はこれまで受けてきた。討伐してやりますよ」
「ですね」
「だな」
3人はグレイの話を聞き面倒ではあるが難しい依頼ではないと判断した。
「はぁ…確かにガイオやベックは長年この街で冒険者をしている剣士と盗賊だ。そしてヒューも20代前半で上位クラスまで上り詰めた天才だが、今回は相手もそれなりにやる山賊団だ」
グレイはもう一度、今度は言い聞かせるように説明を行った。
「実は以前この依頼に出た冒険者パーティがその山賊団に殺された。5人組のパーティで生き残ったのは1名だけだ。そして1番重要なのはそのパーティのリーダーのクラスが最上位クラスだったって事だ」
「最上位クラスがリーダーを務めるようなパーティがやられたって言うのか?」
「もちろんリーダーの男は最上位クラスと言っても成り立てで調子に乗っていた。仲間も全員中位クラスのいわゆるワンマンパーティだった」
「それでも…いくら成り立てでも簡単にやられるもんじゃねえ」
ガイオやベックは長年、冒険者をしてきただけあって最上位クラスの強さを知っている。
グレイにとっても最上位クラスについた身として信じがたい話だった。
通常、最上位を殺害することが出来る程の実力がある者は野盗に落ちることは少ない。それだけの強さがあれば街でいくらでも働き口を見つけられるからだ。
実力がありながらもまともな生活を送らない者は、実力を得る前から指名手配をされていた者や性格破綻者ばかりだった。
「この事実を聞いてもまだ依頼を受ける気はあるか?」
グレイは3人を見つめ、問う。
ガイオはヒューとベックに一度顔を向け、2人の同意を得て
「もちろん、その依頼を受けるぜ。確かに話を聞く限り山賊の討伐は厳しいかもしれない。もしかしたら俺たちの中の誰かが死ぬかもしれない。だがそんな事は今更だ。死ぬのが怖くて冒険者なんてのはやってられねぇ。そうだなヒュー、ベック!」
「はい!」「あぁ、そうだな」
高らかに宣言した。
気に入ったのかグレイは少し口角を上げながら依頼の内容をもう一度口にした。
「では改めて三級冒険者パーティ『風の旅団』に依頼を出そう。依頼内容は2つ、ホルウルカゼ村とホーセロルス大山脈を繋ぐ道の周辺調査と道中居るであろう山賊団の討伐もしくは情報収集だ。頼んだぞ」
「おう!」「はい!」「あぁ!」
「後もう一つ、賊のボスの名前はアゼル。大剣使いで、大柄な男だそうだ」
グレイは山賊の情報を提供した。
「わかった。大剣使いのアゼルだな。よし、お前ら行くぞ。早速宿に戻って準備だ。準備が終わったら依頼に向けて景気付けに一杯やりにいこう」
「そんな事を言ってただお酒を飲みたいだけでしょう?」
「そ、そんな事はない。悔いを残さないようにするためだ」
「さっきまでのいいセリフがこれじゃ台無しだな」
騒ぎながら部屋を後にする3人を見送りながら、グレイは誰にも聞こえないほどの声で呟き
「どうか無事に戻ってきてくれ…」
神に祈り
「神なんて信じていなかったのに…俺ももう歳か」
グレイは事務作業に戻った。




