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5話 いざ神殿へ


 今日はお出かけ日和だね!

 私たちは今、馬車で移動している。

 私たちというのは、手乗り魔王レアと愉快な仲間たち!

 正確にはクロエとパス君とクロムギが馬車の中にいる。

 ガルムは家でお留守番。


 同じペットなのに格差を付けて大丈夫かな?

 そんなことを思いながら外に目をやると、イケオジ軍団数名が馬車を護衛していた。

 彼らは普通に兵士なので、この領地の領兵団ってところだろう。

 指揮を執っているのはいつものイケオジ。

 ところで私たち、どこに向かっているんだろうね?


「ねぇクロムギ、私たちの行き先はどこだと思う? 人生のどん詰まりかな?」

「我のどん詰まりは終わりましたが……」


 私の冗談に、クロムギが真面目に応えた。

 ちなみに私のどん詰まりもとっくに終わってるよ!

 前の世界で人間たちと戦争してた頃が一番辛かった。

 私は小さく首を振った。

 楽しいことだけ考えて生きていこう!


「ひとまず」クロムギが言う。「クロエ様もその兄らしき人物も、綺麗な服を着ております故、そこから分かるのは……」


「ピクニックではない、ということだね?」


 私が言うと、クロムギが頷く。

 今更だけど、クロムギはクロエの肩に座っている。

 クロエは少し重そうだけど、クロムギを下ろそうとはしていない。

 私はパス君の頭の上に座っている。


「何かの行事では?」

「そうかもね。私たちは邪魔しないように、大人しくしておこうね」


 まぁ私はいつも大人しいので、何も問題はないだろう。

 私はパス君の髪の毛を引っ張ったり結んだりしながらそう思った。



 クロムギが!

 重い!

 ずっとあたしの肩に乗ってるんだもん!

 肩凝っちゃうよこれ!

 そしてレアはパストルの頭の上で、パストルの髪の毛に悪戯をしている。


「クロエ……これ止めさせてくれないか?」


 パストルが右手で小さく自分の頭を指さした。

 正確には、頭の上で悪戯しているレアを指さしたのだけど。

 レアは悪戯しながらクロムギと会話をしている。

 前にサラマンダーとも会話していたので、精霊同士は普通に喋れるんだなぁって思った。

 いや、当然と言えば当然なのだけど、なんかこう、レアは言葉が通じないってイメージが強すぎてね。


「クーローエー?」


 パストルが催促してきたので、あたしは「レア」と呼ぶ。

 そうすると、レアがパストルの頭から離れてあたしの肩に移動。

 まるで蝶々みたいに。

 もちろんクロムギとは逆の肩。


 と、レアがあたしの首にキスをした。

 うひやぁ!

 あたしは変な声を出しそうになったけど耐えた。

 なんか最近、レアが首にキスしてくるんだけど、これなんで?


「そうだクロエ」パストルが言う。「昨日、親父が言ってた邪竜だけど」


「じゃりゅう?」


 あたしは首をコテンと傾げた。


「古くて悪いドラゴン。復活したかもって親父が言ってただろ?」

「ああ、そういえば……」


 言ってた気がする。

 パストル、女の子はドラゴンに興味なんてないんだよ?


「もし事実なら、クロエは徴兵されるかもしれない」

「ええええ!?」


 あたしは思わず変な声を出してしまった。


「闇の精霊を2匹も使役していて……しかも片方は精霊王だぞ……」

「そうだけど! あたしは普通の令嬢見習いなのに!」

「いやいや、お前自身、今は剣術8段に魔術8段の実力者だから……」


 そうだった!

 あたしってばレアに魔改造されて、無駄に強くなってるんだった!

 頼んでないのにレアが定期的にあたしに技とか魔法を教えてくるのだ。

 しかも脳内に直接叩き込んでくる。


「お前も伯爵家の人間だから、貴族の負うべき義務ってものがある」パストルは少し真面目な雰囲気で言った。「一番は領地を守ることだけど、国を守るのも義務だ。邪竜の復活とか、そういう話は真面目に聞いておいた方がいいぞ」


「はぁい……」


 くっ、贅沢な暮らしにはそれなりの犠牲が必要ってことだね。

 あたしは!

 正直に言って!

 贅沢だけ享受したい!


「まぁ、前回の謁見の様子から考えて」パストルが肩を竦めつつ言う。「お願いベースの徴兵になりそうだけどな」


 それは徴兵と呼ぶのだろうか?

