リース
ヨンダルク国に到着したクリス達。
クリスは1人で町中を歩いていたら、盗賊団【風魔】に襲われている少女を見つけて助けた。
助けた少女は、何とヨンダルク国の姫リースだった。
リースは、城で開催された宴会の場でクリスを見つけてアイリスに「クリスをくれないかしら?」と言うのであった。
【ヨンダルク国・城内・大広間】
数多くの料理が並んでおり、騎士団やメイド達が楽しそうに話し合ったり、お酒を飲んだりして盛り上がっている中、リースは微笑みながらアイリスに交渉を持ちかけていた。
「アイリス、どうかしら?クリスを私にくれない?もちろん、それ以上の…。」
「やるわけないでしょう!」
「そうよね、ごめんなさい。この話をアイリスにしても意味がなかったわよね。アイリスには決定権がないのだから。やはり、バルミスタ国王様に直接話さないといけなかったわね。悪かったわ、アイリス。」
「そういうことじゃないわよ!」
「私は忙しいから、じゃあね、アイリス、クリス。」
「ちょっと、待ちなさい!リース!人の話を聞きなさいよ!ああ!もう!何でこうなったのよ!」
アイリスは、頭を抱えた。
「ハハハ…。」
苦笑いを浮かべるクリス。
「ハハハ…じゃないわよ、クリス!笑っている場合じゃないわよ!町で、何かあったんでしょう?そうじゃないと、こんな事態になるはずないものねぇ。」
アイリスは、凄い形相でクリスに詰め寄る。
「その…まぁ…。」
クリスは、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「まぁ、良いわ。先にリースを追うわよクリス。もちろん、追っている間に説明してくれるわよね?」
アイリスは、笑顔を浮かべていたが額に青筋を立っていた。
「……はい…。」
クリスは、恐る恐る町であった経緯を話しながらリースの後を追った。
「はぁ~、まさか助けた相手がリースだなんてね…。」
「ごめん、アイリス。でも、あの時、リースの容姿とか知らなかったとはいえ、その、ごめん。」
「クリス、もう謝らなくって良いわ。クリスは、人助けをしただけだもの。それに、私もリースの容姿をクリスに教えていなかったのが悪かったのだからお互い様よ。」
(お父様とお母様ならリースから好条件を出されても大丈夫なはず。きっと断ってくれるとは思うけど。)
アイリスは、走りながら心配する。
リースは、アイリスの両親であるバルミスタとシリーダ、自身の両親であるヨルズとリオンが話し合っているのを見つけて駆け寄る。
「お久しぶりです、バルミスタ国王様、シリーダ様。」
「久しぶりだな、リース。」
「お久しぶりね、リースちゃん。フフフ…とても可愛くなったわね。」
「ありがとうございます。ところで、お2人にお願いがあるのですが。」
「私達にか?」
バルミスタは、頭を傾げる。
「はい。」
「リース、突然に何を言い出すのだ。」
「ヨルズ殿、別に気にすることはない。長い付き合いなのだからな。」
「すまないな、バルミスタ国王。」
「で、リースよ。私達に、お願いとは一体何なのだ?」
「ありがとうございます。そちらに所属しているクリスという、私と同い年ぐらいの少年を頂けないでしょうか?もちろん、それ以上の見返りを用意しますので。」
「おい、リース。何を勝手に…。」
「良いじゃない、あなた。異性に全く興味がなかったあのリースが一目惚れしたのだから、ここはリースのためにも。」
「ああ、そう言われるとリオンの言う通りだな。どうだろうか?バルミスタ国王。愛娘の言う通り、こちらは十分な見返りを用意すると約束しようではないか。」
「ヨルズ殿。すまないが、どんな条件をつけられてもクリスは渡せん。」
「ええ、そうね。ごめんなさい、リースちゃん。」
バルミスタは迷いなく即答し、シリーダも頷いて賛同した。
「そうか…。もし良ければ、理由を聞かせて貰えないだろうか?やはり、クリスが【六花】だからか?」
