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5話 王家のお茶会・後編


 なぜか朝からレアがくっ付いてきて、パストルはとても疲れていた。


(くっそ、普段から俺は囲まれることが多いのに、今日は特にやべぇ)


 噂のクロエ・リニイについて、パストルはみんなに聞かれるのだ。

 そう、別にパストル自身に人気があるわけじゃない。

 男子はみんなあわよくばクロエの婚約者に、とか思っている。


 女子は女子で『クロエの兄であるパストル』の婚約者に、と思っているのでアプローチを躱すのがもう大変なのだ。

 それなのに、今日はレアまで一緒で、本当に疲れた、とパストルは長い息を吐いた。

 やっと全ての授業が終わり、帰宅する時間となった。

 パストルは校舎から出て、天を仰いだ。


(今日は歩いて帰るか……)


 貴族の子供たちは基本的に馬車で登下校を行っている。

 準貴族の子供たちは歩いて帰る子も割と多いけれど。

 ちなみに、レアは下校する生徒たちに手を振っている。

 パストルの頭の上から。


(こいつ自分が人気者だって分かってやってるな?)


 やれやれ、とパストルは小さく肩を竦めた。

 そして校門を出て左へと進む。

 道には貴族の馬車がズラッと停まっていて、生徒たちが乗り込み、馬車が出発するという光景が広がっている。


 パストルはリニイ伯爵家の馬車を目指して進む。

 歩いて帰るにしても、御者に伝える必要がある。

 と、紋章のない馬車の横を通り過ぎようとした時。

 馬車のドアが開いて、中から出て来た男たちがパストルを馬車の中に引きずり込んだ。


(うお!? マジかよ! ここで拉致すんのか!?)


 貴族院の周囲は憲兵ではなく騎士たちが施設防護を担当している。


(いや、馬車に紛れることができるから、ありっちゃありなのか?)


 パストルは冷静だった。


「暴れるんじゃねぇぞ、パストル・リニイ」とリーダー格の男。

「アニキ、こいつの頭にいるのって、闇の精霊なんじゃ……」と子分A。

「マジか、闇の精霊なんて聞いてねぇよ……」と子分B。


(こいつら、誰かに雇われたのか?)



「クロエ・リニイ! 顔を見せろ!」


 シプリアンが怒鳴ったので、あたしは仕方なくシプリアンの前に移動して顔を見せた。

 どう? 可愛いでしょ?

 あたしが見上げると、シプリアンは少し頬を染めた。


 やっぱあたしってば可愛いよね!

 分かる分かる!

 チラッとマイラ姫を確認すると、今はとても冷静な感じで、あたしの対応を観察しているように感じた。


「ふん、悪くない。子分よりは妻にしてやろう!」

「え、嫌ですけど」

「なんだと!? 貴様! 俺様を誰だと思ってる!」

「知りません。あなた名乗ってないですし」

「な……なんという無礼! 俺様はこの国の王太子だぞ!」


 いや、お前、王太子違う!

 お前ただのボンクラや!

 あたしはもう一回マイラ姫をチラ見。

 そうすると、マイラ姫は笑いを堪えていた!

 だよね!

 そういう反応になるよね!


「俺様が次の王になるんだぞ!」


 シプリアンが言って、マイラ姫が咳き込んだ。

 いや、正しくは爆笑しかけてなんとか耐えたのだ!

 あたしですらシプリアンがボンクラだって知ってるのに、王様になれるわけない。


「貴様が俺様を王にするんだクロエ・リニイ」

「え? 嫌ですけど」

「我が儘を言うな!」


 お前がな!!


「いいかよく聞け、お前の兄は預かっている」

「どっちのです?」

「次男の方だ。今頃、誘拐されて助けを待っていることだろう」


 パストルの方か。

 良かった、とあたしは安堵の息を吐いた。


「お兄様、そこまで愚かだったのですか……」


 マイラ姫が信じられない、という表情で言った。

 あたしも信じられないよ!

 パストルってだって、元々は冒険者志望だし、レアがあたしのついでに改造してるから強いんだよ?


 てゆーか、レアが今日は一緒にいるんだけど!

 まさか……レアはこのことを予期してたの?

 さすが闇の精霊王、なんでも知ってる!

 ……あたしの考えすぎ?


「ふん、俺様は必ず王になってやる。正妃のガキどもめ、いつも俺様を見下しやがって。俺様が王になったら残酷に殺してやる」


 ゆ、歪んでるぅぅぅぅ!


