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12話 平和な一日


 あたしは再び王城に呼び出されていた。

 いや、別に怒られるわけじゃ、ないんだけどさ。

 なんか緊張するよね、王様の前って。


「よい、顔を上げよ」


 玉座に座っている王様が言って、あたしとアンジェロが顔を上げた。

 ここは謁見の間。

 あたしの頭の上にはムギが貼り付いていて、レアはその辺を飛び回っている。

 ルナベルは王都の屋敷までは一緒に来たけど、そこに置いて来た。

 さすがに王城に狼を連れて行くのは、どうかと思って。


「まずは邪竜を単独で撃破したこと、大義であった」


 今から考えると、別に大変でも何でもなかった気がする。

 怖かっただけで、退治そのものは実にアッサリしていた。

 レアが教えてくれた『ふぁっきゅうボール』が強すぎてね……。


「精霊士クロエよ。何でも望みを言え。できる限り叶えよう」


 この国――アルグッド王国は、国民あたしが邪竜を退治したことで、大陸の国々の中で発言力が上がったとかどうとか。

 まぁそんなことは、どうでもいい。

 なんでも望みを叶えてくれるんだって!


 あたしを王様にしろぉ!

 って言ったら王様になれるんだろうか?

 うん、別に王様になりたいわけじゃ、ないけどさ!


 ふふん♪

 どうしよっかなぁ!

 突然、願いを叶えてくれる王様が現れるなんて最高!

 ニマニマしちゃいそうなのを、あたしは我慢した。


「遠慮しなくていいですよ」と宰相の男。


 この人は宰相にしては若いけど、手腕は確かだとアンジェロが言っていた。


「じゃあ、現金払いで……」とあたし。


 望みが思い付かなかったので、そんな時はお金に限るよね!

 お金なら、あとで何か欲しくなったら使えるもん!


「良かろう。後日、リニイ伯爵家に届けよう」と王様。


 どのぐらいくれるんだろう?

 見当もつかないや。


「他にはありませんか?」宰相が言う。「今のあなたでしたら、王家の養女になることも可能ですし、あなたを欲しがる大国もたくさんあります。どの国の王子もあなたを未来の王妃にしたいと願っていることでしょう」


 好きな国の王子様に嫁げるってことぉ!?

 じゃあ一番、あたしに贅沢させてくれる国がいいな!

 とか思ったけれど。

 あたしはゆっくりと首を横に振った。


「他にはありません。あたしはリニイ伯爵家で幸せに暮らしています」


 そう、今のあたしは充足の中にいる。

 だってあたし、元村娘だし生贄だったんだよ?

 今の生活に全然これっぽっちも不満ないもん。

 あと、恋愛とか分からないし。


「クロエ……」


 アンジェロが涙ぐんだ。


「お父様、あたしを捨てないでくださいね?」

「もちろんだとも! 君はもう僕の大事な娘なのだから!」


 あたしは初めて、アンジェロを父と呼んだ。

 あたしを迎え入れてくれたのがリニイ伯爵家で本当に良かった。

 パストルもアンジェロも優しいし、ジョスランもいい人だし。


「精霊士クロエが、我が国の貴族であること、誇りに思う」


 王様が厳かな雰囲気で言った。



 翌日、あたしたちは王都の中神殿を訪れた。

 あたしたちというのは、あたし、レア、ムギ、ルナベル、護衛のジョスランである。

 アンジェロは何人かの貴族と話す用事があるらしく、朝から慌ただしく出かけてしまった。


 あたしは馬車を使わず、ルナベルに乗ってここまで来た。

 王都の人々が珍しそうにあたしを見ていたけど、みんなすぐにあたしが誰か分かったみたいだった。


 闇の精霊を2匹も従えているのは、世界広しといえども、あたしだけだろう。

 それにジョスランも一緒だったしね。

 ジョスランはリニイ伯爵領の紋章が描かれたマントを装備しているので、身元を公言しながら移動してるようなもの。


「ようこそ大聖女様」


 大司祭のヘレナがあたしたちを出迎えてくれた。

 てゆーか、あたし大聖女じゃないよ!

 もう何か訂正するの面倒だし、スルーするけどさ!

 レアは何をどう思ってあたしを聖女だなんて言ったのだろう?