「いや、それもあるが、クリスは私達にとって家族の様な存在だ。相手がリースなら良いと思う。」
「では、なぜ駄目なのだ?バルミスタ国王よ。」
「それはだな。1番の理由は、愛娘のアイリスがクリスに好意を抱いておるからだ。」
「そうか、残念だ。仕方ないな。これは、諦めるしかないか…。」
ヨルズ達は、肩を落としてため息を吐いた。
「おっ!アイリス。大丈夫だ、安心して良いぞ。丁度今、断ったところだ。納得して貰うために、理由もちゃんと話したぞ。アイリスはクリスに好意を抱いていると伝えたら理解して貰ったところだ。」
アイリスとクリスに気付いたバルミスタは、手を振りながら大声でアイリスに伝えた。
それと同時に、大広間にいるスノー・ランド国民以外の全員がアイリスに視線を向けてざわめき出す。
「おい、今の聞いたか?クリスって誰だ?」
「さぁ?聞いたこともない名前だな。【六花】のメンバーには、いないはずだ。」
「だよな。」
「そんなことよりも、精霊ウンディーネを宿しているアイリス様に好意を抱くんじゃなくって、アイリス様がクリスという男性に好意を抱いているって本当なのかしら?」
「父君であられるバルミスタ国王様が仰っているのだから間違いないと思うわ。しかも、バルミスタ国王様とシリーダ妃様は既にお認めになさっているみたいだし。」
「公認しているということは、やはり、【六花】ぐらいの相当な実力の持ち主だと俺は判断した。おそらく、がたいが良くて岩男の様な強靭で屈強な男だと俺は思う。」
「そうかしら?私はどちらかっていうと、何処かの国のお金持ちで魔法に長けた格好いい王子様だと思うわ。」
部屋のあちらこちらで、ヒソヒソと話し声がする。
「な、な、な…。」
(もう、お父様の馬鹿…。)
皆の視線が集まっているアイリスは、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まり耐えれなくなって俯いた。
「もう、あなたったら。そんな大声で話さなくっても。アイリスの気持ちを考えて下さい。」
「それは、悪いことした。すまなかった、アイリス。」
バルミスタは、謝罪をした。
周りの人達は誰がクリスなのかを探していた際、今まで全く気付かなかった魔力と気配を完全に消しているクリスに気付いた。
「フフフ…何?あの子、可愛い。【六花】のコスプレをしているわ。」
「アハハ…だな。【六花】メンバーの誰かのお子さんかな?」
「そうだと思うわ。でも、あの【六花】の衣装は、とても精密に出来ているわ。まるで、本物みたい。」
「だが、やはりマントにはナンバーがついてないな。」
「多分、わざとだと思うわ。だって、ナンバーをつけたら誰の子か一目瞭然だもの。」
「そうだな。」
周りの人達は、クリスの格好を見て微笑んだ。
そんな中、リースはアイリスに歩み寄る。
「アイリス。」
「な、何よ?リース。」
少し落ち着いたアイリスだったが、まだ頬が少し赤く染まっていた。
「私は、クリスを諦めないから。覚悟しときなさい!」
リースは、アイリスを指差して宣言する。
「ええ、良いわよ。受けて立つわ!リース。」
アイリスは、毅然として堂々と言い返した。
「流石、アイリス。私のライバル。私のライバルなら、そうこなくっちゃね!」
「だって、勝敗はもう決まっているもの!」
「あら?奇遇ね。なら、こんな不毛な勝負をせずに、さっさとクリスを私に譲れば早く決着がつくのだけど?」
「頭、大丈夫?リース。勝つのは私に決まっているのだけど?」
「へぇ~。どうして、そんなことわかるの?」
「だ、だって、私はクリスと…キ、キスをしたもの!」
「へぇ~。じゃあ、これで同じね。」
リースは、アイリスの隣で静観しているクリスの頬を両手で優しく押さえて背伸びをして口づけをした。
「~っ!?」
