表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一章1『世界が終わった後、僕の人生が始まった』

床に崩れ落ちた。


「あっ……あ、ああああああああああ――ッ!!」


皮膚が裂けて、そして縫い合わされるような、そんな感覚。

体中の細胞が引き裂かれ、再構築され、また引き裂かれ――何度も何度も。

その痛みは、まるで津波のように彼を押し潰し、息を奪い、理性を奪った。


最初は、皮膚の下に炎が灯ったような熱。

しかし次に来たのは――鋭く、裂くような激痛。

見えない爪が四肢を、胸を、背中を引き裂き、内側がむき出しにされる感覚。

全ての神経が、狂ったように悲鳴を上げた。


冷たいタイルの床の上で身体が激しく痙攣する。

指先が勝手に動き、圧力が全身に満ちていく。

肋骨が軋み、背骨が引き伸ばされ、逆に縮んでいく。

顎は痛むほど食いしばっても、喉から漏れる悲鳴を止めることはできなかった。


汗が滝のように顔を流れ、唇からは唾液が滴る。

呼吸もままならない。肺が押しつぶされたように苦しい。

頭が割れそうだ――いや、実際に割れているんじゃないかと錯覚するほどの激痛。

骨の下に、"何か別のもの"が目覚めようとしているような、そんな不吉な感覚。


一は自分の腕を、胸を引っ掻いた。

原因を探し、終わらせようとした。

でも、何もなかった――血も、傷も、何ひとつ。

なのに、彼の身体は今まさに、崩され、作り直されていた。

「なあ、それマジでバカすぎるだろ。」


「はあ!?俺に何を言わせたかったんだよ!?」まこと白川しらかわが怒鳴りながら、ぐしゃぐしゃな髪をさらにかき乱した。「告白されたんだぞ!?それで、俺、パニクっちゃって――で、とっさに『じゃあ、うち来る?』とか言っちゃったんだよ!バカか俺は!」


友人の秋高あきたかはじめは眉をひそめて、笑いをこらえるようにゆっくり息を吐いた。


「マジかよ……お前んち、あの親父さんいるだろ?想像できる?あの人が場をどれだけ気まずくするか。ガチで地獄だぞ。」


「ん゛~~~っ……」真は呻きながら肩を落とした。


――ちょっとここで、話を一時停止しよう。この痛ましい社交的惨事の続きに進む前に、まずは登場人物の紹介をしておこう。


白川真しらかわ・まこと。彼はまさに「完璧に設計されたバカ」の教科書的存在だ。成績優秀、顔もいい、友達も多い――それなのに、恋愛に関しては毎回、何かしらやらかす天才。で、今まさに彼は、見事に自分で作り上げたジレンマの真ん中に立っている。


「じゃあね、真くん!」

笑顔をふりまきながら、笑美えみが校庭で手を振った。


「う、うん!バイバイ、笑美ちゃん!あ、でもさ……」真は苦笑いしながら続けた。「歴史のテスト、やばそうじゃない?俺、たぶん死ぬかも……はは、あー……」


――バカ。そんな笑い方すんなって……!