 あたしの頭の中なんて聖女とはかけ離れているのに。

 お菓子のことを考えている時以外は「ふぁっきゅ」って言ってるだけだし。

 あー、ふぁっきゅう聖女かな!

 そんな意味不明のことを考えながら、あたしはヘレナに連れられて聖樹の元へと移動した。


 ちなみに、あたしはずっとルナベルに乗ったままである。

 降りるタイミングを逃したっ!

 こっちの聖樹は、地元の小神殿で見た聖樹よりやや大きいみたいね。

 レアが聖樹を見て驚いた風な顔をした。


 これはたぶん「また枯れた木!?」って感じの表情だ。

 そしてまた治してあげてね。

 あたしは聖樹を指さす。

 レアが指でオッケーサインを作る。


 で、レアは【亜空間収納】からエリクサーを出して聖樹に振りかける。

 そうすると、メキメキと聖樹が元気になった。

 さすがに2回目なので、あたしは驚かない。


「さすがレア様だ! 素晴らしいな」


 ジョスランが興奮気味に言った。


「ああ、ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ヘレナが膝を突いて、その場で祈りを捧げた。

 レアがどやぁ、って顔をして胸を張っている。

 あたしはパチパチと手を叩いてレアを褒めた。

 あたしの頭に乗っているムギも、前足をパチパチする。


「ところで大聖女様」祈り終わったヘレナ言う。「例の邪竜を崇拝する邪教徒のことなのですが……」


 え?

 嫌だよ?

 退治しに行かないよ?


「殲滅いたしました」


 ふぁ!?

 殲滅しちゃったの!?

 この短期間で!?

 神殿騎士って優秀!


「例のトカゲに変身した者もいましたが」ヘレナが微笑みながら言う。「我々は神殿騎士、憲兵、国軍、更には冒険者と、複数の強者たちで対抗しましたので、多少の被害はありましたが、無事に殲滅することができました」


「そ、そうですか。良かったです」


 そう、どうでも!

 良かったです!


「気になっているかと思いまして」

「ええ、はい、気にしていました」


 嘘です!

 すっかり忘れてました!

 それからなんだかんだと世間話に花を咲かせてから、あたしは王都の屋敷へと戻った。



 セカンドハウスに戻ったクロエは、すぐにお風呂に向かった。

 私とムギとルナベルも一緒だ。

 クロムギのこと、私は略してムギと呼ぶことにした。

 なぜならクロエがそう呼んでいることに気付いたから。


 脱衣所でメイドさんたちがクロエの服を脱がせる。

 クロエは慣れたもので、突っ立っている。

 私は自分の服を【亜空間収納】に仕舞って、一足先に湯船にダイブ!

 私のあとに続いていたムギもダイブ!


 ひゃっはー!

 お風呂は最高だぜぃ!

 私とムギはお湯にプカプカと浮かんで、長い息を吐いた。

 すると、全裸のクロエがメイドさんたちの手をかりつつ、湯船に入った。


 ルナベルは湯船には入らず、メイドさんが洗っている。

 そして別のメイドさんが湯船に花びらを浮かべる。

 うーん、いい匂い!

 リラックスタイムだね!


「はぁ~風呂とは良いものですなぁレア様」


 すっかりお風呂が気に入った様子のムギ。


「そうだねぇ。人生ってのはやっぱり、このぐらい平和じゃないとねぇ」


 私は背泳ぎで移動し、クロエの小さい胸に頭を当てる。

 この胸はいつか大きくなるのだろうか?

 顔が可愛くて性格が聖女で、更に胸まで大きいなんて、それって最強じゃない?

 そんなことを思っていると、クロエが片手で雑に私を掴んだ。


 ああん、クロエに掴まれるとゾクゾクしちゃう!

 クロエは私を湯船の縁に座らせる。

 そうすると、メイドさんが私を洗ってくれる。

 うーん、気持ちいい!

 なんか魔王だった頃より贅沢な生活してるね私!


「クロエのペットになって本当に良かった!」

「ええ。まったくですレア様」


 ムギがススッとクロエに寄って行く。

 そうすると、クロエがムギをナデナデ。

 この平和が永遠に続きますように、と私は願った。

 そう、クロエがお婆ちゃんになって、老衰でこの世を去るその時まで、ね。

これで2章は終わりです。

このあと、エクストラストーリーをいくつか更新して、完結とする予定です。

最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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