4話 ゴブリンは食べ物ですか?
私たちは森を抜け、そこから馬に乗って移動を始めた。
クロエはイケオジの前に乗っていて、私はクロエの近くを飛んでいる。
クロエの家は遠いのかな?
そんなことを考えていると、やがて日が落ちて、一行は野営の準備を始めた。
本当、遠いじゃん、と私は思った。
まぁでも、野営も悪くない。
私も経験あるよ。
夕飯は何にするんだろう?
とか思っていたら、ゴブリンがワラワラと寄ってきた。
私の世界にいたゴブリンと見た目はほとんど同じ。
あ、大きさ以外ね。
私はゴブリンたちを観察していたのだが、あることに気付いた。
うん?
こいつら、敵意があるね。
この世界では人間より魔物の方が好戦的なのかな?
蛇も狼も襲ってきたし。
いや、あいつらは弱いし、魔物ではなかったのかも。
「「ニンゲン、オンナ、タネツケ」」
ゴブリンたちが一斉に大きな声でそう言った。
何を言ったのかサッパリ分からないけど、イケオジの仲間の女性がブルブルっと震えた。
クロエも不安そうに私を見た。
「「オトコ、イラナイ、コロス」」
ふむ。
ゴブリンの肉って美味しいのかな?
ゴブリンたちの肌は緑色で、背丈はクロエと同じぐらい。
それとは別に、イケオジぐらいの大きさのゴブリンもいる。
たぶんホブゴブリンってやつだね。
更にもっと大きいゴブリンもいるのだけど、ええっと、ゴブリンキングって種族かな。
この世界に存在している種族は、私の世界とあまり差異はないのかも。
もう一回言うけど、大きさ以外。
さて、ゴブリンたちが棍棒片手に襲いかかってきたのだが、イケオジたちが剣を抜いて対応。
私はとりあえず、眺めることに。
クロエが攻撃されたら助けるけど、イケオジたちは別にいいかな。
ちょうど、この世界の人間がどの程度強いか知りたいと思っていたし。
というわけで、戦闘を見学。
どうやら、このチームの中ではイケオジが飛び抜けて強いみたい。
指示を出しているし、リーダーなのだろう。
まぁ雰囲気でそうだろうと思ってたけども。
「とはいえ、あんまり強くないかな」
私はボソッと言った。
言葉は通じないから、大きな声で言っても別に問題はないけれど。
◇
「クソ、なぜゴブリンの群れがっ!」
ジョスランは2本の剣でゴブリンたちを斬り裂きながら言った。
この辺は森や山が多いので、魔物と遭遇することもある。
しかし、数が多すぎる。
「どこかの村を襲うつもりだったのでは!?」
ジョスランの部下がそう言った。
部下たちも必死に剣を振っている。
ゴブリンはさほど強くない。
剣術でいうなら、3段の実力があれば倒せる。
ホブゴブリンも4段あれば十分。
キングでも5段で勝てる。
なので、実力的にはジョスランたちの方が上なのだが、なにせ数が多い。
「周辺のゴブリンがみんな集まったって感じですかね!?」
また別の部下が言った。
まぁそうなのだろう、とジョスランは思った。
「運が良かった」ジョスランが言う。「こいつらが村を襲う前に撃退できるからな!」
◇
いやぁ、焚き火って見てると癒やされるよねぇ。
私は野営地の中心にある焚き火の近くに座り、「あったかーい」なんて呟いていた。
私の近くで、クロエがオロオロしている。
星明かりと月明かりの下、のんびり焚き火を眺める。
うん、いいね!
ゴブリンやイケオジたちの叫び声もオーケストラみたいなもん。
と、クロエが四つん這いになって私に何かを言った。
割と必死な様子なので、たぶんゴブリンが怖いのだろう。
私はイケオジたちを確認した。
どうやら苦戦しているみたいね。
ほとんどのゴブリンとホブゴブリンを倒したけど、キング3体に押されている。
イケオジたちの方が強いと思ったけど……。
どうやら私の予想より体力がないみたいね。
え? 何? 助けた方がいいの?
そういう流れ?