突然の予想外な事態にクリスは反応できず、驚愕して大きく瞳を開いてされるがままになった。
「なっ!」
アイリスは言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。
「~っ!?誠に申し訳ない、バルミスタ国王、シリーダ殿。我が愛娘が、ご無礼をお掛けした。」
「本当に、申し訳ありません。どうか、許して頂けないでしょうか?」
慌てて、頭を下げて謝罪をするヨルズとリオン。
「私は気にしていないから、2人共、頭を上げて欲しい。本人達も納得しているみたいだから大丈夫だ。」
「ええ、そんなに気にしないで下さい。」
バルミスタは頷き、シリーダは肯定しながら優しくリオンの肩に手を置いた。
「感謝します。それにしても、リースの行動力には困ったわね、あなた。」
リオンは、苦笑いを浮かべて夫のヨルズに振り向く。
「全くだ。本当に、困った愛娘だ。」
深いため息を吐くヨルズ。
「お、おい!今の見たか?今、リース様があの少年とキスしたぞ!」
「ええ、あの子は一体何者なの?まさか、あの子がクリスって子なのかしら?」
「おそろく、その可能性が非常に高いだろうな。でも、あの少年からは全く魔力が感じられないどころか、気配すら感じないぞ。その場にいることを意識して見ていないと見失いそうだ。これじゃあ、まるで…。」
「まるで、幽霊って言いたいのね?」
「ああ、そうだ。本当に、あの少年は人間なのか?」
周りがクリスを見てざわめく。
その時だった。
クリスの左側にはアイリスがいたが、誰もいなかったクリスの右横から膨大な殺気と魔力が発生すると共に、クリスの右側には鋭い眼光をした国王直轄護衛騎士団【ドリア】第1席のガディウスが接近しており剣を振り上げていた。
「リース様に、ご無礼を働いたことは万死に値する!死ねぇ!」
ガディウスは、剣を振り下ろす。
クリスは、一歩後ろに下がって攻撃を避けながら右手でガディウスの胸元を掴んで片手で一本背負いをしてガディウスを地面に叩きつけると同時に腰を落として右膝でガディウスの右肩を押さえつけて剣を振れないようにして左拳に魔力を込めて振り下ろす。
「クリス!ダメ!」
アイリスは慌てて制止の声を出した直後、大きな音が城中に響いた。
誰もがガディウスの頭が弾けたと思い、咄嗟に目を瞑り、部屋中が静寂に包まれた。
「クリス、まさか…。」
アイリスは、胸元を握り締めて心配した声で尋ねる。
「ハァハァ…大丈夫。アイリスのお蔭でギリギリで外せたから。」
クリスは身体中から冷や汗が出ており、クリスの左拳はギリギリガディウスの顔に当たらず床にめり込んでいた。
「~っ!ガハァ…ダハァ…ハァハァ…。」
確実に死んだと思ったガディウスは、過呼吸に陥っており呼吸が上手くできずに胸元を握り締めて苦しんでいた。
「「貴様!」」
我に返った国王直轄の護衛騎士団【ドリア】のメンバー6人は、殺気を放ちながら一瞬でクリスを囲った。
「「~っ!」」
クリスだけでなく、アイリスも険しい表情に変わり、【六花】のユナイトとユーリアも腰に掛けてある剣に手を伸ばす。
場の空気が張り詰め、少しでも誰かが動いたら戦いが始まりそうなほど一触即発になり緊迫する。
(糞、今すぐにでもクリスのところへ向かいたいが国王様と妃様を守らなくてならないから、ここから離れることはできない。もし、クリスを殺したら容赦しないからな。)
ユナイトは、歯を食い縛りながら駆けつけたい気持ちを圧し殺しながら耐える。
「お兄様、国王様と妃様は私と騎士団達で死守しますので、クリス君を助けに行って下さい。」
ユーリアは、小声で話す。
「すまない、恩にきる。」
ユナイトが移動しようとした時、リースが手を叩く。
「はい、お仕舞い!」
皆がリースに視線を向けた。
「どう?わかったでしょう?ガディウス。クリスの実力。」
