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第二章【十二】

 真田桃香を抱きしめる。

 猛獣ではない。

 ナイトスターの腕に抱き止められた母は、猛獣の姿をなくしていた。

 縮んだとか、消えたのではなく、なくした。

 桃色の体毛は桃色の巻き毛になり、巨躯は豊かな乳房に詰まり、正気を奪われた瞳は、困惑に揺れていた。

 真田剛毅の願いが、魔法には遠くても、術として形になったのだ。

「いいの?」

「もちろん」

「あなたには……無限の可能性があった。魔法少女になるって、そういうことよ」

 魔法少女、魔力を使う者。

 意志を使って想いを形にし、極めた先で願いを形にする。

 使い魔だった桃香は知っていた。

 息子の真田剛毅は、カードを切った。

 姉を蘇らせようと、仇を討とうと、ツッパリたろうとしてきた真田少年は、家族を選んだ。

「母さん。力を貸してくれ」

 真田少年の意志に基づいて、女が騎士の形になる。

 魔力を通じ、改めて彼女を騎士の姿に変える。

「私は、あなたに黙っていたのよ? お姉さんを死なせる原因を担った。これが終わったら、貴方に殺されてもいいって……」

「わざとじゃないし、母さんはずっと、俺といてくれたんだ」

 胸に手を当てて、真田少年は笑う。

「それに、姉ちゃんはずっと、ここにいたからさ」

「ねえ、ちょっと助けてーーーー!」

 気の抜ける悲鳴。

 遠がキューティクルスターの攻撃を必死で避けまわっている。

 もう焔を出す余裕もない。

 ただ、卓越した身のこなしだけでキューティクルスターの猛攻を一心に捌く。

「モモ……!!」

 自身の半身、かつての親友、自分を守り、導いた存在が、今、他の誰かの家族になった。

 使い魔の絆が絶たれた。

 それを識った、かつての市長。

 在りし魔法少女の存在が、崩れた。

「どうして……また私の物にしたでしょう……! なのに後から出てきた家族につくの……!? そんなのズルい……ズルいわ……!! 許さない……オ、オンギャ……!!」

 顔も四肢もだらけ、身を丸め。

 目を閉じ、口を半開きにした。

 それから顔をしかめ、腕を振り回し。

 手には宝剣と宝玉の短剣を再構築したガラガラを握っている。

 魔法少女だった彼女は、選んだ双極に呑まれた。

「オギャーーーーーーーー!!! オギャア!! オギャア!!!!」

 桃香が離れた瞬間、かつての魔法少女が、双極に呑まれた。

 交雑乙女。使い魔を人間にする仕組みを研究し、生み出した技術。

 使い魔は“魔法少女の願い”を反映、必然的に主と対極の性質、気質、生き方になる。

 造物主の欠けた部分を埋める使い魔は、寵愛を得て、強い魔力を受け取る。

 魔法少女の在り方の対面が故に、使い魔は力と存在を強める。

 故に、魔法少女を定義するのは、彼女らが生み出した使い魔ですらあった。

 桃香を、母を、保護者を生み出したキューティクルスターは、現実に負け、オギャっている。

 己が定めた魔法少女と双極の自分に、屈して喰われた。

「ぶうぅーーーーーーーっ!!!」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

「ちょっ、たっ、助けてー―!!」

 ガラガラを鳴らすと大音量の面攻撃が襲う。

 オギャリバブバブに堕ちた魔法少女は、周囲に浮遊する人造魔力を片っ端から吸い、すぐに攻撃に変えている。

「大丈夫」

 遠を守るように、鋼鉄の巨楯が彼女を覆う。

