7話 我の鱗
なんかでっかい木が枯れていた。
私はクロエたちと一緒に建物の外に移動すると、すぐにその枯れた木が見えた。
クロエたちも木を見て驚いた風な表情を浮かべている。
司祭っぽい服装の人が、その場に座り込んだ。
どうやら、枯れてはいけない木が枯れてしまったみたい。
クロエがビシッと枯れた木を指さして私を見たので、これはきっとあの木をなんとかして欲しいという意味に違いない。
違いないけど、どうしろと?
回復魔法とか効くかなぁ?
試しにエリクサーを振りかけてみる?
私は【亜空間収納】からエリクサーを1瓶取り出す。
サイズは人間用に調整しているので、私の身長ぐらいの瓶だ。
私はその瓶を浮かせたまま、枯れ木に近寄る。
なんだこの木、微かに精霊の気配がするんだけど。
まぁいっか。
私は細かいことを考えない魔王。
そう、考えない葦なのだ。
そんなことを思いながら、私は瓶の中身をぶちまけた。
枯れた木は2秒後にはメキメキと復活。
しおれていた枝は天を貫く勢いで持ち上がり、ほぼ同時に青々とした葉っぱが生えて、全体的にふぁさぁっとした。
うん。
私のエリクサーすごいね!
どうクロエ?
ねぇねぇ、私すごい?
私はクロエの近くに移動し、クロエの周囲をハエみたいに飛び回った。
クロエは笑顔を浮かべ、惜しみない拍手で私を讃えてくれた。
座り込んでいた司祭っぽい男性が立ち上がり、そして片膝を突いて祈り始める。
ん?
私に祈ってる!?
いやぁ、困っちゃうなぁ。
私は神様じゃなくて魔王様だからねぇ。
しかもこの世界ではクロエのペットの一匹に過ぎないっ!
そして私はペット生活が気に入っているのだ!
と、もう1人の女性の司祭っぽい人が、涙を流しながらクロエを抱き締めた。
その時に、クロムギがクロエの頭から離れて、私に寄ってきた。
「精霊の気配がしますな、レア様」
「うん。あの木、精霊の魔力が注がれてるんじゃない?」
とか思っていると、私の脳内に語りかけてくる声があった。
(ありがとうございます、ありがとうございます)
どうやら、木がお礼を言ってるみたい!
「クロムギ、あの木はどうやら半精霊みたいだね」
「ほう?」
「私は全ての精霊を従えているから、精霊とは意思疎通ができるんだけど、あの木ともできちゃった」
「んんんん? 精霊を? ん?」
「えっと、精霊神を全員ぶっ飛ばしたことあって、その時に盟約を結んだのね」
内容、あんまり覚えてないけどね。
唯一、人間(前の世界の)に協力するなって内容は覚えている。
それが一番、重要だったから。
とりあえず、この前のサラマンダーたちの態度から、私は精霊たちの上位に立っているというのは理解できた。
「……いやぁ、レア様は特別な存在だと思っておりましたが」クロムギが言う。「まさか精霊神全員より強いとは……」
精霊神ってクロムギが思ってるほど強くないよ。
(邪竜の使徒、ワタシ、攻撃した)
木がまだ何か言ってる!
「ねぇクロムギ、邪竜の使徒って知ってる?」
「……え?」
「そいつが木を枯らせたみたい」
「……あー、そのぉ、邪竜というのは、たぶん我のことかと……思いますが」
「そうなの!?」
確かクロムギは昔、人間とは敵対してたんだっけ!
私的にはクロムギはいいドラゴンだけど、人間から見たら邪竜なのか!
「昔から、我には人間のファンが一定数……おりまして……ははっ……」
「いいなぁ! 私が前の世界で人間と敵対してた時、人間のファンはいなかったよ!」
「はは……その世界の人間、滅びたでしょう?」
「うん。バッチリ滅ぼしたよ!」
「ですよねぇ!」
クロムギが大きな声で言った。
それはそうと、木を枯らした奴はまだ近くにいるかも。
捕まえた方がいいのかな?
◇
うーん、レアって本当すごいなぁ。
枯れた聖樹もなんのそのってね。
「素晴らしい、本当に素晴らしい! ああ、精霊王様、クロエ様! リニイ伯爵家様!」
ヘラルドがなんかハイになって祈ってる。
ちょっとキモい!
