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11話 邪竜の脅威……脅威?


「どうクロムギ、あのぐらいの魔法なら問題なく受けられる?」


 いつまでも空を見ているクロムギに、私はそう声をかけた。


「いやぁ……死ぬでしょ」とサラA。

「少なくとも、わてらは死にますなぁ」とサラB。


 お前ら雑魚には聞いてない。


「ちょっと痛そうではあるが……死にはせんだろうな」


 え?

 クロムギって、さっきクロエが使った程度の魔法でダメージ受けるの?

 ドラゴンなのに?


「ケガしたら治してあげるよ」と私。

「では、特に問題はないかと」とクロムギ。

「さすが邪竜……あんな凶悪な魔法でも死なないとか」とサラA。


 あんなの全然、凶悪じゃないってば!

 私が本気出したら大陸ごと海の底に沈めちゃうよ!

 実際、前の世界では沈めたことあるしね!


 まぁ、大陸の1つや2つ滅びたところで、前の世界の人類は降伏しなかったけどさ。

 バーサーカーだもんな、あいつら。

 私は小さく首を振って、前の世界のことは一旦、置いておく。


「それじゃ、善は急げって言うし、今から作戦開始ね」


 私が言うと、サラマンダーたちとクロムギが「え?」と目を丸くした。


「いや、早い方がいいでしょ?」


「ふむ。確かに」クロムギが神妙に言う。「人間どもに正体がバレる心配をしながら生きるのは、我もしんどい。憂いは早々に断ちたいところである」


「じゃあ決まりね。一旦、クロエの注意を引いてて」


 私はサラマンダー二匹にそう言った。



 パストルが真剣な眼差しであたしを見る。

 どうしたのだろう?

 とか思っていると。


「クロエ、お兄ちゃんがムカついても、魔法で攻撃するなよ?」

「しないよ!? あたしを何だと思ってるの!?」


 ビックリしちゃうなぁもう!

 あたしは暴漢じゃないし、邪竜でもないのに。

 と、なぜかサラマンダー二匹があたしに近寄ってきて、一匹があたしの頬を舐めた。

 ペロッて。

 突然のことに、あたしは一瞬、硬直した。


「え? サラちゃん何してんのぉ?」


 これにはエルも引きつった表情を浮かべていた。


「なんで舐めたの? 何の意味?」とあたし。

「祝福された、とか?」とパストル。


 うーん、何も変化はないから、ただ舐めただけなんじゃ……。

 レアもいきなり首にキスするし、精霊の愛情表現とか?

 サラマンダーたちは満足そうな雰囲気だった。


 まぁ、サラマンダーが満足なら別にいいけど。

 やや煮え切らないけど、あたしはそう納得した。

 そしてその時。

 空が陰った。


「ほえ?」


 あたしたちが空を見上げると、そこには黒い大きなドラゴンが滞空していた。


「えええええええええええ!?」


 あたしはパニックになって叫んだ。


「マジかよぉぉぉぉぉぉ!!」


 パストルも混乱してあたふたしている。


「どうしてここに邪竜が?」エルは比較的、冷静だった。「てか邪竜だよねぇ?」


 エルの言葉が終わったとほぼ同時に、邪竜が大きく咆哮した。

 その咆哮には魔力が宿っていて、周辺の住居の屋根がいくつか飛んで行った。

 こわっ!

 邪竜こわっ!



(……やりすぎたか……)


 クロムギは割と本気で咆哮してしまったことを反省した。

 普通に街に被害が出てしまった。

 まぁでも、多少壊した方が真実味はあるか、と思い直す。


 ケガ人はクロエかレアが治すだろうし。

 気を取り直して、次は翼をバサーっと動かす。

 そうすると、衝撃波が起こるのだが、レアが【シールド】を展開して防御。

 レアがいなければ街は酷い状態になっていたことだろう。


(か……加減が難しいのである……)


 次はいよいよファイアーブレスだ。

 レアがいるから大丈夫だろうけど、なるべく優しく吐こうとクロムギは思った。



「なんて戦闘能力!」エルがなぜか嬉しそうに言う。「これがドラゴン! あは! これ普通なら絶対死ぬでしょうちら!」


 そうだね、死ぬね。

 あたしの両足、今ガクガクと震えている。

 うーん、ちょっと漏れたかも。


「これほどなのか、ドラゴンってのは……」


 パストルが絶望的な表情で言った。

 うん、あたしもきっと絶望的な顔をしていると思う。

 と、周囲が騒がしくなったのが分かった。

 近隣住民やうちのメイドたちが慌てて外に出て、そして邪竜の姿を見て泣き叫び始めたのだ。


 てゆーか、なんで邪竜はここに来たの!?

