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5話 可愛くて凶悪な闇の精霊


(あぁビックリしたぁ!)


 あたしは心臓がバクバクだった。

 レアが突然、怒ったような顔で唸り始めたからである。

 でもジョスランたちが感謝の意を示したら、レアの機嫌は直った。

 ジョスランたちも青い顔をしていたが、今は落ち着きを取り戻している。


 と、レアがゴブリンの死体の山を指さした。

 あたしはピーンとレアの言いたいことを理解した。

 心と心が通じ合った気がした。

 なので、レアの言いたいことをジョスランに伝える。


「ゴブリンを食べようと言っています」

「何?」


 ジョスランが引きつった表情を浮かべた。


「レアは蛇神の時も、このように指をさしてから、調理を開始しました」

「……それはその、ワシらにも食えと?」

「そうだと思います。レアは蛇神も分け与えましたから!」


 ジョスランがレアを見ると、レアがニコッと笑った。

 仕方ない、という微妙な表情でジョスランが頷いた。

 食べる覚悟を決めたんだなぁ、とあたしは思った。


 そうすると、レアがゴブリンの死体を浮かせる。

 そして右手に黒い剣を創造し、ゴブリンの死体をステーキサイズに切った。

 そして剣を仕舞い、黒い炎でゴブ肉を焼き、どこから出したのか調味料らしき物を振りかける。


「魔術聖以上で使える【空間収納】か」とジョスラン。


 魔術聖は確か、剣聖の魔法使いバージョン。

 魔術や剣術の十段の上は、それぞれ魔術王、剣王。

 端的に王級なんて呼ばれている。

 その上の境地が聖級。

 この辺りは田舎育ちのあたしでも知ってること。


「これでレアが中級精霊以上であることは確定した」とジョスラン。


 と、レアが宙に浮いている調理済みのゴブリンステーキを指さし、次にジョスランを指さした。


「ワシに先に食えと……そういうことか……」


 ジョスランは涙目でゴブリンステーキを掴み、覚悟を決めるように小さく呼吸をしてから、それを食った。

 ジョスランの顔がみるみる歪む。

 とっても不味かったのだなぁ、とあたしは思った。



 どうやらゴブリンステーキ(以下ゴブステ)はあまり美味しくないようだ。

 イケオジが涙目になりながら食べている。

 いや、無理しなくてもいいのでは?

 しかし、イケオジの好みに合わないだけ、という可能性もある。


 私はイケオジの部下たちにも、調理したゴブステを食べていいよと言った。

 言ったというか、ジェスチャで示した。

 部下たちは恐る恐るゴブステを頬張り、そしてやっぱり泣いた。

 そんなに不味いの?


 私は食べるの止めておこうかな、って思ったけど、この世界の人間と私の味覚に大きな差がある可能性も僅かに存在している。

 故に、私は征く!

 ガブッとな。


 うん、獣臭い。

 そして筋っぽいし全然、美味しくない。

 これはキツい。

 知的生命体の食べ物ではない。


 残念だけどゴブステは野犬にでも処理してもらおう。

 私はソッとゴブステを地面に置いた。

 それを見て、イケオジたちが目を丸くした。

 え? ダメなの?


 しばらく見詰め合う私とイケオジたち。

 クロエがオロオロと私を見て、イケオジを見て、また私を見た。

 私は微笑みを浮かべた。

 だいたいの場合、笑っておけば何とかなる。


 イケオジがゆっくりと、本当にゆっくりと地面に膝を突き、ゴブステを地面に置いた。

 私と目を合わせたまま。

 何?

 本当、何?

 私の真似してるの?


 どういう状況なのこれ。

 イケオジの部下たちも同じようにゴブステを置いた。

 沈黙。

 私はゴブステを指さし、そしてゲロゲロ、と吐くジェスチャをやってみた。

 そうすると、イケオジたちがウンウンと頷いた。

 意思疎通できた!


 って、ちょっと待てよ。

 私は古い魔法を1つ思い出した。

 こちらの思念を相手に伝える魔法があったはずだ。

 その魔法を使えば、もっと意思疎通できるのでは?


 私はこっちの言葉を覚える気はサラサラないので、ちょっと試してみよう。

 えっと、こうかな?

