6話 このお屋敷クロエの家?
空中で闇が炸裂した。
他になんて表現したらいいのか、あたしには分からない。
レアが作った黒い魔力の塊が、上空へと飛翔し、そして爆ぜた。
轟音が響き渡り、黒く輝く花が咲いた。
その花は美しく、だけどすぐに雫のように落ちはじめ、そのまま消えてしまう。
あたしはそのあんまりな光景に固まってしまった。
ジョスランたちも、街の人々も硬直している。
馬ですら歩みを止めてしまった。
ちなみに、ここはアルグッド王国、リニイ伯爵領の領都イデール。
初めて来たけど、領都らしい都会だった。
「……今のがもし、街中で爆発したら……」
ジョスランが恐ろしいことを呟いた。
あたしは反射的にレアを見た。
ただの村娘であるあたしにも、今のがとんでもない攻撃魔法だと理解できる。
あ、美人で賢い村娘だったあたし、かな。
レアはニコニコと笑って、「もう一発いっとく?」みたいな感じで人差し指を立てた。
あたしはブルブルと高速で首を横に振った。
◇
うーん、どうやらクロエは【暗黒花火】がお気に召さなかったみたい。
音が大きいからビックリしたのかも。
って、もしかしてこの世界、花火ないの?
何かが空で爆発したって認識なのかも。
もしそうだとしたら、私のことを『危険な手乗り魔王』だと認識して、ポイ捨てするかも!?
まぁそれならそれで、別の生き方をするだけ、なのだけど。
私としては最初に出会ったクロエが大きくなって、そして死出の旅まで見送りたいわけだが。
あ、この世界の人間の寿命がどのぐらいなのか知らないや。
私より長生きだったら、逆に私が看取られるのか。
それはそれでいいけどね。
と、イケオジたちが民衆に何かを言っている。
何を言っているのかサッパリ分からないけど、花火のことかな?
ごめんって。
景気づけのつもりだったんだよ。
って、みんな喜んでるじゃん。
なーんだ、いきなりでビックリしただけ、ってことか。
◇
ジョスランは民衆に精霊士クロエと闇の精霊レアのことを話した。
あまり大っぴらにしたくなかったのだが、今の爆発は他に言い訳のしようがなかった。
ジョスランは闇の精霊レアが力を示したのだ、と説明。
さっきまでビビっていた民衆は、打って変わって喜びを表現し始める。
「我が領地に精霊士が!」
「しかも契約したのが闇の精霊様だなんて!」
「素敵、抱いて!」
「しかもあの魔法、どう見ても中級精霊以上! いや、上級精霊か!?」
喜ぶ民衆に、ジョスランは蛇神を倒したのもレアとクロエだと伝えた。
民衆の喜びは最高潮に達した。
クロエは反応に困っている様子だったが、レアは脳天気に手を振っていた。
(こうなったら我が領地の英雄として祭り上げて、我が領地に縛り付ける方向でいくか。領地の英雄なら、中央も「くれ」とは言いにくいはず。クロエも我が領地から出て行きたいと言えない状況にしておきたいし、これはこれで……あり、か)
ジョスランはクロエを他領地や中央に渡す気はサラサラない。
なんなら、自分の養子にすることも視野に入れている。
◇
なんか広いお屋敷に到着した。
ここがクロエの家なの?
だとしたら、普通にお金持ちじゃん。
門番とイケオジが軽く会話を交わし、門番が門を開ける。
ちなみに、イケオジの部下たちはお屋敷に到着する前に別れた。
なので、今ここにいるのは私、クロエ、イケオジの3人だけ。
私ってこの世界では1人って数えるより1匹って数えた方がいいのでは?
なんて、くだらないことを考えてしまった。
ブンブン飛び回る虫みたいなもんじゃない?
いや、魔力の羽だから羽音はしないのだけどね。
更にネタバレをすると、この羽は飾りである。
そう、この美しい黒い羽は、飾りなのだ!
