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最終話 今日から聖女


 今日はあたしの聖女就任式だ。

 大事なことだからもう一回、心の中で唱えるけど、今日はあたしの聖女就任式なの!

 どうしてこうなった……。

 あたしは王都中神殿の一室で小さく溜息を吐いた。


「緊張してんのかい?」


 ブレンダが優しくあたしの肩に手を置いた。


「大丈夫、色々と思い返していただけ」


 全部暗殺者たちのせい。

 そう、あたしは色々な勢力に命を狙われているのだ。

 理由は『アルグッド王国だけが強いあたしを持っているのは許せない』という感じらしい。

 あたしがこの世から消えれば、均衡を保てると考えてるアホがいるんだって。

 本当、ふぁっきゅ!


「クロエがうちに来て、もう1年半ぐらい経ったね」


 アンジェロがニコニコと笑った。

 この部屋にはリニイ伯爵家が勢揃いしている。

 護衛としてジョスランとエルも一緒だ。

 もちろん、レアとムギとルナベルもいる。


「安心しろって」パストルが言う。「神殿の所属になっても、お前がクロエ・リニイなのは変わらねぇよ」


 パストルがあたしの頭を撫でようとして、ムギを退けた。

 今日もあたしの頭にしがみついていたのだ、ムギは。

 さて、あたしが神殿の所属になる理由は、『神殿は大陸規模の組織だから』である。

 神殿は各国にあるし、どこかの国を贔屓するということもない。


 たぶんね。

 要するに、『アルグッド王国のクロエ』から『みんなのクロエ』になるってわけ。

 人気者は辛いね!

 贅沢しながら静かに暮らしたいのにぃぃぃ!


「困ったことがあれば、いつでもお兄ちゃんに言うんだよ」


 穏やかな笑みを浮かべつつ、上の兄ウィンストンが言った。

 リニイ伯爵家って本当、みんな優しいなぁ。

 と、部屋のドアが開いて、大司祭のイレナが助祭たちと入って来た。


「クロエ様、演説のお時間です」


 ちなみにだけど、聖女の地位は神殿が新しく作ったもので、枢機卿と同等と定められた。

 なので、あたしの上には教皇しかいないのである!


 しかし権力には義務が付きもので、聖女は時々、ケガや病気で困っている人たちを癒やさなければいけない。

 まぁ【ヒール】一発だから、そんなに大変じゃないけどね!

 神殿内で大きな顔ができるのだから、そのぐらいはね!


「感慨深いな」ジョスランがしんみりと言う。「あの日、蛇神の泉で出会った少女が、今では最強の精霊士か」


 最強なのはあたしじゃなくて、レアだと思うけどね!

 あ、ムギもたぶん強いよ!

 とはいえ、今のあたしなら蛇神ぐらい倒せそうな気もする。


「その上、ドラゴンスレイヤーで聖女!」エルが楽しそうに言う。「いやぁ、面白いわぁ。これからクロエがどんな人生を歩むのか、うちはとっても気になるわぁ」


 贅沢しながら気ままに暮らすよ!

 面倒事にはもう関わりたくないっ!

 あたしがそう思っていても、向こうからダッシュであたしに体当たりしてくるんだけどね!



