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10話 新たな魔法は危険です


 あたしにどうしろと!?

 レアの宣言以降、みんながあたしに期待の眼差しを向けてくる!


「そうかクロエ、君は幻想の大聖女だったのか」アンジェロがキラキラした瞳で言う。「闇の精霊を2体も従えるだけあるね。君を養女にして本当に良かったよ」


「俺の妹、実は聖女だったのか……まぁ、普通の子供じゃねぇと思ってたけどな」


 パストルは何か納得したように頷いていた。

 待って!

 全部勘違いだよ!

 あたしは聖女じゃないし、邪竜の倒し方も知らないし、なんなら精霊士かどうかも本当は怪しいんだよ!?


 それなのに、給仕のメイドたちも希望に満ちた顔であたしを見ているっ!

 と、レアが壁を通り抜けて食堂に入ってきた。

 ビックリするなぁもう!

 レアが壁を通り抜けられるって知ってるけど、やっぱり実際に見るとギョッとしてしまう。


 レアはあたしの周囲を飛び回り、どこかに案内したいようだ。

 もしかして邪竜のところに連れて行こうとしてる?

 いやだー!

 怖いよぉ!

 あたしが渋っていると、レアはあたしを浮かせた。


 そしてあたしを連れて壁の外へ。

 通り抜けるだろうって思ってても、壁に向かって飛ばされると驚いちゃう。

 ちょっとチビッたかもしれないけど、許されるはず。


 さてレアはあたしをどこに連行するのだろう、と思っていたら普通にお庭だった。

 そこにはエルが座っていて、エルの膝に頭を乗せて気持ちよさそうに眠っているルナベルがいた。


 めっちゃ仲良しじゃん!

 で、ムギとサラマンダー2匹がエルの周囲でふよふよと浮いている。

 うーん、バリバリ精霊士って感じだね!

 あたしと違って!


「おっと、ドラゴンスレイヤー様の登場だねぇ」


 エルが楽しそうに言った。

 あたしは全然、楽しくないけれども。


「どうも……」とあたし。


 レアがあたしを地面に下ろす。

 それから、レアは【亜空間収納】からマナポーションを出してあたしに渡す。

 初期のマナポーションはレアサイズだったけど、今はあたしサイズに調整されている。

 レアを見ると「グイッといっちゃって」みたいなジェスチャを見せた。

 あたしはグイッとマナポーションを飲み干す。


 意外と美味しいんだよね、これ。

 瓶をレアに返すと、レアは瓶を【亜空間収納】に仕舞う。

 さて、レアのマナポーションはあたしの魔力量を大きく増やした。

 だから正確にはマナアップポーションなんだろうね、きっと。

 錬金術やその成果物であるポーションについて、あたしはまだちゃんと習ってない。


「わぁ、めっちゃ魔力増えたやん! いいなぁ! うちも欲しいなぁそれ!」

「レア、エルもポーション欲しいって」


 あたしはエルを指さしてから、グイッといっちゃうジェスチャをした。

 邪竜と戦う時、エルも連れて行こう。

 あたし1人だと怖いし!

 レアはポンと手を叩いてから、マナアップポーションをエルに渡した。


「やったぁ! 言ってみるもんだね!」


 エルは嬉しそうに中身を飲み干し、あたしと同じように瓶はレアに返した。


「うわぁ、すっごいこれ!」エルが自分の両手を見ながら言う。「魔力量だけなら1段上がった感じ?」


「えっと、エルは今、魔術何段だっけ?」

「6段だけど、年内に7段になれると思う」


 あたしより下だったのか……。

 ちなみに魔術の段位の認定には、魔力量と使える魔法の数と質、それから知識などなど、色々な要素が絡み合う……らしい。

 らしいのに、あたしは8段だった。

 おかしいな、あんまり知識とかない気がするんだけどなぁ。


 使える魔法の数も少ないはずなのに……。

 ちなみに認定方法は簡単で、相手の実力を看破する魔法が込められた水晶に触れるだけである。

 更に豆知識だけど、相手の実力を看破する魔法の名前は【能力測定】と言って、9段ぐらいの実力者じゃないと使えない。


 そして、物に魔法を込めるのは10段以上って感じ。

 と、ムギが「ギャース、ギャース」みたいな鳴き方をした。

 あ、ムギってそんな風に鳴くんだ?

 そしてやっぱりあたしとは意思疎通ができないっ!



 私とクロムギは、これからの計画をクロエに実演して見せた。

 まずクロムギがバサーっと翼を広げ、口から火を吐いた。

 ファイアーブレスってやつだね。

 私がそのブレスを躱して、攻撃魔法を叩き込む(フリ)をした。

 クロムギが攻撃魔法にやられて、ヘロヘロと地面に墜落。

 どう?