「ええ、リース様が惚れるのもわかりました。あの完全に決まったと思えた不意打ちを簡単に避けたり防ぐだけでなく、反撃までして来るとは予想外でした。危うく、殺されかけました。ハハハ…。ですが流石、リース様です。人を見る目がお有りですね。」
「でしょ!」
腰に手を当てて胸を張るリース。
「「……。」」
リースとガディウスの話を聞いて場の張り詰めた空気が一気に消えた。
「はぁ、リース。やってくれたわね。」
アイリスは、呆れた表情でリースを一瞥した。
「だって、必要のことじゃない?これからは、お互いに支え合っていかないといけないから。」
「あの不意打ちで、クリスが死んだらどうするのよ?」
「初めて会ったのならしないわよ。だって、死ぬ可能が高いから。でも、今回は別よ。町中でクリスの実力を見たから大丈夫だと確信したの。」
「でも、リース。あの時、私がクリスを止めなかったら、ガディウスさんは死んでいたと思うのだけど。もしかしてとは思うけど。もし、あのままクリスがガディウスさんを殺めていた場合、あわよくば、その責任としてクリスを【ドリア】第1席にしようと思っていたんじゃないの?」
「「え!?」」
全員が驚愕の声をあげた。
「あ、あのリース様。私はリース様を信じておりますが、本当なんですか?アイリス様が仰っていることは。」
恐る恐る尋ねるガディウス。
「な、何のことかしら…?わ、私は…そ、そう、アイリスが止めてくれると信じていただけよ。今回は、全て私の計画通りよ。」
リースは落ち着きがなくなり、視線を逸らしながら挙動不審で声が裏返った。
((本当だったんだ…。))
リースの態度を見た全員が心の中で一致した時だった。
「リース様…。」
愕然と肩を落とすガディウス。
「ハハハ…。」
「はぁ~。全く、油断も隙もないわねリース。あなたの性格は相変わらずね。」
クリスは苦笑いを浮かべ、アイリスは深いため息を吐いた。
「そうかしら?誰だって、必要なものや欲しいものがあれば全力で手に入れようとするのは極当たり前じゃない?」
頭を傾げながら、リースはキョトンとする。
「限度があるわよ…。」
アイリスは、深いため息を吐いた。
「本当にすまない、クリス君。どうしても、君の実力が知りたかったんだ。君は、魔力どころか気配すら全く感じられないから、どれほどの実力があるのかが不安だったんだ。いざという時、俺達の背中を任せられるかどうかをね。」
「で、どうでしたか?ガディウスさん。」
「フフフ…。何の問題もない合格だ。いや、上目線な態度で言ってしまい申し訳ない。おそらく、君の方が俺達よりも強いだろう。だから、改めて言わせてくれ、是非、俺達にその力を貸して頂けないだろうか?」
「はい、僕で、できる範囲でのことでしたら協力させて頂きます。」
「ありがとう、クリス君。君が入れば、とても心強いよ。」
ガディウスは、クリスと握手をした。
「期待しているぞ、クリス。」
「ありがとう、クリス君。」
周りにいた人達が拍手をしながら歓喜の声をあげ、城中に響き渡った。
こうして、無事に1日が終わった。
翌朝、クリス達は話し合って町の見回りの範囲とメンバーを決めて各班で巡回することになった。
クリスとアイリスとリースの3人は、比較的安全な大通りや商店街、住宅街を回ることになっており、現在は商店街を歩いている。
「お父様もガディウス達も皆、心配しすぎなのよ。私とアイリスは精霊を宿しているんだから、このメンバーならどんな相手でも絶対に負けることはないわよね。」
「そうね。私も正直に言うと、過保護過ぎると思うの。」
「いや、油断は禁物だよ。その油断が、危ないと判断されたんじゃないのかな?風の国は、1度は精霊のウンディーネを狙ってアイリスを襲ったことがあるし。あの時は、どうにか勝てたけど。攻めてきたバルダスは、【四季風神】第4席だった。あの時、バルダスより実力が上の人達だったら、僕は殺され、アイリスは風の国へと拉致されていた可能性があったからね。」