「おのれぇぇぇ!! 闇の精霊めぇぇぇぇ!!」
突如、男の叫び声が響き渡った。
あたしもみんなもビックリしてその声の方に視線を向ける。
そうすると、右手を高く上げた修道者の男がそこにいた。
右手には何か黒い物を握っている。
「しかし!! すでに邪竜様は復活なされたのだ! 貴様らはじきに滅ぶ! ははははははは! ああ! 邪竜様、私の肉体を捧げます!」
男の右手の黒い何かから、悍ましい魔力が溢れ出て、男を包み込んだ。
何が起こってるの!?
◇
(あっれー? 我の鱗を持った男が何か叫んでおるのだが?)
クロムギは何がどうなっているのか理解できないでいた。
しかしながら、男の持ち物が自分の鱗だというのは理解できる。
昔、人間たちと戦った時に、多くの鱗が剥がれ落ちたことも覚えている。
血だってたくさん流れた。
「あれってクロムギの魔力と同じだね。友達?」とレア。
「いやぁ……たぶん、さっき言った我のファンかと……思いますが……」
男は鱗からほとばしる魔力に飲み込まれて、異形の姿へと変貌した。
「トカゲ男になっちゃったけど?」
「そのようですなぁ……」
(我の鱗って、そんな妙な効果あるの!?)
クロムギ自身、まったく知らなかったことなので大いにビックリしている。
「鱗に魔法陣が描かれていたけど、たぶん変身系」レアが言う。「見た感じ、鱗の魔力を用いてるから、その影響で黒いトカゲ男になったんだと思う」
「さっすがレア様! 見識が広い!」
(良かった! 我の鱗に妙な効果があるわけでは、なかったのだ! 人間たちの魔改造が原因であったか!)
クロムギはホッと胸を撫で下ろした。
変な効果があったら、気軽に鱗の1つも落とせない。
◇
変身しちゃったぁぁぁぁ!!
なんなのあの修道者!
黒いトカゲ人間になっちゃったんだけどぉぉぉ!!
あたしは驚きすぎて口を大きく開けたまま固まってしまった。
貴族令嬢らしからぬ表情だよきっと。
「マジかよ、なんかヤバそうだぞ」とパストル。
「見たら分かりますよお兄様!」
あれがヤバくないなら、一体この世の何がヤバいというのか。
と、イレナ司祭が黒トカゲ男を指さした。
そうすると、その指先から光輝く1本の魔力が射出される。
神聖魔法【光線】だ、とあたしは即座に理解。
イレナの【光線】は一直線に黒トカゲ男に向かっていき、そして。
黒トカゲ男は右手で【光線】を払った。
軌道が逸れた【光線】は、倉庫みたいな建物に命中。
倉庫的な建物は消し飛んだ。
威力!!
ねぇ威力!!
さすが大司祭様!!
「そんな……これが通用しないなんて……」
イレナが驚愕に満ちた表情で言った。
いきなり必殺技を使ったけどダメだった時って、こんな顔するんだね。
黒トカゲ男がニヤッと笑う。
ヘラルドがあたしの背中にソッと隠れた。
ちょっとぉぉぉぉ!?
あたしまだ10歳の女の子ですけどぉ!?
村娘時代なら絶対「ふぁっきゅ!」って言ってるよあたし!
今は貴族令嬢だから、そんな汚い言葉は使わないけどさ!
騒ぎを聞きつけた神殿騎士たちが走って来て、一斉に剣で黒トカゲ男を攻撃した。
頑張れ神殿騎士!
そしてその剣は黒トカゲ男に命中したのだけど、黒トカゲ男は一切のダメージを負っていなかった。
固い!
めっちゃ固い!
黒トカゲ男はその場で横に回転しながら、鞭みたいにしなる尻尾で神殿騎士たちを弾き飛ばした。
神殿騎士たちそれぞれ、木や壁や地面に叩きつけられる。
みんな鎧が壊れ、血を吐いた。
強い!
黒トカゲ男、強い!
見た目は気色悪いけど、すごく強い!
これはもうアレだね!
どうしようもないね!
というわけで。
「レア!! 助けて!!」
私はレアの方を向いて、瞳をウルウルさせてから叫び、黒トカゲ男を指さした。
レアはグッと親指を立ててから、漆黒の鎌を創造。
わぁ、久しぶりに見たよその鎌。
あたしを蛇神から救ってくれた時の鎌だね!
……あ、黒トカゲ男は食べないよ?
食べないからね!?




