第一章 出会い
◆第一章 出会い
外の景色はきれいな夜景を見せながら流れていく。
「次は~中星、中星です。車内に忘れ物ございませんようご注意ください。乗り換えのご案内です…。」
いつものように聞きなれた放送を耳にはさみながら窓の外に目を取られる。
まるで初めて見る景色のようだ。外は輝き、人々がざわめき、雨が地面を打つ。いつも見ているはずなのになぜなのだろうか…。電車はそんな俺を載せながら駅を高速で通過していく。接近の音がチチチチと音を立てながら通り過ぎていく。そして、一瞬横に揺れた。実は全国の中で、よく揺れる名所として知られている。だが初めて乗る人はここでバランスを崩しやすく、座席に向かって倒れそうになったりすることもざらにある。今日も誰か倒れてくるかとヒヤヒヤしながら座席に座っていると、右斜め前に立っている二十代程の女性が一瞬バランスを崩したかと思うと二十代程のペットのゲージらしきものが開いてしまい、中から黒猫が俺の方に向かって一目散に飛び出してきた。思わず俺はあっと声を上げてしまう。
「すみません、大丈夫ですか!?私の不注意で…本当にすみません!」
顔を上げると焦っている感じで俺のことを見ていた。猫もなぜか俺のことを睨んでいる。何か言いたげな顔をしている。まるで何か言ってほしそうなような、そんな感じの何かを感じる。とりあえず、俺は女性に声をかけた。
「あぁ、大丈夫ですよ。それより、この猫…ものすごくかわいいですね」
「よかったぁ…。ていうかこの猫かわいいですよね!?」
女性が安堵と興奮が混じったような笑顔を見せた。かわいい。夜景と同じぐらいにきれいでいつまでも見れそうだった。黒猫はニャーと鳴く。いっちゃえよみたいなノリなのだろうか。そんな感じの何かを感じた。てか俺は猫のことを都合よく考えてるだけだろうか。まぁ、この雨で出会いが減った中このような機会はなかなかないと思い、少し声をかけてみることにした。
「可愛いですね!実はその可愛さにひかれて、前から猫好きの人と会って色々お話を聞きたいと思っていて。よければこの後一緒にカフェとか…どうです?」
「私でよければ…ぜひ!」
「よかったです!」
そんな会話を終え、気が付くと周りの目は白く俺の方を向いているように感じた。外の景色は黒という闇に沈み、赤や青のネオンが目立っているというのに…。というのもあっという間に終わり、周りはすぐにスマホに目を落とした。まるで俺たちを見るのが苦痛でもあるかのようだった。まぁ、そりゃバカップルらしき人が周りに聞こえるように会話してたらそりゃそうなるわな。そういえばこの黒猫ずっと俺の膝で寝てるな…逃げる気配もないし別にいいか。
「あのー。大丈夫ですか?」
黒猫をじっと見ていた。そのせいで彼女の声に気付かなかったようだ。
「え、あ、どうしました?」
気が付くと東星前駅、中星駅の次の駅に着いた。終点までは後一駅だ。
「いや、なんか黒猫をじっと眺めてたので…あ、となり失礼します!」
気が付くと隣には彼女の姿があった。ドアの外に目をやるとさっきまで隣にいた学生が、ほほえみを浮かべながら俺にグッドサインを出していることに気が付く。今どきの学生ってすげぇなぁ、と思いながら彼女にこう返す。
「あぁ、全然大丈夫ですよ。終点、ついたらどうしましょうか。」
「え?、カフェによるんですよね?あ、私おすすめのお店あるので一緒に行きましょうよ!」
「あ、そうでした。おすすめの店、行ってみたいです。」
カフェかぁ。前にいったのいつだっけな。だって…
ガタンゴトン…カタンコトン…
あんなことが起こったら趣味も、楽しいことも、悲しいことも。全部全部。
嫌になって、毎日が何もなく、ただ作業だけの毎日を過ごしてるように感じるんだよな。つまらない、か。うまく表せないけどそのような感情をもっていつも生きている。学生時代の時はもっと楽しかったはずなんだけどなぁ…
「まもなく~終点の燕ヶ丘に到着します。落とし物、お忘れ物がないか再度お手回り品をお確かめください。お乗り換えのご案内です。東西線、南北線、HK各線はお乗り換えです。本日は新燕鉄道をご利用くださいましてありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。」
どこか温かみのある車掌さんの声をきいて、自分の身支度をする。彼女も張り切りながら降りる用意をしているようだ。
「もう、終点ですね。そういえば、名前聞いてなかったんですけどなんてお呼びしたらいいですか?」
「うーん、私“原野 光”といいます!、はらのって呼んでください!、あなたの名前はなんてお呼びすれば…」
「南。」
「え?南…さんですか?」
「うん。南。白波 南。」
「南さん…かっこいい名前ですね!」
え?と一瞬俺は戸惑った。南という名前をかっこいいと言われたのはいつぶりだろうか。中学生、はたまたもっと前。覚えていないが久しぶりだ、ということだけわかる。ここまで心が動くのも久々だ。社会人になる前、追いかけていたんだ。あの夢を。パンポーンパンポーン。ドアチャイムが響く。
「燕が丘、燕が丘。ご乗車ありがとうございました―――。」
雨の音、人の雑踏、雲で覆われつくした星空。この景色が当たり前になってしまったのはもう半年前、と考えるとどこか切なく感じた。
「南さん、人混みで見失わないようにしましょうね!」
「あぁ、わかってますよ。」
あれ、そういえばなんで俺は燕が丘に…あ。やってしまった。まぁ、ほしっちのことだし許してくれるだろう。まぁ、後で謝罪スタンプ連投して今度居酒屋おごることで許してもらうか。
「南さん、なにしてるんですか。早く行きましょう!」
「あぁ、すまん。ちょっと友人のこと考えてたわ。」
「友達思いなんですね…ふむふむ」
「ん?どうかしました?」
「あ、いえ!お気になさらず。」
「あぁ、わかりました。」
「なんか、敬語だと気まずいですし、タメ口とか…どうですか?」
「原野さん、それでいいならそうしますか?」
「やった~!じゃあもうため口でいいよね!!??」
「いいですよ…」
女性ってこんなものなのか…てかやけにテンション高いな。変なものでも食べたのだろうか?まぁ、敬語だと気まずいしこれでいいか。今は原野さんについていかないと、見失ってしまいそうだ。。異性と二人きりなんて初めてだしものすごく緊張する…うまくいくのだろうか。