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1話 義理の母親、参上


 あたしはお庭で小さなお茶会をしていた。

 まぁお茶会って言っても、参加しているのはあたし、レア、ムギ、ルナベルだけなんだけどね。

 レアは庭に設置された丸テーブルの上に座ってお菓子をかじっている。


 お菓子は色とりどりで、見ているだけでも楽しい。

 ルナベルはあたしの足下、芝生の上に伏せている。

 今日は天気もいいし、あたしも芝生に寝転びたいなぁ。

 そんなことを考えながら、あたしはチョコをつまんでルナベルの顔に持って行く。


 そうすると、ルナベルが上手にチョコだけを食べた。

 ルナベルは割と何でも食べる。

 まぁそれはレアとムギもだけどさ。

 ちなみにムギは今日もあたしの頭にしがみついてる。

 重いけど最近はもう割と慣れた。


「お嬢様、お茶のおかわりをどうぞっす」


 給仕をしてくれているのは、ツインテールメイドのサイラ。

 サイラは18歳で、髪の色はピンク。

 敬語がちょっと苦手だけど、仕事はとっても丁寧。

 メインの仕事があたしのお世話なんだって。


「クッキーあげる」


 あたしはクッキーを1枚手に取って、サイラの顔の方に持ち上げる。

 そうすると、サイラがパクッとクッキーを食べた。

 餌付けしてるみたいで楽しい。

 それを見たレアが立ち上がり、両手をブンブンと振ってから自分の口を指さす。


「はいはい、レアも食べさせて欲しいのね」


 あたしはレアにもクッキーを与える。

 レアは小さな口でガリガリとクッキーを削るように食べていく。

 うーん、食べるの早いっ!

 今日も平和でいい日だね!


「可愛いお嬢さん、お母さんも交じっていいかい?」


 突然、背後から声をかけられた。

 知らない声だったので、少しだけ驚いて振り返る。

 そこに立っていたのは、小汚いお姉さんだった。

 いや、お姉さんと呼ぶには少し年がいきすぎている?

 見た目は30代前半って感じの女性で、髪はロングで水色。


 水色なのだけど、所々汚れているので、パッと見るとグレイかと思ってしまった。

 服装は戦闘服にマント。

 どちらも薄汚れていて、破れやほつれも見られる。

 浮浪者と言うよりは旅人って感じかな。

 あたしがジッと彼女を見ていると、彼女はニカッとお花が咲いたみたいに笑った。


「お、奥様っすか!?」サイラが言う。「ちょ、汚れすぎっしょ!」


 奥様だとぉぉぉぉ!

 それってつまりアンジェロの妻であり、あたしの義理のお母さんってことぉ!?

 そういえばこの人、「お母さんも交ぜて」的な言い方したね!

 あたしは慌てて立ち上がり、姿勢を正す。

 それからカーテシーで挨拶。


「初めましてお母様、リニイ伯爵家の養女になったクロエです」


 いえーい、完璧じゃんあたし!


「あー、そういう堅苦しいのナシで」


 へラッと笑う義理の母。

 そっか、この人って伯爵夫人だけど平民出身でしかも冒険者だっけ?



 薄汚れたおばさんが寄ってきたぁぁぁあ!

 浮浪者が侵入したのかと思ったけど、なんだか親しげなので違うか。

 よく分からないけど、とりあえず綺麗にしてあげよう。

 そう思って、私は【クリーン】を使った。


 一瞬でおばさんが綺麗になる。

 正確には、おばさんの汚れや匂いが全部取れて、サッパリ綺麗な旅人になった。

 おばさんは少しビックリしたような表情で私を見た。

 うーん、綺麗になったら割と若いっぽいぞ?


 見た目は30歳ぐらいかな?

 と、クロエが私を紹介している。

 続いてムギ、ルナベルのことも紹介。

 この人、誰なんだろう?


 分からないけど、心の中でどう呼ぼうかな?

 旅人でいいか。

 旅人が自分の胸に手を当てて何か言っている。

 私に向けて言っているので、きっと自己紹介だね。


 どれが名前か分かんないから、やっぱりしばらくは旅人と呼ぼう。

 そんな風に思いつつ、私は笑顔で手を振った。

 そうすると、旅人が嬉しそうに手を振り返した。

 お菓子でも与えておくか!


 私はケーキを浮かせて、旅人の顔の前に移動させた。

 旅人はちょっとだけ驚いた風な表情を作ってから、そのケーキをパクパクと食べた。

 食べ方を見ても、貴族ではなさそうね。

 本当、どういう知り合いなんだろうね?


