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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第八章 掴みたい未来
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2.見えざる意思


「カイ殿。私も魔物の国に行けますか?」

 アーダルベルトの質問に、頂いた書類に抜けが無いかを確認する手を止めて、幾分高い位置にある漆黒の瞳を見上げた。

 今は力も自在に使えるようになり、自らの瞳の色も漆黒に変えてある。

 おおよその事象は側近として知っておくべきとの事で、アーダルベルトは殆どの事情を知っている。

 桜と槐が双子の兄弟である事も、槐の闇の魔力が桜から戻された事も、桜が神の国から戻って来ている事も。

 初代魔王が桜と槐の祖父に当たる事も、あっさりと受け止めた。

「黒をお持ちなので、普通の方が来られるよりは耐性があるのではないかと思いますが、アーダルベルト様がいらして平気かどうかは来られてみないと分かりません」

 レヴィアスは元々聖獣の血を受け継いでいるので大丈夫だろうが、アーダルベルトはどうだろう?

 ウォルディアスは、漆黒の髪と瞳は単純に魔物の血が色濃く出ているだけだと言っていたが。

「サクラ様は、『儀』まではこちらにはもう来られないのですか?」

 残念そうに眉を下げる魔法騎士団長に、槐は少し俯いて考える。

 『儀』が終われば、桜がこちらに再び来れるかどうかも、分からない。

 『儀』の場で、桜は母親である前聖女と生命を繋げようとしているのだから。

 だが、本当のところは、生命を繋げる事で助けられるのか、否、生命を繋げられるのかどうかすら、分からないのだ。

 何せ、初めての試みなのだから。

「今は、まだ何とも分かりません」

 確実に繋がり助ける事が出来ると分かっていれば、1日でも早く繋がりたいと、桜は思っている様なのだが。


「殿下は、『壁』について、かなり興味深い見解をお持ちのようでしたよ」

 新しく槐が持って来た書類を受け取りながら、アーダルベルトが何気なく話し始めた。

「どんな見解ですか?」

 そういえば、先日祖父の城に連れて行った時にちらりと聞いた範囲では、桜にプロポーズしたとか。

 『壁』に繋がらない理由にと言っていたようだが、槐は直ぐに王城に帰って来たので詳しい思惑については聞いていない。


「『壁』は、時間稼ぎだったのではないかと」

 

 突飛な言葉に、槐は言葉を失った。

「……時間稼ぎ?」

「はい。人の中に、魔物と神の血を時間をかけて浸透させる為の時間を稼ぐ為に、利用されたのではないかと」


 確かに、黒を纏うものが魔物の血を引くなら、魔物と人間の血は6千年前に『壁』が出来た頃よりも多く混じっていることだろう。

 ステイタスを見る力が神しか持ち得ないなら、少なからず世界にいるその力を持つ者達は、神と交わった子孫という事になるのだろう。

 それもまた、『壁』が出来た6千年前よりも、多くいる事だろう。


 だが、『それを望んだのは誰か』ということになると、わからなくなる。


 時間稼ぎをした者がいて、金の女神の子が作った『壁』を利用した者がいたとしたら、それは一体誰だ?


「何故、殿下はそのような事を?」

 受け取った書類を斜め掛けした鞄に直しつつ、さりげ無く訊いてみる。

「殿下は過去の全ての歴史を映像記憶で引き継がれてお持ちですよね。まず、聖獣の寿命が6千年前よりかなり短くなっている事に気が付かれたそうです」

 それは、槐も話で聞きながら思っていた。

 神の国に行った桜の話では、神々の寿命も代を重ねる毎に短くなっているらしいと聞いた。

 祖父の寿命と周囲の他の魔物達の寿命を見ていても一目瞭然だ。


 だが、何故それが『利用』された結果になるのか。


 鞄から出した新たな書類をアーダルベルトに渡す。

「あくまでも殿下の想像ですが。そのような『何者かの意思』が働かなければ、此処まで長く『壁』が維持された説明がつかないと。何故あの召喚の間が指定されて聖女がそこにしか現れないのか。何故、都合よく千年毎に聖女が現れるのか。何故今回」

 とんとんと、新たに受け取った書類に目を通し終えたアーダルベルトが書類を机に軽く落として整えながら槐を見た。

「本来なら最近に生まれる筈だった桜様は900年以上も前に生まれ、それだけで無く、現在の聖女様と親子だったのか」

 

 親子ならば、継続を何としても避けるだろう。

 そろそろ『壁』は、壊してしまえと、まるでそうさせようとしているかのように。


「目に見えない何者かの意思を感じると」


 言われてみれば、不思議だ。

 召喚の儀は、その方法をシシリー王家だけが知っていると表向き言っていたが、祖父の話によれば決まった日に決まった場所に聖女が送り込まれるだけだった。


 又、初代聖女は自らを聖女と名乗ったとか。


 3代目の聖女は神が直接連れて来たと言うから、初代も神が送り込んだのだろうが、神は何故「聖女」を使って『壁』を維持させようと考えだしたのか。

 始めに聖女を見つけ、壁に繋がれると気付いたのは誰なのか。


「さすがに何千年も経った今では、何がきっかけで『壁』と聖女が繋がる事になったのかを調べることは出来ないでしょうが、事実だけを見つめ続けた聖獣の記憶について考えれば考える程、その流れに何者かの意思が働いているのではないかと思わざるを得ないと」


 聖獣ならではの、疑問。


「ただ、その考えに寄れば」


 アーダルベルトはにっこりと微笑んで、確かに書類を受け取ったと、重要書類については受領証を用意した。

「見えざる意思が『壁』の存続を望まないのなら、桜様が再生維持を拒否したとしても、そのように事が運ぶだろうと」

 

「見えざる意思……」


 なんとも曖昧な見解だが、人々からの反発を懸念している立場からすれば、そうであって欲しいと考えるところだ。


 だが、と、槐は考える。


ーーならば、その『見えざる意思』の最終的に求めることは、何なのだろう?




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