 魔力のガラガラ大音嘯。

 それを、桃香が防ぎ抜いた。

 桃香の怪力、防御力。

 騎士の力は、ナイトスターの魔力を受け、たしかに強化されていた。

 それだけではない。

 コスチュームの至る所が破け、肌にも傷と痣を拵えていた遠の外観が治っていく。

「サンキュ。おかげで完全覚醒したわ」

 遠の頭に手を乗せ、真田剛毅は前に出る。

 もう魔法少女の姿をしてもいない。

 コスチューム、プリリンバース。

 それらは真田剛毅の周辺に霧散し、家族と遠に繋がっている。

「ね、ねえ。どうすんの? 変身解いてるじゃん」

「男一匹、身一つってやつだ。ツッパリだろ?」

「意地っ張りにもなってない!!」

 オギャるキューティクルスター。

 ガラガラを振り、振り、真田剛毅の全身を叩く。

 音が骨に響き、内臓をシェイクする。

 これでいいと思った。

 これでなくてはとすら思う。

「あ、あたし達も加勢……」

「駄目よ。この空間内では私達は攻撃できないの」

「な、なんで……?」

「これが俺の願いだ。“強く生きてる姿をみんなに見てほしい”。だから、この空間にいるなら、俺がツッパれる限りは、誰も死なない。俺が守られる存在じゃないって見せてやる」

 一歩、音の嵐の中を進めば羽が生える。

 もう一歩。首、頸動脈を鱗が盛り上がり、襟のように保護する。

 さらに一歩。鱗の裾が太ももを隠す。

 額を龍眼一文字。

 後頭部には長く柔らかな角が二つ垂れる。

「さあさあ! ここにいるは街の番、張らせてもらってる真田剛毅! 姉は静! 母は桃香、妹は琴音! ダチは遠! いっちょ張るか、ツッパリの意地! 俺は絶対に強え!!!」

「オギャア!オギャア!!」

 赤子に心を呑まれたキューティクルスターは強く首を振ってナイトスターの名乗りを拒絶した。

 プリティプディングを殺して奪い取った魔力。

 それをブースターに高速化させた、交雑乙女の完成度、人造魔力の貯蔵量。

 溜め込んだものすべてを、人の持つ理性をオギャらせることで破壊し、解放。

 ガラガラがひっきりなしに鳴らされ、音の津波が何度も繰り返し雪崩になって迫る。

 真田剛毅の鱗が、それを弾く。

 使い魔として生まれた少年、その形に戻り、強化されたことで。

 今の少年は青色の焔を持つ半竜人になっていた。

「喰らえ!」

 翼をはためかせて飛翔した真田剛毅が、赤ん坊へと殴りかかる。

「イヤッ」

 頬を膨らませたベイビーがプイッと顔を背ける。

 拳が魔力壁に激突。

 赤ん坊を守る揺り籠が、あらゆる干渉を跳ね除ける。

「ダアゥダウダウ」 

 拳を繰り返し打ち込む。

 竜の鱗は硬い。

 そこに青い焔を纏っている。

 暴走した時にもやったが、真田剛毅の本質たる竜は、エネルギーを吸う焔を使う。

 防御を、魔力を叩いて、溢れた欠片を魔力に取り込む。

「キャッキャッ」

 何が起きているのか判断できないキューティクルスターが無邪気に笑う。

 ――よおしこの仕事でみんなのためになるんだ!

 ――あの……こんにちは……私、貴女の先輩魔法少女、キューティクルスターって言うの。

 ――え、使い魔を人間にしたいんだ? もちろん教えるよ

 取った魔力を通して相手の過去が流れ込んでくる。

 それに伴う感情も。

 姉を殺した奴もかつては希望と理想を信じていた。

 ――あのね、私も貴女の力になろうと思ってるの。もっと、魔法少女と軍隊の距離を縮めて、いつでも避難民の誘導とか、防衛網を張ったりとかできたら、貴女も思いっきり戦えるんじゃないかな

