音
私は今生まれた。あなたがギターの弦を弾くとともに。この世に生み出された。そのストロークから、そのアルペジオから。
生まれたこの瞬間から泳ぎ出す。空間の中をまっすぐ水平に泳いでいく。空気を揺らして泳いでいく。同時に生まれた兄弟たちとともに。
兄弟たちが空気抵抗に勝てずにフェードアウトしていく。力尽きて消えてゆく。
それでも私はまだ泳げる。既に力尽きた兄弟たちの分まで。まだもう少し泳いでられる。
もう少し先に行ける。もう少し…さき、へ…
あるときとある偉い文学教授は言った。「音楽などという曖昧なものを文章で表すことはできない」と。
だから私は挑戦し続ける。音を主観とした文学に。