だって私、魔法で飛んでるし。
雰囲気作りってやつ。
そんなことを考えていると、イケオジが馬を下りて、クロエを下ろす。
イケオジはなんだか、クロエのことをすごく丁寧に扱っているように見える。
イケオジがロリコンでなければ、やっぱりこの大きな屋敷はクロエの家なのかも。
たぶん領主とかそういうのだと思う。
えー、じゃあクロエって令嬢じゃん。
令嬢があんな辺鄙な泉で何してたの?
……まぁ細かいことはいい。
私は行雲流水のセカンドライフを楽しむのだ。
深く考えるのは疲れるから嫌。
イケオジが何か言って、歩き始めた。
クロエも後に続く。
正しくは、イケオジの隣に並んでいる。
イケオジはちゃんと、クロエの歩行速度に合わせて歩いている。
細かいことに気がつくイケオジ。
きっとモテるのだろうなぁ。
私は2人の周囲をクルクルと飛び、そしてクロエの肩に着地。
久しぶり、私の椅子。
お屋敷の入り口で、執事とメイドが出迎えてくれた。
イケオジといくつか言葉を交わしてから、執事が玄関を開ける。
私たちが中に入ると、メイドと執事も中に入って玄関を閉めた。
ロビーには綺麗な服を着たオジさんが待っていた。
茶色の髪を短く切り揃えていて、清潔感のあるオジさんだ。
顔はイケオジに似ているけど、イケオジより線が細い。
イケオジを優男にしたような雰囲気だね。
年齢もイケオジと同じぐらいかな。
40代って感じ。
この家の主だよね、きっと。
だとしたらクロエのお父さんかな?
挨拶しておくかぁ。
と思ったらイケオジとクロエの父(仮)が会話を開始。
私は2人の会話が落ち着くのを待ってから、クロエの父(仮)にイメージを送る。
(クロエのお父さんこんにちは、手乗り魔王のレアです。一方的に娘さんのペットになりました、ヨロシクどうぞ)
だいたいこんな感じで送った。
ちなみにこの魔法、名前は忘れたけど、あんまり使うと相手の脳が焼き切れるという危険な魔法だったことを思い出した。
あ、危険って言っても、1日に2回とか3回なら全然、害はない。
ないはず。
◇
リニイ伯爵領の領主アンジェロ・リニイは、弟であるジョスランの訪問を心から歓迎した。
なぜなら、ジョスランは蛇神を退治しに行ったと知っているから。
だから、無事に戻ったことを心から喜んだ。
しかも、蛇神は無事に退治し、更に我が領地に精霊士が誕生したという。
空で爆発した何かも、闇の精霊の力だとジョスランが説明。
ついでに、精霊の名前がレアで、たぶん上級精霊であることも教えてくれた。
あと、レアは食にうるさいから気を付けるようにとも。
「いやぁ、今日は素晴らしい日だね。クロエちゃんもヨロシク。客人としてもてなすから、楽にしていいよ」
ニコニコと笑いながら、アンジェロはクロエに言った。
「あ、はい領主様。ありがとうございます」
クロエはやや緊張した様子だった。
と、会話が一段落した瞬間、闇の精霊レアがアンジェロに対して思念を送りつけた。
アンジェロはその思念がレアのものだと即座に理解した。
「な、なんてことだろう……」
アンジェロは引きつった表情を浮かべる。
「どうしたのだ兄上」とジョスラン。
「今、レア様から啓示を頂いた」
「「!?」」
クロエとジョスランが驚いた風に目を丸くした。
「クロエを娘として育てよと」アンジェロが言う。「父となれ、と」
「ええ!?」
クロエが素っ頓狂な声を上げた。
「クロエは将来、魔術王になる器」アンジェロが続ける。「全てをその手の上に乗せるだろう」
「なっ!?」ジョスランが驚く。「精霊士の上、魔術王!?」
アンジェロが頷く。
「あと、何かペットを飼うようにと」
アンジェロがクロエに視線をやる。
「えっと、あの……その……あたしは魔術をやったことないです……」
ついでに精霊士かどうかも怪しい、とクロエ自身は思っている。
「大丈夫だよ、我が娘よ」キリッとした表情でアンジェロが言う。「君には最高の教育を施すからね。なんならうちの領地継ぐ?」