「それは、そうだけど。でも、あの時とは違うわよ。あれ以降は実戦訓練もするようにして、私は、あの頃よりも強くなったわ。」
「そうだね。」
クリスは、微笑む。
「あ、アイリス様にクリス。それに…。あと1人は誰だ?」
ボルは手を振りながら声を掛けたが、最後リースを見て頭を傾げた。
「「え!?」」
ボルの声を聞いて振り返るとボルだけでなく、アクア学院の生徒達や教師達もいたのでクリスとアイリスは驚愕した。
「え?え?何でボル達がいるんだ?」
「連れないことを言うなよ、クリス。毎年恒例の冒険者ライセンスを取るために、ここヨンダルク国に訪問しているんだ。」
「いや、それはわかっているけど。確か、今はヨンダルク国は入国禁止になっているんじゃあ…?」
「あ、そのことか。理由を船長に聞いても、「上の命令で内容までは知らされていない」と言っていたから、ナヤ先生が「私達は、毎年恒例でヨンダルク国へ訪問してご迷惑を掛けたことが1度もありませんが、それでも駄目ですか?」と言って説得してくれて入国できたんだ。」
「「……。」」
クリスとアイリスは、言葉を失った。
「ちょ、ちょっといいかしら?リース。」
「きゃっ。」
アイリスは、リースの肩を掴んで力ずくで引き寄せる。
「これは、どういうことなのかしら?」
「ア、アイリス。顔が近いし、怖いわよ。あまり、表情を険しくするとシワになるわよ。」
「うるさいわね。いらないお世話よ。そんなことより、どうするのよ。この事態。」
「……アッハ!」
暫し沈黙したリースは、満面な笑みを浮かべた。
「アッハ!じゃないわよ。何、満面な笑みを浮かべているのよ!リース。」
「これは、私も予想外な展開なのよ。でも、こちらの失態だと認めるわ。本当に、ごめんなさい。」
「来てしまったのだからどうしようもないよ。とりあえず仕方ないから、まずはバルミスタ国王様とヨルズ国王様に報告して、できるなら匿って貰えるか頼んでみるよ。」
「まぁ、そうするしかしなわね。」
「流石、私のクリス!」
「何が「私のクリス」よ!少しは反省しなさいよ、リース。」
アイリスは、冷たい目線でリースを一瞥した。
「あの、クリス君。もしかして、私達が来たのは非常に不味かったのかしら…?」
教師のナヤは、自分が説得して自分だけでなく大勢の生徒達と教師達を入国させたことに責任を感じており表情が暗く動揺が隠せずにいた。
「ハハハ…。正直にいいますと非常に不味いです。正確に言えば、非常に不味いというよりも危険と言った方が正しいのですが、でも、大丈夫です。皆を匿うことができると思いますので。」
「ほっ、良かったです。」
「ナヤ先生、まずは皆を連れて安全な城へ行きましょう。それで、良いかな?2人共。」
「ええ、そうね。」
「私も異論ないわ。」
アイリスとリースは、頷いて賛同する。
こうして、クリス達は、1度、城へと戻ることにした。
クリス達はヨルズ国王達に報告し、学院の皆は無事に城内で匿って貰えることになった。
用事が済んだクリス達は、ヤンチャな男子達がいるので少し不安だったが再び巡回しに戻ることにした。
【城内】
教師と騎士団、メイド達は学院の生徒達が外に出ない様に監視している中。
「すげぇ~広いな。」
「ああ、豪華だしな。この広さなら、鬼ごっこできるからしようぜ!」
「良いな、それ。鬼ごっこしたい奴は、俺の所にあ~つまれ!」
「俺も入れてくれ!」
「僕も!」
1人の男子が右手の人差し指を立てて真上に挙げると他の男子達が続々と集まっていく。
一方、女子達は城の内装見たり、天井を見上げてシャンデリアを見たりして感動していた。
「わぁ~!凄い!とてもキレイ!」
「だよね!それに見てよ!あのシャンデリア。私、装飾があそこまで細かいのは初めて見たよ!」
「私も初めてだよ!あれ?ナヤ先生、どうかされましたか?」
