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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第八章 掴みたい未来
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1.解決策 その1


「サクラ。結婚しよう」


 お爺様のお城に招いて再会した瞬間、素早く桜の両手を掴んで開口一番のこの言葉に、桜の祖父が光の速さでレヴィアスを王城に送り返した事は、言うまでも無い事だろう。


「ぺいって放り投げられたぞ⁈ 一応王族なのに‼︎」

「よくわかっているじゃないか。一応王族だな。人間側から『壁』を護る守護者が必要だからな」

「お前のじいさん絶対性格に問題があるだろ⁈」

「本人の前でディスるとは良い度胸だな?」

「お爺様……」

「ディス…? 桜、ディスるって何?」

「槐。知らなくても良い言葉だから、忘れましょう。お城での仕事が溜まってるでしょうからもう戻って。……お爺様」

「ん」

「貴重な時間を大事に使いましょう」

「……わかった」

 王城に戻っていたカイに此方に連れて来させたレヴィアスは、改めて桜の前に立った。

「神の国から無事に帰って来れた様で安心した。此処ならサクラも安心して過ごせるだろうが、先程言った事も、決して冗談では無い。『壁』や、その他の事を考え合わせた上で、私なりに出した結論だ」


 言葉に、桜は困った様に微笑んだ。


「もし私が今までの聖女様方と同じ様に生きたなら、千年近くの時を生きる事になるかも知れません。レヴィアス殿下とは、同じ時間を歩めないかと」

「でも、サクラは『壁』には繋がらないつもりなんだろう?」

 ちらりと、祖父は年若い聖獣を見た。

 記憶に残る人型を為した聖獣より、幾分小柄で、それでも髪や瞳の色は確かにその色を引き継いでいる。

 寿命も、人とあまり変わらなくなっているし、恐らく一緒になれば桜は間違いなく置いて行かれるだろう。

 4人目の聖女のように。

 そして、


ーー私のように。


「『壁』に繋がらない理由の1つにするといい。過去には『壁』と繋がった後でシシリーの王妃になった聖女もいたが、記録は何も残していないし、人々は知らないから大丈夫だ」

 にかっと笑って、レヴィアスが桜の手を取る。

「で、前聖女である母上の『壁』と繋がった生命はどうやって永らえさせる算段だ?」

 プロポーズだったと思うのに、甘い雰囲気1つ匂わせないで次の議題に移ったようで、桜は戸惑った。

 が、取り敢えずは棚上げで、次の話題に乗る事にした。

「何が出来るかは分かりませんが、まずは私が母と繋がってみようかと」

 生命を繋げれば、母と生命を分け合えるのでは。

 聖獣と繋がれるのは特別として、槐とも繋がれたし、恐らく身内は繋がれるのではと考えている。

「……それでは、桜の生命は母親と分け合うかたちになるだろうが……それでいいのか?」

 寿命が短くなるだろうが、いいのか?

 眉間に皺を寄せた祖父の表情に、桜はにこりと笑顔で頷く。

「私には母の記憶がありません。それは、返せば母にも、母親として過ごせた時間があまりないと言う事だと思うのです。私達は生まれてすぐに封印されたと聞きましたし」

 父と母は今、あの部屋で2人でいる。

 『儀』までの時間は、確実にまだ母が生きていられる大切な時間だから、出来るだけ無駄にはしたくない。

「本当は、生まれてすぐの頃に、母は赤ちゃんだった私達を抱きたかったでしょう。子育てをしたかったでしょう。私達が過ごせなかった時間を取り戻せるなら」

 たとえ、その為に私の中の寿命が何年…何百年なくなろうとも、惜しくは無い。


「私はもともと、普通の人間のつもりでしたし」


 苦笑する桜に、祖父は静かにその朱金の瞳を見つめた。


「お前は私の身内だ。私より先に亡くなったら、亡骸は私が頂く」

 ふんっと不満気に言って、初代魔王…祖父は、部屋から出て行った。


 永く生きるつもりが無いという事は、本来共に過ごせる時よりも早く祖父を置いて逝くと言う事だ。


ーーお爺様を傷つけてしまったかしら。


 だが、父と母と過ごせなかった私と槐の家族としての時間を取り戻すには、これしか方法が思いつかなかったのだ。

 父と母にも、家族としての時間を。

 長さではなく、密度が欲しいと。


 祖父が去ったあと、出て行った扉を無言で見つめた。


「じいさん、寂しそうだったな」

「……地雷を踏んだかも知れません」

「ジライ?」

「……いえ」


ーーお婆様は『壁』を作るために生命を縮めてしまった。お爺様は、思いの外早く別れる事になってしまった事を受け止めてはいらっしゃるけれど……後悔されているのかも知れない。

  だって。


 あの絵本の中の魔物は、泣きながら金の女神の娘の亡骸を食べたのだから。




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