「ムギどう思う?」

「何がですかレア様」


 ムギはクロエの頭の上から動く気配がない。

 よっぽど気に入ったんだね、そこ。


「この旅人風の女の人、どういう関係だと思う?」

「サッパリ分かりませんな」


 ムギは堂々と言った。

 だよねー!

 まぁ、細かいことはいっか!

 私は思考しない魔王!

 流されるだけのペット!

 それは素敵な人生!



「さぁクロエちゃん、ママと呼んでいいんだよ!」

「あ、はい……えっと……ママ?」


 あたしは照れながら言った。


「はぁい! クロエちゃんのママでぇす! うへぇ、娘って超可愛い!」義理の母が言う。「せっかく子供2人も産んだのに、どっちも男の子でさぁ。片方は娘でも良かったじゃんとか思うわけ」


 パストルが聞いたら泣くんじゃない?

 もう1人のお兄さんはまだ会ったことないから、どう反応するか分からない。

 中央で官僚をやってるんだっけ?

 年明けには帰ってくるとかなんとか、聞いた気がするなぁ。


「いやぁ、アンから手紙で『娘ができた』って聞いた時はビックリしたわぁ」はっはっは、と義理の母が笑う。「その次の手紙では『娘が邪竜を倒した』って書いてて、速攻で戻ってきたってわけ!」


「そ、そうなんですか……」

「ちょっとぉ、敬語とか止めてよクロエ。ママはね、元平民だし、ぶっちゃけ貴族のあれやこれやは嫌いなのさ」

「あたしも平民だったし、普通に話していいなら、その方がいいかな」


 別に敬語も使えるんだけどね!

 義理の母に合わせてあげる!

 この人パストルに似て精神年齢は低そうだし!

 確か、38歳だったよね?

 一応、あたしも義理の母についてある程度の情報は持っているのだ。


 名前はブレンダ・リニイ。

 アンジェロが一目惚れして追いかけ回して結婚した相手。

 確かによく見ると整った顔立ちかも?

 レアが魔法で義理の母ブレンダを綺麗にしてくれたから、最初の浮浪者っぽい印象は消えている。


「よぉし! 物分かりのいい子は好きだぜぇ!」


 ブレンダがあたしの頭からムギを引き離して、それからあたしの頭をガシガシと撫でた。

 ちょっと乱暴な撫で方だけど、嫌ではない。

 ムギが少し不満そう。


「クロエはさぁ、精霊士でしかも聖女だっけ?」とブレンダ。


「そうかも?」


 よく分かんない!

 特に聖女の方は違うと思うけど、まぁ全人類勝手に勘違いさせておこう!


「パストルからの手紙で、剣術や魔術も6段だって聞いたよ?」

「あ、今は両方8段なんだぁ」

「うっそぉ! 10歳でそのレベルとか! 超有望じゃねぇか!」


 んんん?

 この人、興奮したらパストルみたいな口調になるんだね。

 てゆーか、逆か!

 パストルがブレンダの口調に影響を受けてるんだ。


「すんげぇなおい」


 ブレンダがあたしの肩をバシバシと叩く。

 痛い、普通に痛い!


「そんじゃ、小遣い稼ぎに冒険者になろっか」


 ほえ?


「善は急げだクロエ、今から冒険者ギルドに行こうぜ!」


 ブレンダはあたしの手を掴み、グイグイと引っ張って行く。

 行動力!

 アンジェロも行動的だけど、ブレンダはそれ以上かも!


「レア、ムギ! ルナベルも!」


 友人たち(いや、正しくはペット?)を呼ぶと、なぜかブレンダを攻撃しようとしたので、あたしは慌てて「違う違う違う!」と繋いでいない方の手を振った。

 魔法を使おうとしていたレアがピタッと止まり、体当たりしようとしていたムギが寸前で軌道変更。


 ルナベルは吠えようと口を開いていたのだけど、そのままスッと閉じた。

 あたしはムギを見てから自分の頭を指さし、レアを見てから自分の肩を指さす。

 一緒に行くよ、という意味。


 2人はコクンと頷いて、それぞれの定位置へと移動した。

 つまりムギはあたしの頭の上で、レアはあたしの肩。

 ルナベルには乗っていこうと思ったので、手招き。


「こっわ! 闇の精霊、好戦的すぎだろ! オレがクロエを攫ったと思ったのか!?」


 ブレンダって一人称オレなの!?

 女の人では珍しい!


「たぶん……そう」


 ブレンダは見た目も言動も貴族っぽくないし、さっきのは確かにあたしを無理やり連れて行こうとしたように見えた。

 ってか、無理やりなのは合ってる!


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