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第二章【八】

 モモカ、愛称ピーチティが桃香になって、一番変わったのは彼女とキューティクルスターの周辺だった。

 人間の体を持ったことで、桃香は魔法少女と常に一緒にいる大親友になり、桃香を通じて数多くの友人と繋がりを持つことができた。

 それによって、泣き虫の魔法少女は変化を起こした。

 涙に明け暮れることはなくなり、同年代の少女と活発に話をし、朗らかな笑みを浮かべるようになった。

 そして、キューティクルスターは自分の意見をハッキリと告げるようになった。

 いつでも顔を上げるようになって、胸を張って歩くことが増えた。

 生徒会長に立候補し、無事に任期を務めた。

 その過程で様々な思い出を共有し、魔法少女も引退した彼女は、桃香に告げた。

「今までありがとう。私、自分の足だけで歩いてみようと思う」

 桃香にとっても記念すべき日だった。

 大学の卒業式の日。

 かつての魔法少女は自らの道を定め、桃香も人間として個人の生活を営もうと思った。

 そうして、子供ができ、いくつかの別れを経験し、人と繋がりながら生きてきた。

 娘の琴音が大きくなった頃、脅威が現れ、その時代の魔法少女が現れた。

 魔法少女キューティクルスターによる魔力の供給がなく、せいぜいは身のこなしが優れている程度では、何かあったら怯える他なかった。

 空を魔獣が埋め尽くし、魔法少女プリティプディングが退治している。

 避難シェルターに逃げ、桃香は幼い娘を抱きながら、脅威が去るのを待った。

「うわーーーん! 怖いよぉ。死にたくないよぉ!!」

「大丈夫。大丈夫だから……」

 ヒステリックに叫ぶ人々がいる中で、桃香は娘に語りかける。

 こうしていると、使い魔として、友として魔法少女といた時が恋しくなる。

 あの時は、戦場の最前線にいた。

 死ぬか生きるかを肌で感じ取れた。

 自分たちが人類の生存を決める力を持っていた。

 だが、今は違う。

 すべては自分以外の誰かが世界を守っている。

 力のない人間は、危機が過ぎ去るのを待つしかできない。

「おい! そのガキを泣き止ませろ!」

「ごめんなさい、すぐに泣き止ませますから……」 

 状況を無視して大泣きする琴音。

 無遠慮にぶつけられる非難の視線には敵意も混じろうとしている。

 力が懐かしかった。

 力が欲しいと思った。

 家族を守り、敵を打ち砕くパワーが。

「あら、桃香じゃない」

 聞き覚えるのある声。

 昔はどこにいるのか手に取るようにわかった相手。

 元魔法少女。キューティクルスターだった女性がいた。

 目には大きくて深い隈を作り、きっちりとしたタイトスカートをボロボロにし、整えた髪があちこちにほつれた。

 そんな“ありきたりな避難民”をしている元魔法少女。

「やっぱりそうだ。ひさしぶりね。少し話さない?」

 後に、すべてが取り返しがつかなくなってから、桃香は思う。

 あの時、彼女がいたのは偶然ではない。

 避難シェルターは無数にあり、二人の居住区も、職場も遠く離れていた。

 本来なら異なるシェルターにいて当然だ。

 だが、そこにいた。

 光のないぬばたまの眼球。

 充血し、まばたきも忘れるほどの憔悴。

 唇もまともに動かないような在り様。

 それを見ると、桃香はかつての使い魔の感情が蘇った。

 ――力がほしい。

 ――別のなにかにならなければ。


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