 でも確かに、王様はレアを恐れてるっぽい感じだったので、強引な手段は使わない気がする。

 ぶっちゃけその邪竜よりレアの方が強いんじゃない?

 だって精霊王だよ?


「邪竜ってどのぐらい強いんです?」

「俺も昨日、親父に聞いて初めて調べたから正確じゃねぇけど、大陸の半分を破壊したとかしないとか……」


 え?

 それ普通にヤバいよ!

 ドラゴンってそんなに強いの!?



 そして神殿に到着。

 小神殿の主である司祭と助祭たちが、あたしたちの馬車を出迎えてくれた。

 馬車から降りる時、パストルがあたしをエスコートしてくれる。

 うーん、紳士!

 司祭たちはレアを見て、クロムギを見て、目を丸くした。


 そうだよね、分かるよ。

 闇の精霊が2匹もいたら、そりゃ驚くよね。

 しかもその2匹、あたしの両肩にいるの。

 もうなんか見た感じ『精霊に愛されたクロエ』だよね。


「護衛の方々はここまででお願いしたいのですが」


 司祭が言った。

 司祭は40代の男性で、服装は白を基調とした祭服。

 縦に長い帽子を被っている。

 顔はどこにでもいる普通のオジさんって感じ。


 可もなく不可もない。

 身体付きも中肉中背で、あまり特徴はない。

 そうだよね、アンジェロとかジョスランがイケオジなだけで、普通の40代男性はこんな感じだよね。


「叔父上、ここで待っていてください」とパストル。


「分かった。何かあれば叫べ」


 ジョスランは真剣な様子で言った。

 神殿で何か襲われたりするの?


「安全は保証します。危険なことはありません」と司祭。


 だよね!

 実はリニイ伯爵領の神殿は悪の巣窟でした、なんて落ちはない。

 ないと思う。


「ではこちらにどうぞ」


 司祭に促され、あたしたちは神殿の中へと移動。

 レアとクロムギがあたしの肩から離れ、珍しそうにキョロキョロしている。


「レア、ムギ、勝手に神殿内を飛び回らないでね?」


 言葉は通じないけど、一応言っておく。

 神殿の中では色々な場所に神殿騎士が立っている。

 警備ってやつだね。

 あたしたちは応接室に通されて、そこのソファに腰掛けた。


 あたしの横にパストル、対面に司祭が座った。

 そうすると、修道者たちがお茶やお菓子を用意してくれた。

 修道者というのは、神殿の下っ端のこと。

 いつか助祭になることを夢見て、修行という名の雑用をこなしている。


「さてリニイ伯爵令息、令嬢、改めまして、わたくしはこの小神殿の司祭ヘラルドと申します」

「パストル・リニイだ。こっちが義妹で精霊士のクロエ」


「よろしくどうぞ」とあたし。


 唐突に、レアがテーブルのクッキーを掴んで、そして投げた。

 なんで!?

 あたしが驚いていると、レアが投げたクッキーをムギが空中でキャッチ。

 えっと、口でキャッチしてそのまま食べた。


 レアは楽しそうに笑っている。

 ああ、遊んでるだけか……。

 と、応接室に別の人物が入って来た。

 50代の女性で、司祭より綺麗な祭服を着ている。

 え? 誰?


「こちらは中神殿の主」ヘラルド司祭が立ち上がり、女性を紹介する。「大司祭イレナ様です」


「よろしくね、小さな精霊士さんと、その保護者リニイ伯爵令息」


 イレナ大司祭が恭しく礼をした。

 おっとぉ!?

 なんでここに中神殿の大司祭が?

 ひとまず、パストルが挨拶を返したのであたしもそれに倣う。


「いきなり本題で悪いのだけど」イレナが言う。「アルグッド王国、中神殿の『聖樹』が枯れてしまったの」


 聖樹は神殿のチャームポイント……じゃない、ランドマーク……じゃない、えっとなんて言うんだっけ?

 あ、そうだ、シンボル!


 大神殿は当然として、中神殿、小神殿にも聖樹がある。

 精霊たちの祝福を受けた聖樹は、その葉は薬になるし、枝は聖属性や光属性の魔法を強化する杖になる。


 そして神殿の歴史上、一度も枯れたことがない。

 その聖樹が、枯れた?

 普通に一大事!!


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