3.遠い国
私、サラ・エテールは国王の執務室へ向かった。
バタバタ
バタン!!
「?!」
「姉さんっ!はぁ〜」
姉と呼び、ため息をつく弟がいた。
「いったいどのくらい皇后やってんの?お淑やかにとあれほど言ってるのに!」
「まぁまぁ、アダン。なんだいサラそんなに慌てて」
サラと呼ぶのは国王陛下。わたしの夫。
アダンは私の弟。
「陛下が甘やかすから!」
アダンはまだ叫んでいるけど、気にしない。
「あなた、ノルドの封印が解けてしまったわ!」
国王の眉間に皺が寄った。
アダンはあんなに怒っていたのに泣きそうな顔をしている。
ノルドと1番仲が良かったのはアダン。
国王が口を開く。
「私の魔力は落ちている。どこかで光の魔法を使えるものが地上に降り立った。
しかも、五大元素の精霊の祝福を受けている」
「ノルドと一緒ね」
「そうだ、本来ならノルドが光の魔法士になった。だが、わからない。先代魔王を討伐して500年以上の時を経て魔族ではないノルドが呪いを受けたのか」
私たちの最大の疑問。何百年もわからない。
「五大元素の精霊より魔王の呪いの方が上ということか」
吐き捨てるようにアダンが言った。
私たちは魔王の祝福を呪いと呼んでいる。
精霊たちから祝福されているノルドが魔王になる。
何万年も昔からそんなことはなかった。
魔族が魔王になる。ずっと当たり前だった。
歴代の光の魔法士が歴代の魔王を殺す。
古書を読んでもそう書かれている。
歴代の国王は最短で約400年、最長で約1500年国を統治してる。
精霊の祝福によりとても長寿で10代前の国王も存命しているが普通の農民として隠居しているので国政には関わってはいない。
9代前、7代前はすでにお亡くなりになっている。
側近の魔法士たちも長寿で平民出身者がほとんどのためか、長く国を統治していても平民の生活をしている。
「その光の魔法士のところにいきますわ!」
アダンは口を開けて何言ってるんだコイツわという目で見てくる。
「時空も次元も超える新たな魔法を見つけましたの!」
「誠か!さすがだ。サラ!」
「いつもはバカなのになんで魔法の才能だけはすごいのか…」
「ですが、あなたお別れです。私は私でなくなってしまうかもしれない」
「どういうことだ?」
「光の魔法士が、国内にいてくれればいいのだけど魔族がいる場所とはまったく違う異次元で時空を超えると私は生まれ変わらなくてはならないの。でも、絶対成功する!たとえ、別の姿になってもあなたのところに必ず戻ってくるわ」
危険な賭けとはわかっているの。
だけど、やらなくてはならないわ。
稀ではあるが光の魔法士は異次元に生まれることもある。
本来なら光の魔法士を召喚するが最善の方法だが、一緒にノルドを封印した魔法士が立て続けに亡くなった。
200年前に1人100年前に1人。
ここまでは偶然かと思ったが去年2人も亡くなった。
残るは私と国王それにアダン。
アダンは火の魔法が得意な最上位魔法士。
今は宰相をしている。
他の魔法士も3元素から4元素の精霊と祝福や契約をしているから千年以内で寿命が尽きるなんて今までなかったのに。
しかも、国を統治している期間に国王や側近の魔法士が亡くなるなんてこともなかった。
ことは急を要するの。
召喚魔法にしたいけど私とアダンの魔力では足りない。
そして、転移もできないから転生するの。
魂だけの方が魔力が少なくて済から。
あなたをひとりにするのは悲しいけど、また逢えるって信じてる。
ほかの大臣たちもとても優秀な人達ばかり、宰相のアダンの仕事を任せても大丈夫。
「アダンも連れて行くわ」
「えっ?!」
「ひとりだと魔力が足りないもの」
「なんか、何百年も前にも同じこと言ってたな。はっはっは」
「陛下!もっとちゃんと言ってくださいよ!」
「こういう頼もしいサラが好きなんだから仕方ないだろ」
「頼もしいとは言わないです!」
自室でローブに着替えて、魔法を書き記した本を持って大広間に行く。
国王はわかっいてる。言い出したら聞かない私のこと。
それに私たちだっていつ寿命が尽きるかわからないわ。
「もしかしたら、この世界にいるかもしれないしね!」
望みはある。かもしれない。