3話 名前を呼び合う仲
なんか偉ぶったイケオジがやって来た!
私と金髪幼女が蛇肉をハムハムしていると、匂いに釣られたのか人間たちが出現した。
ちなみに蛇肉は割と美味しかった。
香草や調味料も私の【空間収納】から取り出して振りかけている。
金髪幼女も蛇肉が気に入ったようで、美味しそうにかぶり付いている。
って、いつまでも金髪幼女とか女の子って言うのもアレだし、何か愛称でも付けよう。
ゴールドの髪にブルーの瞳、合わせてゴブ!
……いや、女の子にゴブはないだろう私。
まぁ言葉が通じなくても、自分の名前ぐらいはお互いに伝えられるのでは?
あとで試そう。
それよりも、物欲しそうなイケオジたちにお肉を分けてあげよう。
私は愉快で優しくて善良な手乗り魔王だよ! ってアピール。
こっちの世界でも人類と敵対とか嫌だしね。
イケオジたちは驚いた表情で肉を受け取った。
ん?
私が肉を素直に譲ったから驚いてるのかな?
ふふっ、私は行雲流水の姿勢。
流れには逆らわないのさ!
◇
「蛇肉うっま!」
蛇神の肉を食べた兵士の1人がホクホク顔で言った。
あたしがチラッと闇の精霊を見ると、ニコニコしている。
ちなみに、闇の精霊は自分で宙に浮いていた。
「あ、あの……」あたしはリーダーっぽい、イケてるおじさんに視線を移した。「兵士さんたちは……その……」
ちょっとあざといかな? と思いながらも怯えた様子を出しておく。
「ああ、ワシらは蛇神を倒しにきたのだが……うむ、美味いな蛇神」
イケてるおじさんが蛇神の肉を食べながら言った。
「やっぱりそうでしたか」とあたし。
よぉし、この人たちは安全だぞぉ。
「時に少女よ」ジョスランが言う。「君は生贄、だったのではないか?」
各種お供え物や、あたしの簡素だけど清潔な服装を見て判断したのかな。
あたしがコクンと頷く。
ちょっと悲しそうな雰囲気も出しておく。
「そうか……すまないな……ワシらが不甲斐ないばかりに」
「い、いえ! そんな! 大丈夫です! 闇の精霊様が助けてくれましたし!」
あたしは慌てた様子で言った。
本当は全然、これっぽっちも慌ててないけどね。
実際、この人たちが不甲斐ないせいで、あたしは食べられるところだったわけだし。
「つまり君は精霊士として覚醒した、ということだな?」
「え? それは……どうなのでしょうか」
あたしは困ってしまった。
確かに闇の精霊は願いを叶えてくれた。
でも別に契約を結んだわけではない。
え? 結んでないよね?
もしかして、気付かない間に契約しちゃったの?
「君には後ろ楯が必要だ」
「……え? 後ろ楯、ですか?」
あたしが言うと、イケてるおじさんが強く頷いた。
「精霊士が貴重なのは知っているだろう?」
「ええ、はい」
それこそ、あたしみたいな子供でも知っていることだ。
「攫われる可能性がある」
「ええ!?」
「単純に高値で売れる。欲しがる領主や王族は多い」ジョスランが言う。「精霊士は貴重で、丁寧に扱われているが、それは全て後ろ楯があるからなのだ。フリーの精霊士はほとんどいない。よほどの実力者でなければ、精霊士は自由に生きられない」
「そ、そうなんですか?」
あたしは少し怯えつつ言った。
本当に怯えているのだ。
せっかく生き残ったのに、誘拐されるなんて真っ平だよ。
「まぁでも、有名な傭兵の精霊士とかもいるし」兵士の1人が明るい声で言う。「強くなったら問題ないよお嬢ちゃん」
「だから君がよければ」イケてるおじさんが言う。「成人するまでリニイ伯爵家に身を寄せてはどうだろうか?」
「りょ、領主様のおうちですか!?」
あたしは素っ頓狂な声を上げた。
さっきまで普通の田舎娘というか、『生贄のクロエ』だったあたしにとって、領主は雲の上の人物だ。
「そこなら、君を守りながら知識と戦闘能力を与えられる。もちろん、いくつかの仕事はしてもらうだろう。しかし汚い仕事ではない。伯爵の人格は保証する」
「つまり、あたしは領主様のメイドになれる、と?」
あたしがパッと思い付いた仕事がメイドだった。
ちなみに平民の田舎娘にとって、それは大出世である。
これって玉の輿みたいなもんじゃない?
ラッキーかも!
ちょうど、これからどうしようかと悩んでいたし!
あたしが美人だから、精霊神が色々と助けてくれてるのかも!
