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11話 領地戦


「王都の家に到着ってな」


 パストルがニコニコと言った。

 王都にも家があるなんて、さすが貴族。

 村娘だった時、うちは兄妹が多かったけど家は1つだった。


「クロエ、領地の家と同じように過ごしてくれ」とアンジェロ。

「あ、はい。お気遣いどうも」とあたし。


「うん。君は僕の娘なんだから、もう少し気楽に話してくれても、いいんだよ?」

「え、あ、そう、ですね……善処します」


 あたしは貴族令嬢の生活にはある程度、慣れてきた。

 しかしアンジェロを父と呼ぶことにはまだ抵抗がある。

 パストルのことは、すぐに兄と呼べたのに不思議だなぁ、とあたしは思った。


「あ、闇の精霊様が……」


 そう言ったのは、魔法使いの女性。

 今回の領地戦で一緒に戦う、魔術10段の実力者らしい。

 あたしがレアを見ると、レアは玄関に向けて飛んでいた。


「あ、ぶつかっちゃう……」


 あたしが呟いた時、レアは玄関をすり抜けた。


「ええ!?」とパストル。


「レア様はあのようなことも、できるのか……」


 アンジェロが驚いた風に言った。

 あたしも驚いた。


「壁を通り抜けるなんて」魔法使いが言う。「魔術神の領域ですよ……」


 魔術王、魔術聖、そしてその上、人類が到達できる最高点が魔術神である。

 まぁ、魔術神は歴史上たった2人しか存在していないけれど。

 それほどの領域なのだ。


「レアって実は精霊王ってことない?」とパストル。


「……どうでしょう……」


 有り得るかも、とあたしは思った。

 レアは本当に規格外なのだ。


「少なくとも上級精霊以上であることは」ジョスランが言う。「確定的であろうな」


 あたしとパストルがコクンと頷いて肯定。


「それでクロエ」アンジェロが言う。「レア様はどこに行ったのだろう?」


「……ええと、分かりません……」


 あたしは苦笑いしつつ言った。

 だって本当に分からないんだもん!


「……大丈夫か?」パストルが言う。「明日は領地戦だけど……戻るよな?」


「そう思いますけど……」


 あたしは曖昧に言った。

 少なくとも、あたしと出会ってからのレアは、あたしとずっと一緒にいた。

 数分、離れることはあっても、基本的には一緒だったのだ。


「案ずるな」ジョスランが言う。「剣王となったワシがおるではないか」


 ガッハッハ、とジョスランが豪快に笑った。


「確かに」とアンジェロ。



 私はお外を自由に飛び回る手乗り魔王。

 どうやら、クロエの別邸は都会にあるみたいね。

 王都とかそういうレベルで都会だと思う。


 少なくとも、私の常識ではここはかなりの都会だ。

 綺麗に整備された道に、立ち並ぶ家々。

 上昇して見下ろすと、中心にお城がある。

 やはり王都だね。


「うーん、見た感じ、お城の周辺が貴族の家で、その外側が商店とか? で、更に外側が平民の家かな?」


 一旦、お城の見学に行ってみようかな。

 私は一直線にお城に向けて飛んだ。

 そぉれ突っ込めぇ!

 私はお城の外壁を【壁抜け】魔法を使ってスルリと通り抜ける。

 料理人のいるところを探そう。


 私はこれでも長年お城に住んでいたので、どこに何があるかだいたい分かるのだ。

 ちなみに料理人を探す理由は単純。

 この世界の宮廷料理人の実力を確かめたいから、である。

 私がフラフラ飛んでいると、メイドさんに出会った。

 メイドさんは私を見て驚き、持っていた籠と洗濯物を落としてしまう。


(おっと、私は優しい手乗り魔王だよ、怖くないよ! 前の世界で人類を滅ぼしたけど不可抗力だよ!)


 私は無害アピールをしようと、イメージを送りつけた。

 メイドさんが悲鳴を上げたので、私は急いでその場を離れた。

 ゴキブリを見た時みたいな悲鳴を上げなくても、いいじゃない!

 この世界の人間たちは、私に優しいと思っていたけど、違うのかも?


 クロエたちが特別優しいだけ?

 クロエなんてすぐに友達に……あれ?

 私が一方的にまとわりついているだけで、実は迷惑だとか?

 いやいや、そんなことはない。

 ないはず。


 私はクロエとの思い出を1つ1つ確認したけど、大丈夫。

 クロエは私のこと好きなはず。

 そんなことを考えていると、調理場に到着。

 私は料理人たちに(何かちょうだい)とイメージを送りつける。

 そうすると、料理人たちがブルブル震えながら私に料理を差し出す。


 なんで震えてるの?