 伝わった?



 なんか小芝居が始まったぁぁぁぁ!!


「ドラゴンの真似してんじゃないのぉ?」


 ムギの翼バサーを見てエルが言った。

 たぶんそうなんだろうけど、ムギって小さいし可愛いから、ドラゴンっぽくない!

 邪竜ってきっとすごく邪悪で恐ろしい見た目してるんだよ!


「それじゃあ、レアがあたしかな?」


 レアはムギを指さしファイティングポースを取った。

 ムギが口から火を噴く。

 んんんん!?

 闇の精霊なのに火を噴けるの!?


「おっとぉ?」これにはエルも驚いたようだ。「他属性を操るとか、普通にこの子も上級か精霊王なんじゃなーい?」


 ムギもすごい疑惑!

 そうだよね!

 普通、精霊は自分の属性の魔法しか使えないよね!


 ただし上級以上になると、簡単なものに限るけど他の属性の魔法を使える個体が一定数いるらしい。

 そういう個体は間違いなく、将来の精霊王かまんま精霊王かのどっちかだ。

 結論。

 ムギは精霊王か、そうでなければいずれ精霊王になる上級精霊である。


「クロエすっごいね! もはや人類の至宝まであるじゃん!」


 ねぇよぉぉぉぉぉ!!

 あたしは心の中で口悪く否定した。

 あ、でもそう思われるのは別にいっか!

 チヤホヤされて贅沢できるだろうし!


 と、レアがあたしの周囲をブンブンと飛び回る。

 小芝居の続き見るの忘れてたぁぁぁぁぁ!

 ムギが火を操ったことが衝撃すぎて……。


「どこに行ったのかと思ったら、庭にいたのかよ」


 少し慌てた様子のパストルがやってきた。

 どうやら、あたしが連れ去られたので焦ったみたい。


「やっほーパス君」とエル。

「おう。お前、本当、気軽だよな」とパストル。


 おやぁ?

 2人はもしかして、ちょっといい感じだったり、するぅ?

 と、いきなりレアがあたしの脳に新しい魔法を流し込んだ。

 いっつもいきなりなんだからぁあぁぁぁあ!


 えっと、今回の魔法は……。

 ……何コレ?

 え?

 この魔法、使って大丈夫なやつ?

 いや、これで邪竜を倒せってことなんだろうけども……。


「どうしたクロエ」とパストル。


「あー、うー、えっと、その……」

「なになにぃ? どったの?」


 エルが膝のルナベルを退けて、ゆっくり立ち上がった。

 ルナベルはまだ眠かったのか、そのまま芝生で丸まった。


「レアが新しい魔法を教えてくれたんだけど……」


 あたしが言うと、レアが空を指さす。

 ああ、これ、魔法の試し打ちをしろって言ってるに違いない。


「見せた方が早いかも……」


 あたしは右手の平を上にして、そこに魔法を発動させる。

 あたしの掌の上に、真っ黒な魔力の塊が何層にも折り重なるように凝縮された。


「ちょ……それは……」エルが引きつった表情で言う。「ヤバい気がするんだけどぉ?」


 あたしだってそう思ってるよ!

 レアがノリノリで空に投げろとジェスチャ。

 あたしはレアを信じて凝縮された魔力の塊を空へと投げた。

 そうすると、魔力の塊は遙か上空まで飛んで行き、そこで凄まじい爆発を引き起こした。


 前にレアが教えてくれた【暗闇の爆裂】の比ではない。

 こんな魔法、地面で使ったら街が一個消し飛んじゃう!

 ルナベルが驚いて飛び起きたよ!

 サラマンダーたちなんて、火属性で赤いのになんか顔が青くなってる気がするもん!


「ひ、人が使っていい魔法じゃ……ねぇな」


 ガッツリ引いた様子のパストルが言った。

 あたしもそう思います!


「魔法名って何?」とエル。


「わかんない」


 レアはいつも魔法だけを教えてくれる。


「んじゃあ、【大規模爆風爆裂】とかか?」

「長いよお兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!?」

「あ、お兄様」


「いや、お兄ちゃんでも、俺は別に構わないぞ」パストルが言う。「ただ、公式な場ではお兄様な?」


「うん。じゃあ普段はお兄ちゃんって呼ぶね」


 正直、お兄様ってまだちょっと慣れない。

 でもお兄ちゃんは呼び慣れている。

 あたしの実家、兄弟多かったし。

 コホン、とパストルが咳払い。


「魔法名は、さっきのを略して【大爆裂】でどうだろうか……」


 そのまんまだけど、分かり易いね!


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