 レアが連れて来たの!?

 レアを見ると、ニッコニコなの!

 それはもう、嬉しそうに笑ってるの!

 なんで!?


 レアがあたしを指さして、邪竜を指さす。

 さっきの魔法を使えってこと!?

 あたしがビビっていると、ルナベルがあたしの足にすり寄ってきた。

 どうやら、あたしを応援してくれているみたい。

 あれ?


 ムギがいない。

 さては逃げたな!

 あたしも逃げたいっ!

 でも!

 倒さないとみんな死んじゃう!

 そう思って【大爆裂】を右手に発動させる。


 邪竜がファイアーブレスを吐いた。

 うわぁぁ!

 小芝居と同じ展開だぁぁ!

 変なところに驚いたあたし。

 迫り来るファイアーブレス。


 このブレスならきっと、苦しまずに一瞬で消滅できるね。

 したくないけどぉ!?

 どうしたらいいのか、あたしには分からない。

 エルもパストルも棒立ちしている。

 分かるよ、何もできないんだよね!


 でもレアなら!?

 バッとあたしはレアを見る。

 レアは頷き、再び【シールド】を展開した。

 ファイアーブレスが【シールド】に直撃して霧散。

 やっぱレアの方が強いんじゃ……。


 そう思っていると、レアがボールを投げるジェスチャを見せた。

 あ!

 あたしの右手には今!

 凶悪な魔力の塊があるんだった!

 忘れて自爆とかしたら、天国でバカにされちゃうよ!


「ふぁっきゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 あたしは全力で【大爆裂】改め【ふぁっきゅうボール】を空へと投げた。

 あたしの【ふぁっきゅうボール】は剛速球のごとく天へと昇り、そして邪竜に直撃。

 最初に試した時よりも激しく大きな爆発が起こる。

 それはまるで、空が引き裂かれたかのようだった。


 人間が使っていい魔法じゃない。

 あたしは改めてそう思った。

 ピンチになったら使うけどね!!

 凄まじい轟音が響き渡り、あたしたちは咄嗟に耳を塞いだ。

 なぜかあたしは一緒に目も瞑ってしまった。


 そして少し待ってから、おっかなビックリ目を開き、耳を塞いだ手を離す。

 空を見上げると、そこには何も存在しなかった。

 消滅しちゃったぁぁぁぁぁ!!

 邪竜が消滅しちゃった!!

 威力ヤバすぎでしょ!!


「マジかよ、一撃とか……」とパストル。


「これでクロエも名実ともに『ドラゴンスレイヤー』だねぇ! 半端なぁい!」


 エルが楽しそうに言った。

 こんにちは、『ドラゴンスレイヤーのクロエ』です。

 ぶっちゃけ全部レアのおかげなのだけどね。


「はぁ……疲れた……」


 あたしはその場に座り込んだ。

 魔力を使いすぎたみたい。

 なんせ、『ふぁっきゅうボール』を2回も使ったからね。

 しかも2回目は、最初より多く魔力を込めていたみたい。


 ルナベルがあたしの頬をペロッと舐める。

 あたしの頬は美味しいのだろうか?

 いや、労ってくれたのだろうけども。


 レアがあたしの顔の前に移動して、パチパチと拍手を贈ってくれた。

 それに合わせて、サラマンダーたちも前足をパチパチした。

 ありがと。

 あたしは笑みを浮かべておいた。


「説明とかは俺がやっとくから、クロエは休んでていいぞ」


 パストルがあたしの頭をナデナデ。

 ちょっと気持ちいい。

 ナデナデしたあと、パストルがその場を離れた。

 まずはアンジェロに説明しに行ったのだろう。


 そしてどこからともなくムギが戻って来て、あたしの頭に前足を置いた。

 あんたどこに隠れてたの?

 でもこれで一件落着。

 あ、中神殿の枯れた聖樹を指さす仕事がまだ残ってた。


「クロエは将来、うちと一緒に傭兵やる?」


 エルがあたしの隣に座った。


「えー、いーやーだー」


 あたしは贅沢しながらメイドさんにお世話され、ダラダラと人生を過ごしたい。

 進んで危険に足を突っ込むとか、絶対に遠慮したい。


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