エピローグ
私は走った。見慣れた王宮の中を。
私の両足は、前後に動く。足がある、手がある。顔がある。人間の姿であることがこれほど嬉しいと思ったことはない。
時間は私が強く思った時間に、戻ったようだった。
あの時、王宮に華々しく戻って来た軍隊の行進があって、淡い国花のピンクの花が散っていた。
勇者ルー・ウェインを見たのは、イントーン王家の神殿、ギリシア、ミューズなどの神を祀った十二神殿の大理石の柱の影からだった。
青光りする髪をなびかせた、栗色の瞳の精悍な勇者の姿に、大勢の女の人が顔を赤らめた。
私は出勤の確認をしに出たただの使いッぱしり。
出勤帳を集めては部署に回している。
多数の部署の出勤簿など、私は放り投げた。
通りすがりの侍従がそれを拾って慌てて止めたけど、私は全力で走った。
アデルは王神殿で王様の腕を取りながら、笑みを振りまき、自慢げに歩く聖女で、大勢の男に囲まれて、我がまま言って、ちやほやされている。いつもの日常だ。
ガタックは王宮の端の軍兵の庁舎で、トランプでもして休憩している頃だろうか。
エリーレッドは王宮の博物館で働く研究家。魔法書物を整理したり、魔道具を発掘研究したりしている人だ。魔道具の置き方がなってないって、今頃若い娘いじめているのでないかしら。
私は高台にある神殿の大理石の柱まで、走り切った。息があがる。
今度、会ったら、出会ったら、嘘のない自分の気持ちを言おう。
エセ美女でない真実の私で、本当の私の気持ちを。
そう決意していた。
大理石の柱の通路を歩いて、高床の端に立つと、勇者ルー・ウェインが大勢の民衆に笑顔で手を振るのを見た。爽やかな笑顔で、鎧を着た姿が逞しくて・・・
会えたら、分かるかな?
きっと分かると思うよ。
「マリース」
そう言って、ルーが手を止めて、私に微笑んだ。
(了)




