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7話 フワフワモコモコの魔王


「つ、継ぎません!」


 村娘ですけど、あたし!

 そりゃ、他の子たちよりちょぉぉっと美人で、ちょぉぉっと賢いけど!

 でも所詮は村娘。

 簡単に領地を継がそうとしないで欲しい。


「残念だなぁ、うちの息子たちは領地を継ぐことに興味がないんだよね」アンジェロが肩を竦める。「上の子はさっさとアカデミーを卒業して準男爵になって、サッと独立して今は中央官僚。下の子はなんとか説得して、僕の後継者として育ててるけど、どうも冒険者になりたいみたいでね……」


「冒険に憧れる年齢というだけだろう」とジョスラン。


「だといいけどね。とりあえず、さっさと養子縁組の手続きを終わらせよう。君たち」アンジェロは控えていたメイドたちに言う。「クロエを僕の娘として扱え。部屋も準備してくれ。よろしく頼む」


 メイドたちの返事を聞いてから、アンジェロは執事と執務室へと向かった。


「……行っちゃいましたね」とあたし。

「兄上は行動が早いのだ」とジョスラン。


「……決断も早かったですね」

「うむ。昔からだ」

「あたし、本当に領主様の娘になるんですか?」

「不安そうな顔をするな。大丈夫だ。兄上の性格はワシが保証する」

「あ、はい、どうも……」


 あたしは曖昧に頷いた。

 現実の速度にやや付いて行けない感がある。

 だって少し前まであたしは『村娘だけど美人で賢いクロエ』だったのに、それがいきなり『可哀想な生贄のクロエ』になって、次は『精霊士かもしれないクロエ』で、今は『領主様の義理の娘のクロエ』だよ?

 もう何がなんだか。

 メイドになるって話じゃなかったの?



 私たちは応接室っぽい部屋に通され、そこでお菓子とお茶が出た!

 私の分もある!

 メイドたち優秀!

 私のティーカップは本来ならミルクを入れる小さいカップ。

 普通のサイズでも私は飲めるけどね。

 中のお茶を浮かせて、少しずつ飲めばいいわけだし。


 でもありがとう!

 メイドたちはお菓子やケーキも私用に小さく切り分けてくれた。

 この世界の人間、割といい奴多い!

 前の世界の人間は本当にどうしようもない連中で、私らは『人カスさん』って呼んでた。

 さてそんなわけで、私、クロエ、イケオジのティータイムは沈黙とともに進んだ。

 イケオジは特に話すことがないのか、1人で考え事をしているように見えた。


 クロエはなんだか少し落ち着きがない。

 もしかしてクロエって家出少女だったのかも?

 連れ戻されたからちょっと不安になってるとか?

 モグモグとケーキを食べながら私は考えた。

 そしてケーキがとっても美味しいので、思考を遠くの泉に放り投げた。

 私は考えない魔王。


 やめよう、知的生命体。

 しばらくティータイムを楽しんだあと、メイドたちがクロエに何かを言って、クロエが立ち上がった。

 そして私の方に手を伸ばしたので、私はクロエの手に乗っかる。

 クロエは私を肩に乗せ、メイドたちに付いて歩き始めた。

 どこに向かっているのだろう?


 しばらく屋敷の中を歩いて、到着したのはお風呂でした!

 おお、お風呂!

 そういやずっと入ってないじゃん!

 私は臭い魔王!

 って思うじゃん?

 私は自分とクロエに【クリーン】と呼ばれる魔法をかけていたから、全然汚くないのである!


 この魔法は汚れと悪臭を除去する効果がある。

 人類との戦争中に、最前線の兵士たちが編み出した。

 風呂に入れない悲しみ、仲間が臭くて鼻がもげそうな絶望、そういう環境が産んだ悲しき魔法なのである。


 メイドたちがテキパキとクロエを脱がせる。

 美幼女の全裸いただきました!

 私も脱ごうっと!


 私は着ている服を直接、【亜空間収納】に仕舞った。

 外から見てると、私がいきなり全裸になったように見えたはずだ。

 さぁ、いざ異世界で初めてのお風呂としゃれ込もう!

 私はお風呂にダイブして、少し潜ってから上昇し、勢いよく頭を水面に出した。


「ぷはぁ、やっぱコレだね!」


 私はルンルン気分で、適温のお湯をユラユラと泳ぐ。

 そんな私を見て、メイドたちとクロエが苦笑い。

 さぁ、クロエも入るのだ!

