4.『儀』のはじまり
4.『儀』のはじまり
『はじまりの地』に、現在の魔王である槐と、神々の代表としてユリシズと、新たな聖女である桜が集まり、顔を合わせた。
聖女は人間代表なので、桜は聖獣であるレヴィアスの傍へ行く。
「お久しぶりです。レヴィアス殿下」
「……久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
落ち着き凪いだスカイブルーの瞳を桜に向けてくる。
ユリシズに連れられて王宮を出てから、桜は結局の所、一度も王城へは戻らなかった。
母と父のそばに居たかった事もあるが、『儀』で、母と繋がった後、どうすれば母を助けられるのかを、昼間は王城で働くカイと毎晩顔を突き合わせて話し合っていた。
祖父は黙って見守っていてくれたが、祖父にとって最愛の人だった金の女神の娘の創った『壁』を失くす話し合いに、祖父を巻き込むのは気が引けた。
「良い案は出たか?」
レヴィアスの問いに、桜は苦笑した。
「まずは母と繋がれるか。『壁』とは繋がらず、再生維持はしないと意思表示して、その旨の『諾』をユリシズからも頂けたら、母と魔力を通して生命が繋がれるかを試します」
サクラの母親は、槐の後ろに控えているウォルディアスが抱き抱えて連れて来ている。
遠目だが、サクラに少し面影が重なる気がする。
「サクラとサクラの母上が繋がれても、母上が、『壁』と繋がったままでは、サクラの魔力も生命も結局は『壁』と繋がって持って行かれてしまうのでは?」
ぐっと、サクラが表情を引き締める。
「その恐れがあるので、私の生命が母を通して『壁』に触れる瞬間に、私ごと母を『壁』から、殿下の力と繋がった時のアレを使って引き剥がして欲しいのです」
母ごとサクラまで『壁』に繋がってしまっては、元も子もない。
ーーまた、難題を。
心の中で苦笑して、レヴィアスは桜を優しく細めた眼差しで見つめた。
「……それがサクラの望みならば」
「出来ますか?」
問い掛けに、
「初めてだからな。やってみる……としか」
それは、桜と確実に繋がれるであろう…そして、何度か暴走させ、失敗した事のあるレヴィアスにしか頼めない事だった。
母と同時にレヴィアスも繋がり、力を暴走させて、『壁』からの干渉を弾き返そうと。
桜の中の力と繋がって力を暴走させれば、何度か失敗した時の様に強い力で弾かれる。その反発する力を使えば、繋がろうとするであろう『壁』を弾き返し、同時に母親と『壁』との繋がりも引き剥がせるのでは、と。
「槐と私では、出せる案はこれで精一杯で」
この案も、昨晩思い付いたくらいなのです。
「ぶっつけ本番だな。得意だ」
何とも心強い(?)言葉に、桜がレヴィアスの右手を両手で包み込んだ。
「槐では、何度魔力を繋いでも、レヴィアス殿下の時のように暴走する事が無かったのです。恐らくは、私の魔力の封印に槐の魔力が使われていた事もあってか、私と槐の魔力は馴染みすぎていて」
兄妹だからという事もあるのかも知れない。
昨晩思い付いたというこの方法を、2人は何度も試してみたに違いない。
「でも、これは、私達家族の問題です。もし失敗したとしても、絶対に責任は感じないで下さい」
無理な相談だと、分かっているのだろう。
そう言った後、桜がレヴィアスの手を額に当てて小さく震える声で「ごめんなさい」と呟いたのを、レヴィアスは聞き逃さなかった。
「きっと上手くいく」
レヴィアスは桜を優しく抱き寄せて、額にキスを落とした。
一瞬で離れた柔らかな感触に、桜は慌てて額を両手で押さえた。
「あっあの…‼︎ 先日のお返事は、『儀』の後でさせて頂きたいと……‼︎!」
「ああ。『儀』が終わったら、ゆっくり話そう」
レヴィアスの綺麗な微笑みを見上げて、桜も微笑む。
2人で何かを成し遂げようとするのは、2回目だ。
披露目で光の花を咲かせたあの時と、今回と。
ーーお母様を助けられたとして、私の生命は後どれくらい残るのかしら。
人として過ごせるくらいには残るのか。
人以上に長く生きる時間が残るのか。
それとも。
全く残らない可能性だって、ある。
ーーもし、それでも許されるなら。
私も、レヴィアス殿下と共に、歩いて行きたい。