8話 ふぁっきゅ!
スパッとな。
私は鎌を振って黒トカゲ男の首を刎ねた。
「おぉ! さすがレア様! 華麗なる鎌捌き! よっ! 天下一!」
なんかクロムギが私を持ち上げてくるので、私は調子に乗った。
スパスパと黒トカゲ男の身体を解体!
バラバラと崩れ堕ちたその肉片を、闇の炎で焼き尽くす。
あとには黒トカゲ男の首だけが残った。
私はその首を浮かせて、クロエの方に飛ばしてみた。
深い意味はない!
「ふぁぁぁぁあ!?」
クロエが変な叫び声を上げて、黒トカゲ男の首に回転飛び回し蹴りを当てた。
クロエの回転飛び回し蹴りは芸術的な美しさで、私は「ほぅ」と感嘆の声を上げたのだった。
「さすがクロエ様、芸術点の高い蹴り」とクロムギも絶賛。
クロエは体術も順調に育ってるみたいで良かったよ。
私も教えた甲斐があるってもんだね。
まぁ教えたっていうか、クロエの脳内に直接叩き込んでるだけなのだけど。
さてクロエが蹴っ飛ばした黒トカゲ男の首はというと。
さっき私に祈っていた司祭の方に飛んで行き、司祭がそれを避けた。
なので、黒トカゲ男の首は地面を転がってしまう。
あ、そうだ、鎌消しておかないとね。
私はずっと【闇の鎌】を持ったままだった。
この鎌は切れ味がいいので、ウッカリ振り回して誰かいたら大変だ。
◇
「お、お強いですね……」
イレナがあたしを見ながら引きつった表情で言った。
レアがいきなり首をこっちに飛ばしてきたから、蹴っ飛ばしただけなんだけど。
だって素手で触りたくなかったし、蹴りならほら、ブーツ履いてるもん。
ああ、そっか、避けるという選択肢があったんだ!
あたしって、もしかして攻撃的なのかなぁ?
「とにかく助かりました」ヘラルドが言う。「精霊王様にも感謝を伝えてください」
あたしはコクンと頷いた。
あとでレアにはお礼を言う。
たぶん雰囲気で伝わるでしょ。
「それにしても、さっきの変身は何だったんだ?」パストルが思案顔で言った。「あんなのが大勢いたら大変だぞ?」
それは本当に大変だと思うけど!
でもレアがいる限りあたしと伯爵家は安全!
あたしと伯爵家が安全なら、とりあえずヨシ!
「大勢いるでしょうね」イレナが強い口調で言う。「あの口上は、邪竜信仰を行っている邪教徒で間違いありません」
本当にそうなの?
邪竜ってあたしがテキトーに言っただけなんだけど……。
大いなる勘違いのもとで話が進んでない?
大丈夫?
「邪竜の復活……これは一大事ですよイレナ大司祭様」
ヘラルドが真剣な表情で言った。
そしていつの間にか、神殿騎士たちも集まっていた。
黒トカゲ男に攻撃されて、瀕死だった騎士たちの救護も行われている。
と、レアがあたしの頭の中に魔法の使い方を流し込んだ。
今!?
あたしはフラッとする。
「大丈夫かクロエ」
パストルがあたしを支えた。
ああ!
これ【ヒール】だ!
今いるやつだ!
レアってば優しい!
ぶっちゃけレアが【ヒール】使った方が早いと思うけどな!
でもせっかく教えてくれたので、あたしは【ヒール】を使った。
1人1人使うのは面倒なので、まとめて全員に。
そうすると、瀕死だった騎士たちがケロッと起き上がる。
「おっと? 何したんだクロエ、体調がめっちゃいいんだが!?」
パストルが驚いて言った。
実はあたし自身も効果範囲にいたらしく、なんか元気が湧いてきた!
今なら邪竜だってやっつけちゃう!
ごめん嘘!
「す、素晴らしい!」イレナが両手を組んで、瞳をウルウルさせながら言った。「これは魔術聖の魔法【全体完全ヒール】!」
そうなの!?
ああ、でも!
レアに魔改造されたあたしの魔力量は底なし!
使い方さえ分かれば、高度な魔法でも使えてしまう!