 ――どうして駄目なんですか! 新人だからって関係ないです! 話を聞いて下さい。

 ――ごめん……ムリみたい。もっと経験を積んで色々わからないと、提案もできないって

「オギャアアア!!」

 過去を見られているとはわからないだろう。

 それでも嫌な感覚を受け取ったのか、キューティクルスターがガラガラを振るう。

 音の嵐が少年を後退させた。

 壁にクレーターができ、ドラゴンの鱗で直接のダメージを受け止めても、響く振動が内臓をシェイクする。

 胃袋、肺、腸が棒で雑に掻き乱される感触。

 不快であり、苦痛。

「バッブ―」

 揺り籠が突進して来る。

 避ける時間はない。

「母さん!!」

 剛毅の呼びかけに応じ、桃香の楯が揺り籠を受け止めた。

 遠を護っていた彼女の瞬間移動。

 人間の体を持っていれば不可能なことだ・

 しかし、今の彼女は人間の形に固定されていはいない。

 自らを魔法少女にしていた余剰分の魔力を解放し、領域内の生命を維持していた。

「これが俺の魔法……にする予定の術だ。これをもって、俺は“強くなった姿をみんなに見てもらう”。だから母さんはもうお前の使い魔でもなんでもない。俺の家族だ。母さんはずっと生きて、俺の活躍を見るんだ」

「え、でも今、守ってもらったよね……?」

「でも攻撃はさせねえ。できねえからな」

「ず、ズルくない……?」

 遠の指摘は強引に無視した。

「さあ来い。俺とお前のタイマンだ!」

「ブウうううううう」

「オギャった耳には念仏か」

 大きく息を吸った赤ん坊。

 普通ならそこで集まるのは空気だが、ここで来るのは人造魔力のありったけ。

 さっきの攻撃の再現。ナイトスターが躱すことができなかったもの。

 そして、今回はあれよりも集める魔力が遥かに多い。

 ガラガラが分解され、宝玉を軸に角笛が形成されていく。

 規則正しいガラガラの音色ではない。

 無軌道で、強制的な泣き声が来る。

 桃香に守ってもらえるのは一度に一箇所が限界。

 これから来るだろう全方位への大泣きは、遠では避けようもない。

「俺、やってやるぜ」

 自分の胸から、かつての英雄、その武器を取り出す。

 先代が世界を救うのに用いた神杖プリリンバース、またはプレ・リバース。

 真田剛毅を人間にした魔法“守る家族が欲しい”で宿った、魔力。

 それを素に構築したかつての伝説。

 見た目だけ、プリティプディングの術は出せない。

 けれど、ここには真田静の願いが詰まっている。

「ハンマー!!」

 杖を長柄の大槌に変形させる。

 上半身を逆直角に反り、赤ん坊が大泣きするのに備えた。

「おおぎゃああああああ!!!」

 泣き声。

 その前に来る、先ほどと同じ極大魔力の奔流。

 あの時は自力ではどうにもできなかった。

 たまたま自分の中にいる真田静の残滓にコネクトでき、奇跡が起きた。

「砕く!」

 朱黒い魔力に大槌をぶつける。

 プリティプディングの攻撃。

 その威力のみを再現した攻撃は、キューティクルスターの一大オギャリと拮抗。

 巨大な魔力を大槌が割って、砕いて微細な破片を舞わせていく。

 ――ごめんなさい……ごめんなさい……私にもっと力があれば死ななくても……!

