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3話 名前を呼び合う仲


 なんか偉ぶったイケオジがやって来た!

 私と金髪幼女が蛇肉をハムハムしていると、匂いに釣られたのか人間たちが出現した。

 ちなみに蛇肉は割と美味しかった。

 香草や調味料も私の【空間収納】から取り出して振りかけている。

 金髪幼女も蛇肉が気に入ったようで、美味しそうにかぶり付いている。

 って、いつまでも金髪幼女とか女の子って言うのもアレだし、何か愛称でも付けよう。


 ゴールドの髪にブルーの瞳、合わせてゴブ!

 ……いや、女の子にゴブはないだろう私。

 まぁ言葉が通じなくても、自分の名前ぐらいはお互いに伝えられるのでは?

 あとで試そう。

 それよりも、物欲しそうなイケオジたちにお肉を分けてあげよう。

 私は愉快で優しくて善良な手乗り魔王だよ! ってアピール。


 こっちの世界でも人類と敵対とか嫌だしね。

 イケオジたちは驚いた表情で肉を受け取った。

 ん?

 私が肉を素直に譲ったから驚いてるのかな?

 ふふっ、私は行雲流水の姿勢。

 流れには逆らわないのさ!



「蛇肉うっま!」


 蛇神の肉を食べた兵士の1人がホクホク顔で言った。

 あたしがチラッと闇の精霊を見ると、ニコニコしている。

 ちなみに、闇の精霊は自分で宙に浮いていた。


「あ、あの……」あたしはリーダーっぽい、イケてるおじさんに視線を移した。「兵士さんたちは……その……」


 ちょっとあざといかな? と思いながらも怯えた様子を出しておく。


「ああ、ワシらは蛇神を倒しにきたのだが……うむ、美味いな蛇神」


 イケてるおじさんが蛇神の肉を食べながら言った。


「やっぱりそうでしたか」とあたし。


 よぉし、この人たちは安全だぞぉ。


「時に少女よ」ジョスランが言う。「君は生贄、だったのではないか?」


 各種お供え物や、あたしの簡素だけど清潔な服装を見て判断したのかな。

 あたしがコクンと頷く。

 ちょっと悲しそうな雰囲気も出しておく。


「そうか……すまないな……ワシらが不甲斐ないばかりに」

「い、いえ! そんな! 大丈夫です! 闇の精霊様が助けてくれましたし!」


 あたしは慌てた様子で言った。

 本当は全然、これっぽっちも慌ててないけどね。

 実際、この人たちが不甲斐ないせいで、あたしは食べられるところだったわけだし。


「つまり君は精霊士として覚醒した、ということだな?」

「え? それは……どうなのでしょうか」


 あたしは困ってしまった。

 確かに闇の精霊は願いを叶えてくれた。

 でも別に契約を結んだわけではない。

 え? 結んでないよね?

 もしかして、気付かない間に契約しちゃったの?


「君には後ろ楯が必要だ」

「……え? 後ろ楯、ですか?」


 あたしが言うと、イケてるおじさんが強く頷いた。


「精霊士が貴重なのは知っているだろう?」

「ええ、はい」


 それこそ、あたしみたいな子供でも知っていることだ。


「攫われる可能性がある」

「ええ!?」


「単純に高値で売れる。欲しがる領主や王族は多い」ジョスランが言う。「精霊士は貴重で、丁寧に扱われているが、それは全て後ろ楯があるからなのだ。フリーの精霊士はほとんどいない。よほどの実力者でなければ、精霊士は自由に生きられない」


「そ、そうなんですか?」


 あたしは少し怯えつつ言った。

 本当に怯えているのだ。

 せっかく生き残ったのに、誘拐されるなんて真っ平だよ。


「まぁでも、有名な傭兵の精霊士とかもいるし」兵士の1人が明るい声で言う。「強くなったら問題ないよお嬢ちゃん」


「だから君がよければ」イケてるおじさんが言う。「成人するまでリニイ伯爵家に身を寄せてはどうだろうか?」


「りょ、領主様のおうちですか!?」


 あたしは素っ頓狂な声を上げた。

 さっきまで普通の田舎娘というか、『生贄のクロエ』だったあたしにとって、領主は雲の上の人物だ。


「そこなら、君を守りながら知識と戦闘能力を与えられる。もちろん、いくつかの仕事はしてもらうだろう。しかし汚い仕事ではない。伯爵の人格は保証する」

「つまり、あたしは領主様のメイドになれる、と?」


 あたしがパッと思い付いた仕事がメイドだった。

 ちなみに平民の田舎娘にとって、それは大出世である。

 これって玉の輿みたいなもんじゃない?

 ラッキーかも!

 ちょうど、これからどうしようかと悩んでいたし!

 あたしが美人だから、精霊神が色々と助けてくれてるのかも!