内心で自分にツッコミを入れる。


笑美が振り返り、首をかしげた。「そうなんだ?んー……ねぇ、私ちょっと時間あるから、もしよかったら一緒に勉強する?」


「えっ、マジで!?」

声が裏返った。


「うん、よかったら――」


「はい!いや、あの、えっと……そ、その……七時に、うちとか、どうかな!?」


「うん、いいよ。」

またあの笑顔だ。


「そして今――」真は顔を手で覆いながら言った。「人生で一番恥ずかしい瞬間が、もうすぐやってくるんだ……」


「大丈夫だって。」一は励ますように言った。「落ち着けって。お前なら、どうにかなるって。」


その最後の一言は、小さすぎて真には聞こえなかった。でも一は、本気でそう思っていた。いつだって、そう思っていた。


――リンリン。


「うわ、やべっ!」

真は携帯を見て目を見開いた。「テツオと約束してたの忘れてた!くっそ、時間ねえ!じゃ、ありがとな!お前、マジで助かった!」


「……うん。じゃあね。」

一の声は小さく消えた。


真はリュックを揺らしながら走り去っていった。その後ろ姿を、静かに見送る一人の少年がいたことに、彼は気づかなかった――。


秋高一あきたか・はじめ

彼について語れることがあるとすれば――まあ、あまりない。

成績はそこそこ。たまに特定の科目でいい点を取るくらい。

髪は茶がかった黒で、ちょっと伸ばしすぎ。

痩せすぎでもなく、太ってもない。

友達も、まあ、いるにはいる。話すし、笑うし、たまに一緒に遊んだりもする。

でも、結局のところ――彼はただの「背景」だった。

「ああ、いたね、そんなやつ」くらいの存在。

名前すら思い出せない、そんな感じ。


……ただ、両親だけは違った。彼のことを、ちゃんと覚えていた。忘れられなかった。忘れるわけがなかった。


「……また行っちゃったな。」

人混みに消えていく真を見ながら、一は小さくつぶやいた。

「アイツの人生、絶対面白いよな。はは。」


ふうっとため息をついて、スマホを取り出す。


新着メッセージ:0件。

通知ばっか。


「……はいはい。今日も徒歩か。」


タップ、タップ、タップ、タップ。


賑やかな街の喧騒が、一の静かな思考を押し流していく。

誰にも気づかれず、誰とも交わらず。


「そういえば……笑美ちゃん来たら、真、絶対テンパるよな。間違いないって。」

「……俺が代わりに勉強みてやるとか、そういうの、できたのかな。ただの勉強だし、別に変じゃないよな。」

「……もし俺が、真の兄貴だったら、どんな感じなんだろうな。ああいう時、助けてやるのが兄貴ってやつなんだろ?……たぶん。いや、知らないけど。ひとりっ子だし。でも……うん、きっとそうだ。」


「……」


「うわあああ!!何考えてんだ俺!?キモッ!」


タップ、タップ、タップ。


「……俺もさ……誰かに“親友”って思われてみたいな。たった一度でいいから。……ふっ。」


ブオオォ――


まばゆい光と、エンジンの轟音が思考を引き裂いた。


「えっ?な、なに――!?」


トラックが猛スピードでこちらに向かってくる。

身体が動かない。時間が止まったようだった。


――あれ?

……俺、死ぬのかな?


そのことだけが頭に浮かんだ。

目の前のライトがまっすぐ自分を照らしていた。


けれど次の瞬間――

考えるより先に、体が勝手に動いていた。

ギリギリで跳ねるように飛びのいて、歩道に転がる。

激しく胸が上下する。


「はっ……はあっ……くっそ!」


笑いが込み上げてきた。

震えながら、息を切らしながら。

たぶん、ただのパニックだったのだろう。


「今のは……マジで最悪……」


「……あぶねー。異世界転生するところだったわ、マジで。」


一は苦笑いを浮かべながら立ち上がり、ズボンのほこりを払った。


「さて……帰るか。」

夜の街灯がまばらに灯る中、長い道のりを歩いて、ようやくはじめは家にたどり着いた。

大きなあくびをしながら玄関で靴を脱ぎ、ぼそっとつぶやいた。


「ただいま……」



「……誰もいない。」



「誰もいないっ!!ってことは、好き放題できるじゃん!!」


社交的な引きこもりという奇妙な肩書きを持つ彼にとって、両親が仕事でいない時間――つまり家を独り占めできるこの瞬間こそが、一日の中で最高の時間だった。


いつものように、適当に食べ物を取り、ゲームをし、人目を気にせずに歌う。……え、それって普通?

まあ、判断は君に任せよう。


「はあ、もう……『マスター・ブランド』終わってから、何やればいいかわかんねぇ……」


ゲーム一覧をスクロールする。


「……ダメだ、どれもやる気しない。これもうクリア済みだし……誰かオンラインいるかな?」


……


「……誰もいねぇ。いや、ほぼ誰も……はあ、つまんね。」


ぐうぅ……

腹が鳴った。


「腹減った……なんか食うか。」


だるそうに足を引きずりながら階段を降り、キッチンへと向かう。

しかしその途中で――


「あ゛っ……物理の宿題……」


足を止めて、肩をすくめた。


「……まあいっか。明日で。今日はやる気出ねーし。なんか、変な感じするし……寒い……?」


冷や汗を拭きながら、パントリーを開ける。


「なんか、フラフラする……」


視界がぼやけ始める中、どうにかして何か食べられそうなものを探し続けた。


「……親父、買い出し行ってねーのかよ。ろくなもんねぇし……」


息が荒くなる。

頭がグラグラしながら、クッキーの箱に手を伸ばす。


「……うっ……」


階段へ戻ろうと身体を回したその瞬間――


「あっ……あ、ああああああああああ――ッ!!」


床に崩れ落ちた。


皮膚が裂けて、そして縫い合わされるような、そんな感覚。

体中の細胞が引き裂かれ、再構築され、また引き裂かれ――何度も何度も。

その痛みは、まるで津波のように彼を押し潰し、息を奪い、理性を奪った。


最初は、皮膚の下に炎が灯ったような熱。

しかし次に来たのは――鋭く、裂くような激痛。

見えない爪が四肢を、胸を、背中を引き裂き、内側がむき出しにされる感覚。

全ての神経が、狂ったように悲鳴を上げた。


冷たいタイルの床の上で身体が激しく痙攣する。

指先が勝手に動き、圧力が全身に満ちていく。

肋骨が軋み、背骨が引き伸ばされ、逆に縮んでいく。

顎は痛むほど食いしばっても、喉から漏れる悲鳴を止めることはできなかった。


汗が滝のように顔を流れ、唇からは唾液が滴る。

呼吸もままならない。肺が押しつぶされたように苦しい。

頭が割れそうだ――いや、実際に割れているんじゃないかと錯覚するほどの激痛。

骨の下に、"何か別のもの"が目覚めようとしているような、そんな不吉な感覚。


一は自分の腕を、胸を引っ掻いた。

原因を探し、終わらせようとした。

でも、何もなかった――血も、傷も、何ひとつ。

なのに、彼の身体は今まさに、崩され、作り直されていた。

「く、くるしいっ!誰かっ!助けてっ!お願い、誰か――!」


圧迫感がさらに増し、視界は光と色の粒に砕けていく。

耳には不気味なノイズが鳴り響き、あらゆる思考も、音も、すべてをかき消した。


そして、最後の――

本当に最後の、耐えがたい瞬間。


すべてが、砕け散った。


沈黙。

闇。

落ちていく感覚。


……落ちてる?