 ――これまでお世話になりました。けれども、もう貴方達の牛歩に合わせて人を死なせる気はありません。

 ――そうだ、桃香に会おう。久しぶりに顔を見るけれど、どうしているかな

 真田剛毅にキューティクルスターの魔力、それに連動した過去が流れ込む。

 通底するのは敗れ続ける理想、自分の力の無さを突きつけられる日々。

 疲れ切って打ちひしがれ、親友の顔を見ようと思った姿。

 相手の魔力を吸い取って、大槌がさらに巨大化する。

 キューティクルスターよりも経験のない少年には、使える魔力の上限が低い。

 だが、ここが勝負どころだ。

 後を考えず、真田剛毅は吸い取った魔力をそのままに攻撃に変換。

 それによって、いっそう魔力が砕けていく。

「あんた、言ったよな。双極をいつかは俺も選んだ方が良いって」

 魔法少女は、正反対の属性を選ぶと強くなる。

 己が成ろうとしている者に。

 交雑乙女に至っては、そうしなければ魔法少女の力を再現できない。

 ケツ怪人はケツ、キャナリークライは不老か永遠、おそらく震儀遠は踊り子かアーティスト。

 ――子供が、桃香に子供がいる!? 良かった。幸せになれたんだ。

 ――腐ってもいられないよね、桃香と子どものためにも頑張ろう。二人が安心して生きていられる世界にするんだ。

 根幹のシーンが見えて来る。

「俺は決めた、俺は【俺】になる」

 どうしてキューティクルスターが堕ちたのか。

 何処で、彼女は己の弱さと、世界の暴力に膝をついたのか。

 ――え、もう会わない? どうして? 私は平気だよ? 休みなんていらない。それより聞いて。私はね、魔法少女を模倣するシステムを作ろうと思うの。貴女にも教えたでしょ? 使い魔を人間にする魔法のやり方。あれを応用すれば、人間が魔法少女になれると思うの。まあ実態は使い魔の在り方を応用したものだけども、そこは格を重視したいから……。

 姉は、プリティプディングは首を振った。

 彼女にとっては、キューティクルスターに受けた教えは非常に役立ち、恩人として尊敬していた。

 だから憔悴した先達を見るのが悲しく、辛かったのだ。

「魔法少女の双極。それは俺自身だ。お姉ちゃんが願った、俺の意志を持つ俺だ。それが魔法少女として強いだの弱いだのは知るか。俺は、俺でいることを力にする」

 ――お願い。少しでいいから、貴女の弟さんのデータを取らせて。私の使い魔だった子は、魔法が定着して、構造がわかりにくいし……

 プリティプディングは声を荒げた。

 家族は絶対に巻き込まない、と言った。

 当然であり、キューティクルスターも本来は絶対に、頼まなかったことだ。

 髪、衣服、身だしなみのすべてを野放図にした、かつての魔法少女は裏切られたような気持ちで顔をくしゃりと歪めた。

 ――どうして? どうして私を否定するの? 力がないから? 頼りないから? じゃあ、魔法少女じゃなくなった私は、無意味だってこと……?