 まぁいいか、細かいことは気にしない。

 私は料理をパクっと食べる。

 うん、いいね!


 色々と食べて、満足したのでお礼にエリクサーを置いて帰ろうと思ったけど、私サイズだから微妙だと思い直す。

 よし、疲労回復をしてあげよう。

 私は料理人たちに【ヒール】をかけてからお城を出た。



「下級精霊のような姿をした黒い存在が現れ、そなたを脅迫したと?」


 アルグッド王国の国王が、謁見の間で言った。


「は、はい!」


 レアに出会ったメイドが跪いたままで返事をした。


「内容をもう一度、聞かせよ」


 国王の隣に立っている若い宰相が言った。


「我を恐れよ。優しさは持ち合わせていない。我は掌だけで人類を滅ぼす能力を持った魔の頭領である……と言われました」


「ふぅむ」王が右手で自分の顎に触れる。「それで料理人たちも、その黒き存在に出会ったのだな?」


「「はい我が王!」」


 メイドの隣に跪いている料理人たちが声を揃えて言った。


「黒き存在は言いました」料理長が真剣な目で言う。「食べ物を捧げよ、と」


「そして我々は料理を提供しました」と料理人A。


「黒き存在は満足したようで、我々から全ての疲労、病気、ケガを取り除いて消えました」


 料理長が自分の胸に手を当てつつ言った。


「つまり、黒き存在に従えば見返りがあるということか」若い宰相が言う。「自分も会ってみたいものだが……すでに消えたのなら仕方あるまい」


「今後、もしも黒き存在に出会っても」王が言う。「絶対に敵対するな。必ず従え。そのことを王城に勤めている者たちに徹底しろ」



 結局、レアが戻らないままあたしたちは闘技場へと足を踏み入れた。

 王城に隣接されたこの闘技場は、各種イベント会場として使われているとアンジェロが説明してくれた。

 領地戦もこの闘技場で行われる。

 闘技場に屋根はなく、楕円形になっている。


 戦闘やイベントを行う土の部分にジョスランと対戦相手が立っていた。

 あたしたちは段になっている観客席の一番前で、戦闘開始を待っている。

 一般の客も多く入っているので、闘技場内は騒がしい。

 レアがいないと、あたし普通の女の子だからすこーし不安だ……。


「レアは今も行方不明なわけだが」パストルが言う。「このまま戻らない、なんてことは、ないよな?」


 パストルはあたしの隣に座っている。

 逆隣にはアンジェロ、その横に魔法使いの女性が座っていた。


「……大丈夫だと、思います……けど……」


 あたしはこれっぽっちも自信がない。

 だってレアと意思疎通できてないもん。

 少しはできてるけど、ちゃんとはできてない。


「精霊界に戻っているのでは?」アンジェロが言う。「というか、普通の精霊はずっとこの世界に留まったりしない。今までのレア様がおかしかったのだと思うよ」


「そう、ですよね……」


 あたしは精霊についてもある程度は学んだ。

 基本的に、精霊は呼ばれてこの世界に出てくるが、普段は自分たちの世界で過ごしているらしい。

 やっぱりレアは規格外だね。



「久しいなジョスラン。今日こそ打ちのめしてやる」


 ジョスランの対戦相手が言った。

 隣の領地の領兵団長である。

 年齢は40代前半の男性。

 そう、立場も年齢もジョスランと非常に近いのである。


「貴様が剣王になったと風の噂で聞いた」対戦相手が言う。「この俺より先に剣王だと? ふざけるな、そんなはずがあるか。ここで貴様の化けの皮を剥がしてやる」


 対戦相手は子供の頃からジョスランをライバル視していた。


「良い天気であるな」


 ジョスランは目を細め、空に視線を送った。

 事実、今日はよく晴れていて、だけど気温はそれほど高くない。

 涼しい風が吹き抜け、心地よい。


「貴様、俺を舐めているのか!?」


 対戦者が怒って言った。

 と、審判の男性が2人の近くで右手を上げる。

 すると、解説席に座っている女性が「さぁ! 注目の一戦! 幼い頃からやたらと比べられてきた2人の戦いです!」と鉄製の音響メガホンを通して言った。


 ちなみに、解説席は客席の中程に設けられている。

 観客たちが雄叫びを上げて、右手を突き出す。

 領地戦は、関係のない者にとってはただの娯楽である。


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