表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリムゾン・クリミナル

作者: 沙月Q

 ついに追い詰めた。


 火星の赤い大地(クリムゾン・ランド)の上で、私は容疑者の前に立ちはだかった。

「トム・ゴンドー、不動産詐欺の容疑で逮捕する!」

 ゴンドーはライフスーツのバイザー越しに笑って見せた。

「逮捕? 一体どんな権限で逮捕するというのかね? 一介の植民地保安官である君が?」

「そ……それは、地球連邦法に定められた権限に基づき……」

 ゴンドーの笑い声がイヤーパッドから響く。

「知らないと思っているのかな? 確かに君は地球では連邦保安官だったかもしれんが、今は火星植民地開発機構に雇われたただのガードマンみたいなものだ。それにこの未開発地域では、連邦法の効力も及ばんのだよ?」


 その通りだった。

 ゴンドーはテラフォーミングの済んだ地域で住宅地を販売していたが、基準以下の安全性しかない土地の売買や、契約の不履行などで莫大な利益をあげていた。

 確かに犯罪と言っていい所業で、裁きを求める市民の声も大きかったが、この未開発地域で私の立場ではどうしようもなかったのだ。


「さ、わかったら尻尾を巻いて引きあげたまえ。これ以上しつこいと、次は名誉毀損で勝ち目のない裁判で会うことになるよ」

「くっ……」

「では、忙しいのでこれで……ん? ……なんだこれは?」

 ゴンドーは会釈をしてそのままの姿勢から動かなかった。

 見ると、彼の足元から何か白いものがライフスーツに這い上がっていた。

 赤い大地から白い砂が湧き上がっているようだ。

「うわ……! 入ってきた!」

 地団駄を踏むように暴れ出したゴンドーの身体を、白い砂が包んでゆく。

 白い砂はついにライフスーツのヘルメットの中にも侵入し、バイザーの奥で恐怖に歪んだゴンドーの顔が砂に埋もれてゆくのが見えた。

「た……助けてくれ!!」

 次の瞬間、ゴンドーのライフスーツは突然中身が消えたようにどさっと地面に崩れ落ちた。

 確かにゴンドーは消えていた。

 どこに?


 後日、砂の正体は火星の先住生物であることがわかった。

 粒子状の一粒一粒が個体であり、かつ集まって一つの意思によって動く集合生命体ゲシュタルトオーガニズムでもあった。

 彼らは知的生命体であり、量子レベルにまで自らを細分化してどこにでも侵入可能だった。

 そして、他種生物の細胞を自分達と同じレベルに変換して同化することも出来た。

 さらに驚くべきことに、彼らは法治国家というべき共同体を形成しており、人類とも交渉することができたのだ。

 彼らの話では、ゴンドーは土地開発の過程で有毒な物質を土壌に散布し、彼らの同族の命を多数奪ったという。

 すなわち、我々とは別件のさらに凶悪な容疑によって逮捕されたのだ。

 彼らと同化させられたゴードンが、どんな裁きを受けたのかはわからない。


 私の後半生は、彼ら先住生物との折衝に費やされたと言っても過言では無い。

 この火星において、なんとか彼らとの共生は保たれているが、まだまだ問題は多い。

 太陽系連邦火星植民地警視総監を退職する今日この日、私は後輩諸君らにこれらの問題を宿題として残していくことに、いささか申し訳ない気持ちがある。

 中でも特に大きい問題とは……


 彼らの世界からやって来る犯罪者を、我々の世界でどう裁くのか? ということである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