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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第七章 それぞれの思惑
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4.初代魔王とお爺様


「あの……」

 軽々と抱き上げられて、桜は戸惑いを隠せない。

 しかも、


ーー多分、知らない人だし。

  て言うか、『人』じゃ無いかも。


 歳の頃はヴィルヘルムより10くらい上に見えるが、力は今まで感じた誰よりも、強い。


「聖女はまだこちらで知るべき事がある」

 

 ユリシズが空中に桜を抱え上げた男を見上げる。

 初めて会った男だが、ビシビシと感じるプレッシャーから、下手に刺激してはいけない事が分かる。


「無いな。桜は優秀だ。もしまだ桜が知らない事があるとすれば、それはお前達神が知らせなかった事だ」

 私の知る所では無い。

 その言葉に、ユリシズは言葉に詰まる。

 確かに桜は優秀で、思った以上に早くあらゆる知識を吸収したからだ。

「それに、現在の聖女に会いに行きたいと聞こえた。ならば、私が連れて行くのが妥当だろう。桜は私が手塩に掛けて育てたのだからな」

 そこで、ユリシズと桜の顔がそれぞれに「んん?」という表情になる。

「サクラ」

「あっあの…。貴方は…」

 疑問気に桜に視線を移したユリシズと慌てて自分を抱き上げている男を見上げた桜に、初代魔王はふっと笑った。

「とりあえず、槐がいるところに行こう。この姿では、私1人でお前を説得出来る自信が無い」


ーーカイ…。

  カイ?


 はっと、桜が顔を上げる。

「レヴィアス様のところですか?」

「それが誰かわからん。カイはいるから安心しろ」

「は? あっ…はいっ。あのっ」

 今すぐにでも移動しようとする気配を感じて、桜は慌ててユリシズを振り返った。

「お世話になりっありが」


 男の左手が空間を切る様に振り上げられ、漆黒の空間が現れ、吸い込まれる様に2人は消えた。


 桜と男が消えた空間に立ち尽くし、ユリシズは静まり返った部屋で小さく溜息をついた。


ーー再び『儀』で、会う事になるだろう。

  後の事は、彼らに任せよう。


 信念が揺らぎ、このまま『壁』の維持をするように説得する気にはなれなかった。


 むしろ、少し、ホッとしてしまっている。


 もし、サクラが現在の聖女の子供だったなら。


『サクラは、間接的にとは言え自分の母親を殺す事になるだろう』


 それもあるが、もしかして、自らの妹の子孫であったなら。


 本来なら、こんなに嬉しい事は無いはずなのだ。


 サクラは、両親を喪った後、祖父に育てられたと聞いた。


ーーあの男は、サクラを手塩に掛けて育てたと言っていた。

  ただならぬ力を感じたあの男がサクラの祖父……?


 否。待て。

 レトビアは何と言っていた?


 先程来ていたあの者は漆黒の空間から行き来していたし、魔物で間違いは無い筈だ。

 確か、現在の…サクラから見て先代の聖女と二代目の魔王は契っていたはずだと。

『千年近くの時差がなぜうまれたかは気になるところだが、恐らくは、サクラは先代の聖女の娘ということになる』と…。


 なら、あの男は。


「初代魔王……?」


ーーまさか。


 驚愕に手で口を覆い、レヴィアスは言葉を失った。


 初めての邂逅が急過ぎて、あまり有意義な会話もできずに一瞬で切り上げられてしまったが。


 今までずっと赦せなかった魔物。

 絶対に許せないと、思っていた魔王。



ーーあの男が……。

  あの男が、私の姪の亡骸を食べたのか。



※※※



ーー『穴』だ。


 一瞬で潜り抜けた漆黒の空間だったが、初めて見たにも関わらず、桜は『穴』だと分かった。


ーーこれは、かの有名な『穴』だわ‼︎


 知らないと思しき男に連れられて移動しているにも関わらず、桜はあまり行き先の心配をしていなかった。

 カイがいる所だと、言っていたからかも知れない。

 潜り抜けた後、自分と男が出た後『穴』は音もなく閉じた。

 移動手段に興奮してしまった。


ーー神の国に行った時は気を失っていたから覚えてないのよね。


 返す返す、惜しい事をしたと思っていた。


 連れて来られた場所は、漆黒の艶やかな石造りの大きな城の中だと思われた。

 高い天井の長い廊下の壁には灯りが等間隔に灯され、桜はその床の上にそっと降ろされた。


「私のこちらの住まいに来るのは初めてだな」

 優し気な微笑みは、何処か懐かしさを伴った。

 胸にあたたかさがひろがるのを感じ、桜は不思議に思いながら男の漆黒の瞳を見上げた。

 その桜の恐らくは朱金に変わった瞳を見返しつつ、男は一瞬眉根を寄せた後、苦笑した。

「お前もその色だったのだな。あやつの血は強いな。日本にいた頃の言い方なら『強い遺伝子』か」


 日本にいた頃の言い方なら。


 漆黒の瞳を細めている、何処か癖のある苦笑。


 姿を見る限りは、全くあり得ない。

 しかし、信じられないけれど、何かが桜の中で繋がり、あり得ない答えを導き出した。



「おじい……さま…?」


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