「そんなことはない」

 大槌が砕け、同時に朱くて黒い闇が払われた。

 双極を選んだことで強引に強めて高めた魔力、技術。

 これによって、ナイトスターは桃香の楯、静の矛を再現し、現実に固められる。

 赤ん坊として出し切った交雑乙女、キューティクルスターの顔に正気が戻る。

 否、これは正気という理性ではない。

 眼前で己が殺した後輩魔法少女と、親友の加護を用い、策を上回った真田剛毅への憎悪。

「おのれ……桃香の息子……!! クソガキがぁ!!」

「あんたの理想、努力は尊敬する。やり直せ。何年かかってでも、世界は……俺はあんたを待つ。だってもう喧嘩したからダチみたいなもんだ」

 憎しみも怒りも消えたわけではない。

 殺してやりたいという衝動も引き出そうと思えばいくらでも引き出せる。

 だが、やらない。それは真田剛毅ではない。

 ガラガラを宝玉の剣に戻し、赤ん坊から魔法少女の在り方に立ち返ったキューティクルスター。

 叫び、剣を振るい、突き刺そうと迫る。

「力がなくても安心しろ」

 両手の拳に青い炎を巻きつける。

 魔法少女が使うモノではない。

 真田静の鏡面として生まれた使い魔、弟という形を与えられた。

「俺がいる。だから大丈夫だ」

 篭手、ガントレット、ナックルガードではない。

 柔らかなグローブというのが正しい。

 絶対に殺さない。特に、真田剛毅と結びついた存在は。

 味方、自分の正体を識り、結びついた者には、魔力の及ぶ範囲内は徹底的な被害が及ばず、自分の正体を知る敵のことはどれだけ殴っても、戦う力をなくさせるだけで殺さない。

 力を奪い、戦いを止めるのに特化した、真田剛毅の生来の資質。

 他者の心に触れようとし、誰よりも情が深く、戦うのに向かない彼の気質を殺さないもの。

「これが俺の魔法《始源共有シークレット・アイデンティティ》」

 無理矢理に造った、本来は遠い未来で得るはずの奥義。

 市長、キューティクルスターが語った姉の在り方、確固たる己を確立してこそ他者からの助けを十分に活かせる、というものでは到底ない。

 とにかく他者を活かす、死なせない、他者の存在を確立させる。

 姉や市長が定めた《自己を強く作り上げる》《自分の力を増させる》《他者からの助けを強力》にするというものではない、真逆のもの。

 他者の生命、存在を不可視の鎖で繋ぎ、魔法少女の力で守護する。

 こちらに敵意を向ける者でもお構いなしに、“真田剛毅”を識る者は死なない、彼の戦いを見届ける。

 だから、少年はたった一人で世界に立ち向かう。

 敵の剣よりも速く、キューティクルスターの胸を突いた。

 衝撃が背中に突き抜け。

 肩に剣が突き刺さる。

 魔力が内臓に響き、血反吐を吐く。

 また殴る。敵の口から歯が飛ぶ、顎の骨が折れる。

 剣がそのまま体内へ潜っていく。

 不快感、体の内側から敵の嘆き、怒り、児戯オギャリが膨らむ。

 ――イヤ。イヤ……ごめんなさい……ごめんなさい……私が……無力だから……

 ――真田静!! 彼女を殺す!!! これは正義の為ではない、未来と人々の生命のためよ!

 ――オギャア! オギャア…………誰か……助け……

「お前の魔力(喧嘩)は市長の演説よりずっとお喋りじゃねえか」

 上体を捻って腕を振りかぶる。

 後先は考えない。

 この一発で相手の魔力を断つ。

 魔法少女としてのリソースは全て、味方と敵を守るために使っている。

 彼が出せるのは自身を構成する魔力体、真田剛毅そのものだけ。

 それが自分だと理解し、決意する。

 魔法少女として全てを守り、ツッパリとして喧嘩に勝っておしまいにするのだ。

 負けられない。母とダチが見ている。

 キャナリークライが言った“勝利の秘訣は小細工とクソ度胸”は、後者しか満たせない。

 それでも後者がある。

 己を構成する魔力80%を攻撃に転換、真田剛毅の美しい顔立ちがドラゴンのものになり、尾は禍々しく、牙が尖り、舌が伸びて、口から焔が垂れ流される。

 姉の願いに反し、竜人と化し、弟としての人間の形を解く。

 だが拳だけは人間の手。

 姉の形見を読んで決めた、子供っぽいその場の思いつきで抱いたもの。

 ツッパリがキメのシーンでデカデカと戦いを終わらせるのに必須な儀式。 

「パンチ!!」

 魔力と魔力の衝突。

 キューティクルスターの顔が崩れ、交雑乙女の形が消えていく。

 彼女の長年の野望、怒り、憎悪の結晶がその顔から削れていく。

「俺はもっと強くなる」

 拳を突き出し、少年は宣言した。

「誰かが無力に屈しないように」

 決意を耳にし、女は力を抜いて苦笑した。

 瞳を閉じ、後ろに倒れ込んでいく。

 そうして、彼女は意識を喪う。

「馬鹿ね……」

 最期に、呪いのように、漏れた言葉。

「それじゃあ私の二の舞いよ」

 純粋に真田剛毅を案じるもの。

 それは、市長としてのものか、ようやくかつての魔法少女の姿に戻れたのか。


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