せっかく魔法少女になったんだし、魔法を使ってみる。
「どうして……どうしてこんなことになったんだ……」
新垣は、自分の顔を水面に映したまま、涙を流した。彼は、自分が何が起こったのか理解できなかった。彼は、自分がゲームのキャラクターになってしまったのだということはわかっていた。しかし、それがどうして起こったのか、どうやって元に戻れるのか、何もわからなかった。
彼は、トンネルを通ってこの世界に来たのだと思った。だから、トンネルを通れば元の世界に戻れるのではないかと考えた。彼は、湖から立ち上がり、トンネルの方へと走り出した。しかし、そこにはトンネルは無かった。トンネルがあったはずの場所には、草原が広がっているだけだった。
「えっ!? トンネルが……消えてる!?」
新垣は、信じられないという表情で周囲を見回した。しかし、どこにもトンネルの痕跡は見当たらなかった。彼は、自分が夢でも見ているのかと思って、自分の頬をつねってみた。
「痛い……。夢じゃない……。」
彼は、自分が夢でも見ているのではなく、現実にこの世界にいるということを確信した。彼は、自分の状況に絶望した。トンネルが消えてしまったということは、元の世界に戻る方法がないということだった。彼は、自分の人生を思い出した。彼は、自分の人生に満足していなかった。仕事も家庭も友人も恋人もない。趣味もない。楽しみもない。彼は、自分の人生に意味があるのかと疑問に思った。
そうだ。
元の世界に戻っても、何も良いことがないのだ。だったら、この世界で新しい人生を始めてみるのも悪くない。幸いにもソフィアは美少女だ。それに、「魔法少女クロニクル」には三千万円も課金しただけあって、ソフィアはゲーム中でも最強と呼べるほどの存在だった。ソフィアとしての第二の人生を楽しんでみるのは、悪くない。そう思った新垣は、気を取り直した。
「でも、ソフィアとして生きるなら、口調もソフィアに合わせないといけないわね。」
新垣はそう独白した。女言葉はちょっと気まずいけど、慣れの問題ね。ソフィアはそう考えて、自分がゲームで作った魔法少女になっているということを受け入れた。
次にソフィアは、自分が魔法を使える筈だという事実に興味を持った。
「そうだ、魔法を使ってみましょう。」
ソフィアは、杖を持ち直し、空に向かって振り上げた。彼女は、ゲームで覚えた魔法の呪文を唱えた。
「ファイアボール!」
狙いは湖の中央付近だ。距離は1キロメートル程もあるし、湖なら火事の心配もない、という判断だった。
呪文を唱えた次の瞬間、杖の先端のクリスタル部分から火の玉が発生し、空中で大きく膨らんだ。それは直径1メートルの大きさの赤い火球だったが、いきなり収縮を開始。野球ボールサイズになると、色が赤黒く変色していった。
「やばっ!?」
ソフィアは、自分の産み出した火の玉が異常に小さくなっているのに気づいた。そして、その火の玉が赤黒く変色しているのにも気づいた。彼女は、ゲームで覚えた知識を思い出した。ファイアボールは、火の玉が大きくなるほど威力が強くなる魔法だった。しかし、あまりにも大きくなりすぎると、火の玉が核融合反応を起こしてしまう危険性があった。その場合、火の玉は小さくなり、色が赤黒く変わり、爆発する前に強烈な放射線を放つということだった。
「まさか……これは……核融合爆弾!?」
ソフィアは、恐怖に震えた。彼女は、自分が産み出している魔法が、ゲームではありえないほどの威力を持っていることに気づいた。彼女は、自分の魔法が湖に落ちると、周囲一帯を吹き飛ばすことを予想した。彼女は、慌てて狙いを変えた。湖ではなく、遠くの山脈に向けて魔法を飛ばした。
「あそこなら……誰もいない筈だから……。」
ソフィアはそう思った。しかし、彼女の判断は甘かった。彼女が放った魔法は、山脈に着弾すると、巨大な爆発を起こした。それはまるで太陽が地上に落ちたかのような閃光だった。爆発は山脈を吹き飛ばし、10キロメートル以上離れたソフィアにまで衝撃波が届いた。
「きゃあああああ!」
ソフィアは、衝撃波から身を守ろうとして、杖を構えた。彼女は、ゲームで覚えた防御魔法の呪文を唱えた。
「ディメンション・プロテクション!」
杖から黒色のバリアが発生し、ソフィアを球形に包んだ。それは、次元を歪めてプレイヤーを守る効果をもった最強の防御魔法の一つだった。