レアを見ると、グッと親指を立てた。
あたしも親指を立てて返答。
「クロエはどんどん化け物になっていくなぁ……」
はははっ、と乾いた笑いを浮かべたパストル。
でもパストルも時々レアに改造されてるよね?
「クロエさんは精霊士の上、魔術聖なのですね! ああ! 精霊神様! 感謝します! クロエさんは対邪竜の切り札となりましょう!」
イレナが跪いて祈り始めた。
ちょっと待って!
あたしを勝手に対ドラゴン用の決戦兵器にしないで!
◇
クロエってば優しい!
ケガをした騎士たちを気にしていたので、私は騎士たちを回復させようと思ったのだけど、止めた。
代わりにクロエに回復魔法を教えることに。
そうすれば、クロエの意思で回復できるじゃん?
それに回復魔法は覚えておいて損はないし。
とりあえず最初は普通の【ヒール】からだね。
で、教えたらクロエはすぐに普通の【ヒール】を全体化して使った。
あっれー?
クロエって実は魔法の才能あるんじゃない?
全体化のやり方なんて私は教えてない。
「ほう……あの幼さで高度な魔法を使うものだ……さすが我の飼い主」
クロムギもクロエを褒め称えた。
「本当すごいよねぇ。私もビックリしてる」
でも全体化って高度ではないような?
もちろん、教えてないのに全体化したんだから、すごいんだけどね?
女の方の司祭が祈り始め、男の司祭もそれに続いた。
クロエが崇められているっ!
いいんじゃない!
飼い主の地位が向上するのはいいことだよ!
クロエは聖女とかそういうのになったりして!
うんうん。
クロエは優しいし、ピッタリだよ。
きっと心の中では、常に生きとし生けるものに愛を囁いてるに違いない!
私にもよく『誰かを助けて欲しい』という類いのお願いをしてくるし。
美幼女でしかも心まで綺麗だなんて、私の飼い主に隙はないのか!
◇
ふぁっきゅ! ふぁっきゅ! ふぁっきゅ!
だぁれが好きでドラゴンなんかと戦うかっての!
バーカバーカ!
あたしはこのまま平和に!
贅沢な暮らしだけを享受したいっ!
あたしはバッと勢いよくパストルを見た。
抗議しろ、あたしを駆り出そうとしてるぞ、という意味だ。
「司祭、大司祭、ちょっと落ち着いてくれ」
パストルが言うと、イレナとヘラルドが祈るのを止めて立ち上がる。
そしてイレナがコホンと咳払い。
「正式に、クロエさんを神殿所属にしたいとお伝えします」とイレナ。
「嫌です」とあたし。
教皇には興味あるけど、ドラゴンと戦うのは嫌。
徴兵されるまで、あたしはスルーするよ!
「今、答えを出す必要はありませんよ」イレナが優しく微笑む。「クロエさんなら確実に教皇になれましょう」
ドラゴンがいなくなったら、考えるよ。
「というか」あたしが言う。「邪竜が本当に復活したか確認した方がいいんじゃ?」
「それは今、神殿騎士たちが調査活動を行っています」
ヘラルドが言った。
「さきほどの邪教徒の言葉からも」イレナが言う。「復活はほぼ確実でしょう。各国と連携して邪竜との決戦に備えなければいけません。かつての戦闘では、人類総出でも倒せず、辛うじて封印だけできた、というレベルですから」
それが事実ならレアでもヤバいんじゃ?
精霊王がいくら強いって言っても、人類総出には負けるでしょ?
だって精霊の大まかな強さって……。
下級精霊が10段の人ぐらいの強さ。
剣術、魔術は問わない。
中級精霊が王級の人ぐらいの強さ。
上級精霊が聖級で、精霊王が神級。
まぁ神級の人間なんて、歴史上に1人か2人ってレベルの異次元の強さだけども。
つまりレアは異次元に強いってわけ。
だけども、人類総出でも倒せなかった邪竜ってどれだけ強いのよ、って話。
「それはそっちで勝手にやってくれ」パストルが言う。「伯爵家としては、国家からの命令がない限り、ドラゴン退治に参加する気はない」
よく言ったパストル!
素敵!
今日のパストルは輝いてる!
「ええ。でも、この領地に現れたら?」とイレナ。
「その時は仕方ねぇだろ」
パストルが肩を竦めた。
その時はさすがのあたしもレアをけしかけるよ!
あとムギも!