 クロエ・リニイの暗殺を命じられたとある魔術王は、空から中神殿を見下ろしていた。

 神殿には多くの人が詰めかけていて、敷地外にも溢れている。


「ふん。何が聖女だ」魔術王が呟く。「大陸の調和を乱すクソ女め。ワシはそこらの殺し屋とは格が違うぞ。必ず殺してやる」


 魔術王は【浮遊】と【認識阻害】を同時に使っている。

 魔術聖に近い能力を持っているのだ。

 この魔術王はとある帝国の軍、それも特務隊に所属している。


「有象無象の暗殺者どもは、全員返り討ちにあったらしいが……」


 そいつらは自分に比べたら所詮は雑魚に過ぎない、と魔術王は思った。


「出て来たか……」


 神殿の広いバルコニーに、クロエとその家族、それから神殿関係者が顔を出した。

 大きな歓声が上がる。

 クロエは用意されていた台の上に乗った。

 そうしないと、民衆から見えないのだ。


「サッと殺して、サッと帰る」


 いつもと同じだ。

 相手が誰であっても、そのスタイルで殺してきた。

 魔術王は【認識阻害】を付与した【マジックアロー】を用意。

 念のため、4本ほど自分の周囲に浮かせておく。

 それぞれの【マジックアロー】に【加速】を付与。

 バルコニーでは、まず教皇が挨拶をした。


「大陸の権威である教皇までもが……調和を乱す女を庇うとは」


 そもそも、教皇がホイホイと中神殿を訪れるな、と魔術王は思った。

 教皇の声には魔力が乗っていて、遠くまで響き渡った。

 要約すると、聖女に就任するクロエの紹介である。

 教皇は話が終わると同時に、クロエを示す。

 また大きな歓声。


「まだだ……殺すなら、演説が終わって、気が抜けた瞬間だ……」


 一瞬の気の緩みを狙う。

 それが最善だと、魔術王は経験で知っていた。


「しかし……なんて薄い演説っ!」


 民衆は真剣に聞いているが、クロエが言っているのは「頑張ります!」だけだ。

 聖女として民を救うという熱意は、これっぽっちも感じない。


「もう終わった!?」


 あまりにも高速で演説が終わってしまったので、魔術王は機を逃してしまった。


「くっ……仕方ない……タイミングはよくないが、引っ込まれる前に……」


 と、そう呟いた時。

 下から何か悍ましい魔力の塊のようなものが飛んで来た。


「うん?」


 それが何か確認するよりも早く、その魔力の塊のような何かが炸裂した。

 魔術王はその爆発に巻き込まれて、絶命した。



 やっぱりこういうセレモニーみたいなのは、花火で締めないとね!

 私はクロエの演説が終わったと同時に、空に【暗黒花火】を打ち上げた。

 空でどーんと弾ける黒い花火は、何度見ても綺麗!

 よぉし、どんどん打ち上げるよぉ!

 私は調子に乗って、ポンポンポンポンと花火を上げた。

 いえーい!


「レア! レア!」


 クロエが私の名前を呼んで、ガシッと乱暴に私を掴む。

 ああん!

 クロエに掴まれるとゾクゾクするぅ!

 ところでこれ、何のセレモニーなんだろうね!

 もしかして花火打ち上げちゃダメな感じのセレモニーだったのかな!?


 お葬式とか!

 いや、こんな楽しそうなお葬式あってたまるか。

 集まった民衆とか熱狂してるじゃん。

 私の飼い主って実はすごい人物だったのかな!?

 家出して泉で蛇に食べられそうになってたのにね。


 と、クロエが私を自分の肩に座らせる。

 なんだかクロエの肩が私の指定席みたいになってる!

 そして頭はムギの指定席!

 とか考えていると、クロエとその家族はバルコニーから神殿の中へと移動。

 それからなんか広い空間で立食パーティが始まった。


 私、クロエ、ムギ、ルナベルは美味しそうな食べ物を片っ端から食べていく!

 ほろ苦い大人の味みたいな料理があって、ムギが気に入って全部食べちゃった!

 クロエが「あたしも欲しかったのに」って表情。

 その後、クロエに飛び付こうとした男性がいて、クロエが回転飛び回し蹴りで撃退。

 おいおい、いくらクロエが可愛いからって、それはないわぁ。


 てゆーか、お前大人じゃん、このロリコンめ!

 こういう奴、多いんだよね。

 最近、クロエの可愛さが広まったせいか、ストーカーしてる奴を大量に見つけて、全員粛正してやったんだよね。

 あ、殺してないよ?


 ウッカリ死んだ人も【蘇生】したし。

 はっはー!

 クロエはやらん!

 やらんぞぉ!

 少なくともストーカーするようなタイプには、絶対やらん。



 ほぉら面倒事が体当たりしてきた!

 蹴り飛ばしたけどさ!

 パーティでも狙われるなんて、警備どうなってんの!?

 実は料理にも毒が混じってたりするんじゃないの!?

 まぁ、レアがいれば解毒ぐらいできるだろうし、あんまり気にしてないけどね!


 それにしても神殿のパーティって地味だね。

 ダンスとか音楽とかないし。

 あたし、授業でダンスも習ったのだけど、未だに披露したことがない。

 おうちに帰ったらレアとダンスごっこでもしよーっと。



 その夜、私はクロエと月明かりの下でダンスした。

 なんでかは分からないけど、クロエに誘われたから!

 まぁダンスって言うか、私は飛んでるんだけどね!

 周囲にムギも飛んでいて、ルナベルも地面を駆けている。


 聖女クロエとそのペットたち、ってタイトルで絵にできそう!

 パス君たちクロエの家族は私たちのダンスを見て、パチパチと拍手を送った。

 うーん、よく分からないけど、今日も平和な一日だったね!



これで『手乗り魔王のセカンドライフ』は完結となります!

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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