「そんなところだろう」とジョスラン。


「あの、兵士さんは領主様とその、懇意なのですか?」


 あたしはおっかなビックリ質問した。


「おっと、これは失礼」イケてるおじさんが丁寧に礼をした。「ワシはジョスラン・リニイ。領主の弟だ」


「き、貴族様でしたか!? 大変失礼しました!」


 あたしはその場に伏せようとしたが、イケてるおじさん改めジョスランが慌てて制止。


「そんなことは、しなくていい。それより、君の名を教えてくれ」



「クロエ……」


 金髪幼女がイケオジにそう言った。

 どうも見た感じ、自己紹介っぽいと私は思った。

 まぁ違っていても特に問題はない。

 私は金髪幼女の目の前に移動し、金髪幼女を指さし、「クロエ?」と質問した。


 そうすると、金髪幼女は驚いた風に目を丸くしてから、コクコクと頷いた。

 いやっほー!

 金髪幼女の名前はクロエだね!

 よしよし、私も自己紹介しよう。


「私はレア!」


 私は右手で自分の胸を叩きながら言った。


「ワタシハレア?」とクロエ。


 あ、違う。


「レア」と私は言い直した。


「レア?」


 クロエは私を小さく指さして言った。

 私は大きく頷く。

 クロエがパッと花が咲いたように笑う。


「レア!」

「クロエ!」


 お互いが指を指して、お互いの名前を言った。

 ほら、言葉なんて通じなくても、なんとかなるものさ!

 私たちがキャッキャしている様子を、イケオジたちがポカーンと眺めている。

 私はクロエの肩に座った。


 今日からここが私の椅子ね。

 クロエがソッと人差し指で私の頭を撫でる。

 まるでペット!

 そう、今日から私は手乗り魔王!


 よぉし、クロエが死ぬまではクロエの近くで過ごそう。

 最初に出会った子だし、そういう流れだよね!

 イケオジがコホンと咳払い。

 私とクロエの視線がイケオジに向く。


 イケオジはクロエに何かを言っている。

 クロエが真剣な様子で頷いている。

 何を喋っているのかサッパリ分からない。

 が、雰囲気とジェスチャで『移動する』っぽいと理解。


 家に帰る感じかな?

 えっと、クロエが家に帰るのを、イケオジたちが送る、みたいな?

 クロエの家、気になるね!

 私の家にもなるわけだしね!


 クロエに「お前みたいなハエはいらん」と言われない限り、くっ付いて行くよ私は!

 そして早速移動開始。

 私たちは森の中をズンズン進んだ。

 私はクロエの肩に座っていたのだが、揺れてゲロ吐きそうになったので、途中から飛ぶことにした。


 途中、狼が襲ってきたので蹴り飛ばしておいた。

 どうやらこの世界でも私は強いみたいね。

 人間とは戦ってないから、人間に通用するかは分からないけれど。



「つっよ……」


 ジョスランの女性部下が引きつった表情で言った。

 あたしも完全に同意。

 フォレストウルフと呼ばれる狼型の魔物が3匹出現し、その中の1匹があたしに飛びかかったのだけど、闇の精霊改めレアが一撃で葬ってしまった。


 それを見た残りの2匹は速攻で撤退。

 あたしがフォレストウルフでも逃げるよ!

 レア超強い!


「時にクロエよ」歩きながらジョスランが言う。「レアは下級精霊なのか?」


「分かりません……」

「そうか。見た目は下級精霊だが、強さがちょっと下級の域ではない気がしてな。いや、闇の精霊は他の精霊より強いとされているが、それにしても強すぎるのでは、と思ってな」


 ジョスランの言葉に部下たちもコクコクと頷く。


「あ、クロエちゃんは森を歩くのは平気?」部下の1人が言った。「お兄さんが抱っこしてあげようか?」


「大丈夫です。あたし、山菜採りでよく山に行ってましたし」


「そ、そっか……」と落ち込む部下。

「ロリコン」と女の部下がボソッと言った。


 あたしは美人だから、色々な人に優しくされるのね!

 唯一、くじ運だけは美人でもどうにもならなかった!

 それから少し歩いて、ジョスランがあたしに質問する。


「レアは精霊界に帰らないのか?」


 精霊は普段、別の世界で生活しているらしい。

 そこがどんな世界なのか、あたしは詳しく知らない。


「えっと……あたし、レアの言葉が分からなくて……」


「ふむ。まぁ闇の精霊は他の精霊とは違うからな」ジョスランが言う。「精霊士の常識は通用せんか」


 普通、精霊と契約を交わしたら、ある程度の意思疎通が可能になる。

 でもあたしとレアは名前の交換がやっとだった。


(そもそも……あたし本当に精霊士なのかなぁ……)


 かなり疑わしい、とあたしは思っている。

 でも言わなかった。

 せっかく領主の家でメイドになれるわけだし。

 変なことを言って棒に振る必要はない。


4話は明日の18時に投稿します!

10話まで毎日更新の予定です!

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