ジッとクロエを見詰めると、クロエが涙目になってイケオジたちを指さす。
仕方ないなぁ。
行雲流水、私は流れには逆らわずに生きていく。
とはいえ、いくら流れでも敵意のない相手を攻撃したりはしない。
今回の場合、ゴブリンたちは私やクロエにも明確な敵意を持っていた。
だからまぁ、やりますか。
私は宙に浮いて、人差し指をゴブリンキングに向ける。
そして【魔弾】を発射。
私の魔弾は真っ直ぐキングに向かって飛翔し、命中。
キングの上半身が消し飛んだ。
おっと、オーバーキルかな?
どうやら私はこの世界でも本当に強いらしい。
良かった良かった。
前の世界では最強でも、この世界では塵芥、ってことも有り得たわけで。
まぁそれならそれで、ヒッソリ生きるだけ!
イケオジたちとキング2体がポカンと口を開けて私を見た。
えっと? 助けない方が良かった感じ?
よく分からないので、クロエを見る。
クロエもポカンとしていた。
◇
「なんだあの威力は……」
ジョスランは開いた口が塞がらなかった。
どう考えても下級精霊じゃないだろレアは、とジョスランは思った。
中級精霊か、もしかしたら上級精霊も有り得る。
(万が一にも上級精霊だったら……)
ゴクリ、と唾を飲むジョスラン。
上級精霊は戦闘能力だけでも、剣王より上位の剣聖に匹敵する。
そもそも、上級精霊自体が、各属性10人前後しか存在していない。
その中で更に、人間と契約を結んでくれる者がどれほどいるだろうか。
「てゆーか、何をしたんだ?」
ジョスランの部下はレアが何をしたのか少しも分からなかった。
ジョスランですら、何か魔力を飛ばしたようだ、としか認識できていない。
ゴブリンキングたちがジリジリと下がっている。
どうやら撤退する気らしい、とジョスランは察した。
正直ジョスランたちも限界だったので、このまま撤退して欲しい。
ゴブリンの群れは壊滅状態だし、数年は村を襲うこともない。
レアがクロエを見て、ジョスランを見て、小さく肩を竦めた。
(どういう感情なのだ?)
レアのジェスチャがサッパリ分からないジョスランだった。
「あ、ありがとうレア」
クロエが我に返って、ソッと手を伸ばす。
その手の上にレアが着地。
(こうして見ると、可愛い光景なのだが……)
しかしレアの戦闘能力は凶悪そのもの。
敵に回ったら領地壊滅まで有り得る。
なんせ、この領地で一番強いのがジョスランなのだ。
少なくとも、ジョスランはそう信じている。
(クロエはメイドにするのではなく、客人としてもてなした方が良さそうだと兄上に進言しておくか)
◇
さて、ここで問題です。
ゴブリンって食べ物じゃないよね?
いざ食べようと思ったらさ、ちょっとキモいなって思って。
どうしようかな。
あ、ちなみにキング2匹はそそくさと立ち去った。
さすがの私も、怯えて逃げている相手を追撃するほど凶悪じゃない。
イケオジたちもスルーしていたので、問題ないはず。
「食べるべきか、食べざるべきか」
私のセカンドライフを刺激的なものにしたいなら、食べる一択。
何事も挑戦ってね。
でもキモいという気持ちもまた真実。
うーん、と私は唸った。
クロエが少し慌てたように何か言っている。
イケオジたちも寄ってきて、私に頭を下げた。
助けたから?
ふはははは! 気にするな!
私は胸を張って笑った。
そうすると、クロエがホッと息を吐いた。
私はゴブリンの死体を指さした。
ここはクロエの意見を聞いてみよう。
案外、こっちの世界ではゴブリンは主食かもしれないし。
キモいけど、クロエが食べるなら私も食べよう。
そう、難しい選択は他人に丸投げ!
私は決断しない魔王!
常に検討中!
そんな生き方に憧れていたっ!
なんせ、前の世界じゃ私が色々と決めなきゃいけなかったわけで。
クロエはイケオジを見て、何か言っている。
イケオジは少し迷ったような表情をしている。
ふむ。
こっちでもゴブリンは食べ物ではない、のかな?
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