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トンネルを抜けると、そこは異世界だった。あと、俺は女の子になっていた。


「ああ、また月曜か……」


 新垣あらがき たかしは、会社の帰り道にため息をついた。彼は40歳の会社員で、営業部に所属している。しかし、彼は営業が苦手で、成績はいつも下から数えた方が早い。上司からは怒鳴られ、同僚からは見下され、部下からは信頼されない。そんな彼には、家族も友人も恋人もいなかった。


 彼は孤独だった。両親は早くに他界しており、兄弟もいなかった。結婚もしておらず、もちろん子どももいない。学生時代も目立たない存在で、友達と呼べる人もいなかった。社会人になっても、仕事以外の交流はほとんどなかった。彼は自分の人生に絶望していた。


 彼の唯一の楽しみは、スマホゲームだった。彼は「魔法少女クロニクル」というゲームにハマっていた。このゲームは、プレイヤーが自分の好きな魔法少女を作って、異世界で冒険するという内容だった。このゲームの特徴は、リアルタイムで他のプレイヤーと協力したり競争したりできることだった。また、ゲーム内では様々なアイテムや装備品が存在し、それらを集めることでキャラクターを強化できることだった。


 新垣は、ほかに趣味と言えるものも無いので、このゲームに三千万円も課金していた。彼はそのお金で、自分の理想の魔法少女を作っていた。


 彼の魔法少女は、名前を「ソフィア」と言った。スタイル抜群の美少女で、銀髪ボブカットに赤い瞳が印象的だった。彼女は魔法使いの服装をしていた。黒いとんがり帽子に、黒いマント。マントの下は紫色のレオタードだったが、それは、新垣の趣味に合わせて過激なハイレグタイプで、かつ、胸の谷間から臍までを露出する超Vネック仕様だった。

 彼女は魔法の杖を持っていた。杖の先端に七色に輝くクリスタルを装着したその杖は、新垣がゲーム内で最高ランクのアイテムを集めて作ったものだった。その杖だけで、リアルマネーが一千万円ほど飛んでいる代物だった。そのおかげで、彼女はゲーム内で最強の魔法を使えた。


 新垣は、ソフィアに憧れていた。彼は自分の人生に満足していなかったからだ。彼は、もし自分がソフィアのようになれたら、どんなに幸せだろうと思っていた。


 そんなある日の深夜零時。会社からの帰り道。いつものように歩きスマホで「魔法少女クロニクル」をプレイしていた新垣は、トンネルを見つけた。それは、存在しないはずのトンネルだった。彼は通勤ルートとして数十年も同じ道を使用していたからだ。もしも、そこにトンネルがあるのなら絶対に知っている筈だった。興味を持った新垣は、歩きスマホをしながら、まるで引き寄せられるかのようにそのトンネルに入って行った。トンネルは思ったよりも長く暗く寒かった。彼は途中何度も引き返そうと思ったが、彼の足は言うことを聞かなかった。まるで、自分の足ではないかのように彼の足は勝手に動き続け、やがてトンネルの先に明かりが見えて来た。やっと出口に近づいたのだった。安堵した彼は、足早に出口へと向かう。


 良かった。

 やっと家に帰れる。

 帰ったら、数日ぶりにお風呂に入ろう。彼はそう考えた。

 だが、トンネルの先は、彼の知っている街ではなかった。つい先ほどまで深夜だったのに、そこは、二つの太陽が輝いていたのだった。


「なっ!?」


 新垣は、驚きのあまり声を出す。そして、自分の声にギョッとした。彼の声は、甘い女の子の声になっていた。彼は、自分の身体を見ると、さらに驚愕した。彼は、女の子の姿になっていたのだった。


「ええええええ!?」


 彼は現状に驚愕して、絶叫をあげる。恐る恐る自分の胸を触る。すると、豊満な乳房からは柔らかくて弾力のある感触が伝わってきた。自分の下半身に触ると、そこにあるべき筈の男性器は無くなっていた。そのかわりに彼の股間には女性器があった。

 服装を確認してみると、どうやら紫色のレオタードの上に黒マントを羽織っているようだ。頭部に被っていた帽子を手に取ってみる。それは、黒いとんがり帽子だった。スマホで現在地と時刻を確認しようとした彼は、さらに驚いた。つい先ほどまで確かに左手に持っていたはずのスマホが、消滅していたからだ。そのかわり、彼の左手には、杖の先端に七色に輝くクリスタルを装着した杖が握られていた。


「これはひょっとして、ソフィアになっているのでは……?」


 そこで彼は、近くにあった湖に近づいてみることにした。自分の顔を確認しようとしたのだった。


 彼は湖のほとりにしゃがみ込み、自分の顔を水面に映してみた。そこには予想どおり、銀髪ボブカットをして、赤色の瞳をした美少女の顔が映った。やはり、彼は、「魔法少女クロニクル」で自分が使っていたアバターの「ソフィア」になっていたのだった。


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