「そんなところだろう」とジョスラン。
「あの、兵士さんは領主様とその、懇意なのですか?」
あたしはおっかなビックリ質問した。
「おっと、これは失礼」イケてるおじさんが丁寧に礼をした。「ワシはジョスラン・リニイ。領主の弟だ」
「き、貴族様でしたか!? 大変失礼しました!」
あたしはその場に伏せようとしたが、イケてるおじさん改めジョスランが慌てて制止。
「そんなことは、しなくていい。それより、君の名を教えてくれ」
◇
「クロエ……」
金髪幼女がイケオジにそう言った。
どうも見た感じ、自己紹介っぽいと私は思った。
まぁ違っていても特に問題はない。
私は金髪幼女の目の前に移動し、金髪幼女を指さし、「クロエ?」と質問した。
そうすると、金髪幼女は驚いた風に目を丸くしてから、コクコクと頷いた。
いやっほー!
金髪幼女の名前はクロエだね!
よしよし、私も自己紹介しよう。
「私はレア!」
私は右手で自分の胸を叩きながら言った。
「ワタシハレア?」とクロエ。
あ、違う。
「レア」と私は言い直した。
「レア?」
クロエは私を小さく指さして言った。
私は大きく頷く。
クロエがパッと花が咲いたように笑う。
「レア!」
「クロエ!」
お互いが指を指して、お互いの名前を言った。
ほら、言葉なんて通じなくても、なんとかなるものさ!
私たちがキャッキャしている様子を、イケオジたちがポカーンと眺めている。
私はクロエの肩に座った。
今日からここが私の椅子ね。
クロエがソッと人差し指で私の頭を撫でる。
まるでペット!
そう、今日から私は手乗り魔王!
よぉし、クロエが死ぬまではクロエの近くで過ごそう。
最初に出会った子だし、そういう流れだよね!
イケオジがコホンと咳払い。
私とクロエの視線がイケオジに向く。
イケオジはクロエに何かを言っている。
クロエが真剣な様子で頷いている。
何を喋っているのかサッパリ分からない。
が、雰囲気とジェスチャで『移動する』っぽいと理解。
家に帰る感じかな?
えっと、クロエが家に帰るのを、イケオジたちが送る、みたいな?
クロエの家、気になるね!
私の家にもなるわけだしね!
クロエに「お前みたいなハエはいらん」と言われない限り、くっ付いて行くよ私は!
そして早速移動開始。
私たちは森の中をズンズン進んだ。
私はクロエの肩に座っていたのだが、揺れてゲロ吐きそうになったので、途中から飛ぶことにした。
途中、狼が襲ってきたので蹴り飛ばしておいた。
どうやらこの世界でも私は強いみたいね。
人間とは戦ってないから、人間に通用するかは分からないけれど。
◇
「つっよ……」
ジョスランの女性部下が引きつった表情で言った。
あたしも完全に同意。
フォレストウルフと呼ばれる狼型の魔物が3匹出現し、その中の1匹があたしに飛びかかったのだけど、闇の精霊改めレアが一撃で葬ってしまった。
それを見た残りの2匹は速攻で撤退。
あたしがフォレストウルフでも逃げるよ!
レア超強い!
「時にクロエよ」歩きながらジョスランが言う。「レアは下級精霊なのか?」
「分かりません……」
「そうか。見た目は下級精霊だが、強さがちょっと下級の域ではない気がしてな。いや、闇の精霊は他の精霊より強いとされているが、それにしても強すぎるのでは、と思ってな」
ジョスランの言葉に部下たちもコクコクと頷く。
「あ、クロエちゃんは森を歩くのは平気?」部下の1人が言った。「お兄さんが抱っこしてあげようか?」
「大丈夫です。あたし、山菜採りでよく山に行ってましたし」
「そ、そっか……」と落ち込む部下。
「ロリコン」と女の部下がボソッと言った。
あたしは美人だから、色々な人に優しくされるのね!
唯一、くじ運だけは美人でもどうにもならなかった!
それから少し歩いて、ジョスランがあたしに質問する。
「レアは精霊界に帰らないのか?」
精霊は普段、別の世界で生活しているらしい。
そこがどんな世界なのか、あたしは詳しく知らない。
「えっと……あたし、レアの言葉が分からなくて……」
「ふむ。まぁ闇の精霊は他の精霊とは違うからな」ジョスランが言う。「精霊士の常識は通用せんか」
普通、精霊と契約を交わしたら、ある程度の意思疎通が可能になる。
でもあたしとレアは名前の交換がやっとだった。
(そもそも……あたし本当に精霊士なのかなぁ……)
かなり疑わしい、とあたしは思っている。
でも言わなかった。
せっかく領主の家でメイドになれるわけだし。
変なことを言って棒に振る必要はない。
4話は明日の18時に投稿します!
10話まで毎日更新の予定です!