9話 レアは稀少(レア)です
「え?」
あたしは自分の中で溢れる強大な魔力(たぶんレアの魔力)にビックリした。
でもそれに害がないと本能で理解。
それどころか、身体の不調が全て完全に消え去り、絶好調になった。
今日からあたしは『絶好調のクロエ』だね!
更に、さっきまで曖昧だったあたし自身の魔力を、今はハッキリと認識できる。
その上、魔力が身体を巡る感覚を掴めた。
「マジかよ」パストルが目を丸くして言う。「お前、魔術6段レベルの魔力操作してるぞ」
「ろ、6段!?」
あたしは素っ頓狂な声を上げた。
「レアが何かしたようだが」ジョスランが言う。「魔力操作に関して、ワシが教えることはもう何もない。以降は、魔術師に教わるべきだな」
「でも魔力量は初段レベルだから、高度な魔法は使えないと思う」
パストルが補足。
と、レアが突然、何か瓶のようなものを出現させた。
レアサイズの瓶なのですごく小さい。
レアはあたしに、口を開けるようジェスチャで示す。
あたしは素直にあーんと口を開ける。
レアがあたしの口の中に、瓶の中身をぶちまけた。
ちょっと苦いかも?
あたしがそれを飲み込み、数秒後。
あたしの魔力量が爆発的に増えた。
「魔力量も6段レベル!?」
パストルが驚愕の声を上げた。
てゆーか、なんで他人の魔力量が分かるの?
慣れとかそういうの?
あたしも分かるようになるのだろうか。
「抑えろクロエ!」ジョスランが言う。「魔力が渦を巻いている!」
あたしはいきなり増えた魔力に対応できず、垂れ流し状態になってるみたい。
魔力が垂れ流しって意味!
変な意味じゃないよ!
レアがあたしの額に触れ、あたしの魔力が静まる。
そして。
「あ、あの……」あたしはビクビクしながら言う。「魔法の使い方を、レアが教えてくれたのですけど……」
「「!?」」
ジョスランとパストルが口をあんぐりと開ける。
あたしだって口をあんぐりと開けてバカ顔を晒したい気分だよ。
でもあたしは『美人のクロエ』だから我慢。
「ま、待て、使えるのか? 魔法が」とパストル。
「た、たぶん……」とあたし。
「よし、では試してみようか」とジョスラン。
「あ、はい」
あたしは両手を空に向けて突き出す。
そして。
黒い魔力を打ち上げる。
その魔力は空中でドカンと大きな音を立てて弾けた。
そう、レアが領都に来た日に使った超爆発魔法である。
「魔法ってそれなのか!?」
ジョスランが酷く狼狽して言った。
「ほ、他にも何か、教わったのかな?」とパストル。
あたしは首を横に振る。
レアが教えたのは、この超爆発魔法だけである。
◇
おぉー、クロエも花火を打ち上げられるようになったね!
せっかく魔力操作を覚えて、魔力量も増やしたのだから、魔法を使いたいよね!
そう思って、私が教えたのだ。
教え方は簡単、クロエの脳に直接叩き込んだ。
あんまりやると脳が焼き切れるので、教えられる魔法は多くても1日に1つかな。
いや、大事をとって5日に1つぐらいにしとこう。
とりあえず最初に教える魔法は、害のない【暗黒花火】が最適。
綺麗だし、派手だし、花火はみんな好きだしね。
害はないと言っても、人に向けて打っちゃダメだよ?
さすがに人に向けて打つと、害しかないからね。
と、イケオジが私をジッと見ている。
何?
イケオジも花火、打ち上げたいの?
それとも、魔力量と魔力操作でクロエに抜かれたから、自分も底上げして欲しいのかな?
まぁ経路ぐらいなら開いてあげようかな。
私はサービス精神旺盛な魔王。
イケオジはクロエにも私にも、よくしてくれているし。
私はイケオジの方に移動し、イケオジの額に触れる。
そしてクロエにやったように、自分の魔力を流し込む。
◇
ジョスランは未だかつてないほど、気力に満ちていた。
それはレアが魔力経路を完全に開いてくれたから。
「ワシ、もしかしたら剣王になったかもしれん」
「ええ!?」
ジョスランの言葉に、パストルが驚く。
「すまんが、ワシはちょっと調べてくるぞ! あとは頼んだパストル!」
ジョスランは急いで剣術ギルドへと向かった。
剣術ギルドは、段位を正確に測ることができる。
「い、行っちゃいましたね」とクロエ。
「叔父上も何気に行動力があるんだよ」
パストルが肩を竦めた。
◇
イケオジどっか行っちゃった!