「さぁクロエ! 兄の命が惜しければ……」


 あたしは無言でシプリアンを指さした。

 なぜ指さされたのか分からないシプリアンがキョトンとする。

 次の瞬間、あたしの頭にしがみついていたムギが火を噴いた。

 その火はシプリアンを飲み込んで、シプリアンが焼けながら叫び、のたうち回る。

 肉の焼ける臭いがするけど、全然美味しそうじゃない!


「王子!」「王子!」


 護衛騎士たちがあたふたしている。

 あたしは【ヒール】でシプリアンの大やけどを治してあげる。

 シプリアンは泣きながら肩で息をしている。

 シプリアンが「き、貴様! 絶対にゆる……」と言ったところで、あたしはもう一回シプリアンを指さした。



 小汚いオッサンが唾を飛ばしてきて腹が立ったので、軽くビンタしちゃった。

 そうすると、オッサンは馬車の壁を貫いて外まで飛んで行った。

 ……あれ?

 もしかして死んじゃった?


 この世界の人間、弱すぎるぅぅぅぅ!

 手加減したのにぃぃぃ!

 私は一応、【蘇生】を使って生き返らせる。

 死んですぐなら割と高確率で助かる魔法。


 残ったオッサン2人が揃って「ひぃ」と声を上げた。

 どうやら、すごく怖がっているみたい。

 ごめんって!

 私もあの程度のビンタで死ぬなんて思わなかったんだよぉ!


 でもこの人たち、パス君を攫おうとしたように見えたし、別に死んでもいいのでは?

 そう思ってパス君を見ると、ニコッと笑って親指を立てた。

 うん!

 大丈夫そう!


 いや、だからって進んで殺そうとは思わないけどさ!

 今の私はただのペットだし!

 もしかしたら今のも、主人を守ろうとした従順なペットって認識してくれたのかも!

 オッサンの唾が汚かっただけ、なんだけどね!



(なるほど、レアが俺に付いてきたのは、これを予期してたのか)


 パストルは馬車を降りて、大きな声で騎士を呼んだ。

 騎士たちはすぐにパストルを拉致しようとした3人を逮捕。

 帰宅してから、シプリアン王子に雇われた連中だとクロエに聞いた。

 そしてクロエとパストルは「レアって未来も分かるのかな?」なんて話に花を咲かせたのだった。



 燃やす、治す、燃やす、治すを繰り返すと、シプリアンは土下座した。


「俺さ……いいえ、わたくしが悪かったですクロエ様……もう焼かないでください」


 ちなみに高価そうな王子の服は完全に燃えて灰になっていたので、シプリアンは全裸である。


「うん、いいよ」あたしは笑顔で言う。「もう行って」


 あたしがヒラヒラと手を振ると、護衛騎士2人に支えられたシプリアンがトボトボとどこかに歩いて行った。


「あー楽しかった♪」


 ウッカリ本音を漏らしながら、あたしは椅子に座り直した。

 言ってしまったあとで、しまった、と思った。

 いつもなら心の中に留めているあたしの大事な本音がぁぁあ!


 このままじゃ、あたしは人をいたぶって喜ぶ変態だって認定されちゃう!

 別にそういう趣味があるわけじゃなくて、ああいうムカつく奴をやっつけてスカッとしたって意味なの!

 って、心の中で言い訳しても意味ないじゃぁぁぁん!


「わたくしも、楽しかったですよ」


 クスクスとマイラ姫が笑った。

 良かった!

 まぁマイラ姫って、明らかにシプリアンのこと嫌いって雰囲気だったしね。


「ところで、クロエはお兄さんの心配はしませんの?」

「あー、絶対に元気だから問題ないよ。お兄様強いし、闇の精霊一号も一緒だし」

「それなら良かったですわ。ところで今度、一号の方も紹介して欲しいですわ」

「うん、いいよ!」


 あたしはいつの間にか、敬語を使うのを忘れていたけど、マイラ姫は気にしなかった。

 あたしはマイラ姫とは仲良くなれそうな気がした。

 ちなみにシプリアンはあたしに絡んだことがバレて、後日廃嫡されてしまった。

 ついでに、また王家から金銀財宝があたしとパストル宛てに大量に届いたのだった。

 こんなの、いくらあってもいいからね!

 レアに何か買ってあげよーっと!


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