 私はジェスチャでそう伝えた。


 クロエが湯船に入る時、メイドたちが支えていた。

 さすがお嬢様、お風呂に入るだけでもメイドのお手伝いがあるのか。

 クロエが肩までお湯に浸かり「ふぅ」と息を吐いた。

 それから、メイドたちが湯船に薔薇の花を浮かべ始める。


 マジか、薔薇とか浮かべちゃうの?

 薔薇のいい香りが漂う。

 私は両手を伸ばして、水死体一歩手前みたいな感じで仰向けに浮かんだ。

 ここが天国か?



 あたし、こんな豪華なお風呂に入ったの初めてなんだけど。

 村にもお風呂はあったけど、共用だった。

 女性と男性で時間を分けて使っていたなぁ、とあたしは思い出した。

 村を離れて、まだそれほど月日は経っていないはずだが、なんだかもうすごく昔のことのように思う。


 ここ数日の人生模様が濃すぎるんだよね。

 そんなことを思いながら、あたしはレアを見た。

 レアは脳天気な表情でお風呂に浮いている。


(闇の精霊って、とっても自由なんだね)


 あたしは村娘として生まれ、村娘として育ち、そして生贄として捧げられた。

 父も母も、あたしが生贄に選ばれた時、抵抗しなかった。

 兄妹は多かったし、1人ぐらい別にいいや、って感じだったのかも。


 ぐぬ……あたしが一番美人だったのに……。

 まぁ、公平なくじ引きで決まったから、抵抗しても村八分にされるだけ。

 なので、反抗するという選択肢はなかったのだと思う。


「お嬢様、髪を洗いますね」


 メイドの1人が言った。

 あたしはボーッとしていた。


「お嬢さま?」


 メイドはあたしの頭に触れながら言った。


「あえ!? あたし!?」

「そうでございます」


 あたしは自分がお嬢様だと認識していなかった。

 本当にあたし、今日から『お嬢様のクロエ』なの?


「髪を洗っても?」とメイド。

「あ、はい。お願いします」とあたし。


「お嬢様、伯爵家の一員となるのですから、わたくしどもに敬語は止めてください」


 メイドの1人が言って、他のメイドたちも頷く。

 ちなみに、お風呂場には3人のメイドがいる。

 10代のツインテールのメイド、20代のメガネのメイド、30代の貫禄あるメイドの3人。


「が、頑張りま……えっと、頑張る……」


 あたしは少し困惑しながら言った。

 単純に、タメ口に慣れていないのだ。


「それでは失礼して……」


 貫禄あるメイドがクロエの頭を洗い始める。

 白くて綺麗で、いい匂いのする泡がモコモコと広がる。

 その感触が気持ちよくて、あたしは「ほえぇー」と呟いた。


「精霊様も洗いましょうか?」とメガネメイド。


「えっと、レア」


 あたしが呼ぶと、水死体みたいにプカプカしていたレアが、視線だけをあたしに向ける。


「洗う? 髪」


 あたしは自分の頭を指さして、レアを指さす。

 レアはスッと飛んで浴槽の縁に腰掛け、よろしくって雰囲気を出した。


「洗って欲しいみたいで……みたい」

「分かりました。わたくしが担当します」


 メガネのメイドがキリッとした表情で言った。



 私、生まれて初めて他人に洗って貰った。

 気持ちいいので途中で寝そうになった。

 身体中泡だらけ!

 フワフワモコモコ!

 私は泡立ち魔王!


 メガネのメイドさんが、優しい手つきで私をナデナデするように洗ってくれた。

 うむ、実にいい。

 セカンドライフ最高!

 異世界転移して良かった!

 そしてクロエのペットになって正解だったみたいね。



 お風呂から上がって、ホクホクの私とクロエが応接室に戻ると、イケオジが少年と話をしていた。

 少年は見た感じ15歳前後で、髪は茶色のポニーテール。

 ややラフな格好だが、高価な服を着ている。

 顔の感じはクロエの父(仮)に似ているように思う。


 イケオジの面影もあるね。

 あれ?

 もしかしてクロエの兄かな?

 そしてイケオジはクロエの実の伯父とか?

 少年は私を見てすごくビックリしたような、でも嬉しいような表情を浮かべ、サッと席を立った。


 そのままズンズンと歩いて私の前へ。

 何か言ってるけど、何言ってるのかサッパリ分からない。

 ふふ、私は勉強しない魔王。

 こっちの言葉を覚える気はサラサラない!


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