どうしたのだろう?
まぁいいか。
細かいことは気にしない。
私は考えない葦である。
それただの葦やレア。
と、単独ノリツッコミをしたあと、私はパス君を見る。
クロエとイケオジの魔力経路を開いたのだから、当然、パス君も開いてあげなきゃね。
パス君も私とクロエに優しいので、サービス!
私がジッとパス君を見ると、パス君は「俺も?」という風に自分を指さした。
私がコクンと頷くと、パス君は小さく頭を下げた。
よろしい、では始めよう!
そうして、私はパス君の魔力経路も開いてあげたのだった。
ちなみにだけど、クロエはあと3回ぐらい魔力経路を開く余地がある。
1回で全開にはならないんだよね。
◇
精霊士のエルメンヒルデは、レムル伯爵家の応接室でケーキを食べていた。
エルメンヒルデは19歳の女で、職業は傭兵。
愛称はエル。
赤毛のミディアムヘアに、黒のヘアバンドを装備している。
エルは鍛えているので、女性にしては体脂肪率が低く、胸や尻はあまり膨らんでいない。
黒を基調とした高価な戦闘服に身を包み、同じく黒色で高価な剣を腰に装備している。
今はソファに座っているので、腰の剣は外してソファに立てかけているが。
「本当に大丈夫だろうな?」
エルの対面に座っているレムル伯爵が言った。
レムル伯爵領はリニイ伯爵領の隣で、領境の鉱山の所有権で揉めている。
「はん。うちのサラマンダーちゃんが信用できないっての?」
エルはギロッとレムル伯爵を睨む。
「そうではない。領地戦の許可が降りたこのタイミングで、リニイのところに精霊士が誕生したらしいのだ」
レムル伯爵は40代前半の女性で、見た目は割と若々しい。
「生まれたての精霊士なんて、うちの相手になんないって」ヘラヘラとエルが笑う。「こちとら地獄を這いずってきたんだよ? 相手が上級精霊を使役する精霊士でも、戦える自信あるし」
ちなみに、サラマンダーは火の中級精霊である。
「未確認情報だが、リニイの精霊士は闇の中級精霊を使役している、という話もある」
「そりゃ与太でしょうって」エルが肩を竦める。「闇の精霊は人間に懐かないって有名じゃん。未だかつて、契約を結んだ人間はいないわけだしぃ?」
「事実だったら?」
「それでもうちが勝つよ。最悪、精霊士の方を殺す。うちが直接、ね」
エルは自身も剣術7段の実力があり、魔術も4段だ。
精霊に守ってもらうのではなく、精霊と一緒に戦うのがスタイルだ。
「そうしてくれ」レムル伯爵が言う。「バカみたいな大金であなたを雇っている。万が一にも負けてもらっちゃ困る」
「お金に見合う働きはするよぉ?」
へラッと笑い、エルはケーキを食べた。
「なんなら、うち1人で3人全部、ぶっ倒してあげるよ」
エルが右手の人差し指を立てると、そこを中心に炎が渦を巻いた。
「ねぇサラちゃん、うちら最強だもんね?」
エルの周囲の炎が収束し、人間と同じサイズの炎のトカゲが出現。
その炎のトカゲは宙に浮いている。
「おい、部屋が燃えたらどうするのだ!?」
レムル伯爵が慌てて立ち上がる。
「大丈夫、ちゃんと制御してるって。何年、精霊士やってると思ってんの?」
◇
よぉし、今日はクロエに剣術を教えるよぉ!
そぉれ!
私はクロエの脳に直接、剣術を叩き込んだ。
一気に教えると脳が焼き切れるので、まずは基本だけね。
ここはクロエの家のお庭。
花壇で花が咲き誇っていて、いい香りがする。
そこでクロエ、パス君、イケオジの3人が剣の練習をしていた。
クロエがパス君に何かを言って、パス君とイケオジが驚く。
そしてパス君とクロエが木剣を構えた。
おや?
対決するのかな?
そうだよね、せっかく剣術覚えたんだから、使ってみたいよね!
私はワクワクしながら2人の対決を見守ることに。
2人が距離を詰め、お互いに剣撃を交わす。
お?
2人の実力は同じぐらいだね。
つまり、パス君も基本ができるようになったばかり、ってことか。
2人はしばらく戦っていたが、やがてクロエの方が木剣を落として終わった。
どうやら、クロエの体力がパス君よりずっと低いみたい。
そりゃそうか、まだクロエは幼女だし。
剣術だけ覚えても、肉体が付いていかないんだね。
ということは、次は【身体強化】を教えるのが良さそうね。