1人の女子が教師のナヤがクスクスと笑っていたのを見て頭を傾げながら尋ねる。
「フフフ…。いえ、あなた達女子と男子の違いが面白くって、ついね。」
「まぁ、男子は子供だよね。」
「だね。」
女子達は、鬼ごっこしている男子達を見て呆れていた。
他の生徒達とは別にボルとユリは、大きな窓の前に立っており、ユリは深刻な表情をして左手の掌を窓ガラスに触れていた。
「ねぇ、ボル。私、思ったんだけど。今のヨンダルク国は、私達が思っている以上に危機に陥っていると思うのだけど。」
「そうか?なら…う~ん。例えば、魔物が増え過ぎているとか?」
「それなら、町中に大勢の騎士団達が巡回していないわよ。」
「何でだ?ユリ。」
「だって、魔物が原因なら町中よりも町の外に騎士団を配置するもの。」
「そっか、普通に考えればそうだよな。じゃあ、まさか…。」
「そう、魔物じゃないとすると、盗賊や暗殺者、工作員、もしくは脱獄した囚人が町中を彷徨いている可能性が考えられるわ。」
ユリは、後ろにいるボルに振り返りながら答えた。
【町中の大通り】
「ねぇ、リース。【風魔】は、あと何人いるの?」
「おそろくだけど、あと最低3人はいるはずよ。」
「その中に【四季風神】はいるのかな?」
「いないわ。だけど、油断できないのよ。なぜなら、変わらないぐらいの脅威があるの。【四季風神】第4席だったバルダスは倒れて代わりにバルダスの妹のバルシナが【四季風神】第4席に選ばれたでしょう。バルシナの他に唯一、【四季風神】候補だったモーランがいたことは確かよ。」
「モーランって人の属性とかわかるかな?」
「土属性よ。」
「なら、絞り込もう。」
「そんなことができるの?」
「リース。その代わり、このことは誰にも言わないで欲しい。」
「わかったわ。約束する。でも、そんなことが可能なの?」
「古代魔法の明鏡止水を使えば、絞り込むことができるんだ。まぁ、魔力を完全に消しているなら無理だけどね。でも、極僅かでも魔力が出ていれば可能だよ。じゃあ、アイリス。」
「ええ、私は東側を捜索するから、クリスは西側をお願いね。」
「わかったよ。」
クリスとアイリスは、目を閉じて意識を集中させて騒音などが一切聞こえなくなった。
「「明鏡止水。」」
完全に集中しきった2人は、自分達の前に澄みきった大きな湖をイメージをして一滴の雫を落としたイメージをする。
雫によって湖の表面に波紋が発生により、湖の中に無数の色鮮やかな小さなビー玉が映し出されたイメージになり色鮮やかに変わる。
赤色は火属性の魔力の持ち主、青は水属性の持ち主、緑色は木属性の持ち主、カラフルな色は風属性の持ち主、茶色は土属性の持ち主、黄色は雷属性の持ち主、白色は氷属性の持ち主に分類され、周囲にいる人達の魔力の種類と位置が判明した。
大きさが大きいほど、色が濃いほど膨大な魔力の持ち主を表す。
「クリス、こっちには土属性の持ち主は9人いるわ。だけど、強くっても騎士団より弱いぐらいの実力者しかいないわ。」
「こっちは、26人いる。あった、反応は小さいけど濃い茶色が1人。その近くに風属性の持ち主が6人いて集まっている。その6人は騎士団と同等ぐらいの実力者かな。場所は、あの教会辺りだよ。」
報告したクリスは、目を開けて教会の場所を指をさした。
「ねぇ、アイリス。どっちが先にモーランを倒すか勝負しない?」
「面白いわね。良いわよ。」
「だから、2人共、油断は禁物だから。」
「「クリスは黙ってて!これは女の勝負なんだから!」」
アイリスとリースは、凄い形相を浮かべながら激怒し声が揃った。
「要らないことを言って、ごめん…。」
正当なことを言ったクリスだったが、2人の迫力に完全に押し負けて何故か謝ってしまうのであった。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。