そう――彼は、落ちていた。


落ちて、落ちて、


――ドボンッ!!


冷たい水が肌を叩きつけるように襲いかかり、神経が一気に覚醒する。


「み、水……っ!?」


どうにかして水面まで浮かび上がることに成功した――が、問題はそこじゃなかった。


「な、なにこれっ!?ちょっ、誰かーっ!!お、俺、泳げないんだけど!?!」


「助けてっ!!誰か、お願いっ!!」


四肢をバタバタと動かし、水しぶきが四方に飛ぶ。

必死の動きは、生存本能によるものだった――だが、それだけでは足りなかった。

腕は力が入らず、脚も思うように動かない。

焦るほどに身体は沈んでいき、水は彼を飲み込んでいく。


誰も来なかった。


遥か遠くまで続く水平線。

空っぽで、冷たくて、何も答えてくれない。


波は静かに、だが確実に彼を覆い、叫びを、恐怖を、絶望を――すべてを飲み込んでいった。


「このまま……溺れて死ぬのか……? な、なんでだよ……何が起きてるんだ……!?」


思考が暴走し、暗く、混乱し、波よりも速く彼の中を駆け巡る。


「俺、何か意味のあることしたか……? 何も残せずに死ぬのかよ……俺って、ただの……無価値な存在だったのか?」


「死にたくない……っ……お母さん……死にたくないよ……」


――沈んでいく。


身体はもう限界だった。

疲労と重力と、海の底からの引力に逆らえず、彼は全てを委ねた。


だが意識だけは残っていた。

涙を流しながら、それでも生きようと願っていた。


けれどその涙も、海がすべて隠してしまった。

静寂の中、彼は深く、さらに深く、闇の底へと沈んでいく――


――その時。


手が。


冷たい指が、彼の手首を掴んだ。

力強く、それでいてまるで苦もなく、彼を引き上げていく。


「……っは……! がっ……けほっ……うっ……!」


肺が焼けつくように痛み、口から水を吐き出しながら激しく咳き込む。

どうにか呼吸を取り戻しながら、混乱した頭で考える。


「……い、生きてる……? なんで……?」


目が霞む中、彼を救った人物の背中が見えた。


白い髪。乱れたまま、風に揺れる。

まるで雪の糸が夜に溶け込むような、幻想的な白――アニメから飛び出してきたような姿。


「……生きてる? 本当に、生きてるのか……?」


救い主は彼のつぶやきを無視するように、片手で軽々と彼を引っ張っていく。


やがて、その人物がちらりと顔を向けた。


「生きてるんなら、いつまでも同じこと繰り返すのやめてくんない? ……はあ、せっかくやっと覚悟決めたところだったのにさぁ、お前のせいで台無しだよ。……だから、感謝しろよな?」


その声は冷たく、鋭かったが、どこか本気では怒っていないような、不思議な温度だった。


「わ、わかりました……っす……」


一の声はかすれ、心も身体もすでに限界を超えていた。

(覚悟? なにそれ……何のこと?)


その意味を考える余裕もないまま、ようやく岸にたどり着き、彼はずぶ濡れのまま砂に崩れ落ちた。

咳き込みながら肺の中の水を吐き出し、荒い呼吸の合間に、手で砂をつかみ、現実の感触を求める。


「はっ……はぁっ……ゲホッ……ここは……どこ……?」


「大丈夫か?」


再び、その声が聞こえた。


「……えっ?」


ゆっくりと顔を上げる。


助けてくれたその人物は、彼と同じくらいの年齢に見えた。だが――どこかが、違う。


風に揺れる、白くて乱れた髪。

少年とは思えないほど、静かで、研ぎ澄まされた雰囲気。


だが――彼の動きを完全に止めたのは、その「目」だった。


真紅。

まばたきひとつせず、まっすぐに見据えてくる。


好奇心。

不気味さ。

理解できない何か。


そこには、普通じゃない“何か”があった。


ぞくり、と背筋を冷たいものが走る。

体が勝手に強張る。

逃げたいのに、逃げられない。


その場に立ち尽くしたまま、ハジメは言葉を失った。


こんにちは、お元気ですか?ここまで読んでいただき、ありがとうございます。最初の章が気に入っていただけたことを願っています。もし少し一般的な内容に感じられたなら、お詫び申し上げます。しかし、私はオリジナルなものを書くために努力していますので、引き続き私を信頼し、読み続けていただければ幸いです。

お時間を割いて読んでいただき、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