 私はとりあえず、クロエに私の思念を伝えた。

 ゴブステの不味さは世界崩壊レベルだったよ、という自称ウィットに富んだ内容。



「はっ!?」


 あたしの脳に突然、自分のものではないイメージが浮かんだ。

 それがレアのものであると、なぜか理解できた。


「どうしたのだクロエ」とジョスラン。


「大変ですジョスラン様」あたしが言う。「あたし、今、頭の中でレアの伝えたいことが理解できました!」


「おお! 素晴らしい! やはり君は精霊士だ!」ジョスランが喜んで言う。「それでレアは何と言ったのだ!?」


「こんなクソ不味い物を食べさせるなんて許せない、この世界を崩壊させてやる、という意味でした!」


「おおおお!?」とジョスラン。

「いや自分で調理したんじゃん!?」とジョスランの部下。


「あ、更に続きです」クロエが言う。「美味しい物を用意しなければ皆殺しだと言っています!」


「皆殺しってワシらをか!?」

「団長、僕ら以外、誰もいませんよ!」


「なんて凶悪な……でも闇の精霊って本来そうだったかも?」と女性の部下。


「ええい、仕方ない! 近くに川があったはずだ」ジョスランが言う。「魚を捕るのだ貴様ら! 征くぞ!」



 イケオジたちが走ってどこかに行ってしまった。

 どうしたの急に!?

 私とクロエだけがポツンと残された。

 まぁいいか、馬も野営道具もここにあるのだから、そのうち戻るでしょ。

 私はクロエの服の袖を引っ張って、座るよう促す。


 クロエは焚き火の前にちょこんと座った。

 私はクロエの膝の上で寝転がる。

 美幼女の太もも最高!

 で、私はそのまま寝ちゃったってわけ。



 ジョスランたちが魚を確保して戻った時、レアはあたしの膝の上でスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。

 こうして見ると可愛い妖精さんみたい。

 凶悪な闇の精霊だとは思えない。


「……まぁ魚は調理するが……」


 ジョスランはレアを見て、すっごく微妙な表情で言った。

 だってレアのために魚を捕りに行ったのに、肝心のレアは寝ちゃってるもんね!

 ジョスランたちは魚を捌いて木の枝を串代わりに、焚き火で魚を焼いた。

 そうすると、いい匂いがするとばかりにレアが目を醒ます。


「闇の精霊は食いしん坊なのか?」ジョスランが小声で言った。「あるいはこの個体……レアだけがそうなのかもしれんが」


 精霊にも個人差のようなものが存在している、と聞いたことがある。

 大まかな傾向はみんな同じだけど、細かい部分で微妙に違うのだとか。

 まぁ、人間や魔物もそうなのだけど、精霊の個人差は人間より少ないらしい。


「レアは魚が欲しいみたいです」とあたし。


「それはワシでも見たら分かる……」


 ジョスランは串に刺さった魚をレアに手渡す。

 レアは自分より大きな魚が刺さった串を、軽々と持っていた。

 そして少し悩んでから、スパパパ、と魚を細かく刻む。

 刻んだ魚は宙に浮いていて、レアはそれを1つずつ食べた。

 笑顔なので、きっと美味かったのだろう、とあたしは思った。


「レアは食事にうるさい可能性があると兄上に伝えておこう」ジョスランが呟く。「不味い物を食べさせて、世界を破壊されては堪らない」


「レアは世界を壊せるぐらい、強いんですか?」


 あたしはちょっと怖くなって聞いた。


「いや、精霊神でもなければ、世界をどうこうするほどの強さはないだろう……うちの領地はレアのレベルでも十分に危ないが……」


 あたしはそれを聞いて、少しだけ安心した。

 ちなみに精霊の階級は低い方から下級精霊、中級精霊、上級精霊、精霊王、そして一番上が精霊神。

 神殿とかで祀られているのが精霊神。

 ちなみに、精霊神が人間と契約したことは一度もない。

 歴史上、ただの一度もない、と聞いたことがある。



 2日ほど移動に費やして、大きな街にやってきた。

 クロエがキョロキョロと珍しそうに周囲を見回している。

 クロエは相変わらず、イケオジと一緒に馬に乗っていた。

 イケオジたちは人気があるのか、人々が集まって手を振っている。


 馬を歩かせながら、イケオジたちが手を振り返す。

 これは手乗り魔王である私も手を振っておくべきだろう。

 私は笑顔で両手をフリフリして、更にサービスで【暗黒花火】を打ち上げておいた。

 ドーン、ドーンと大きな音を立てて、巨大な黒い花火が炸裂。

 青空に映えるなぁ。

 どう? 綺麗でしょ?


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