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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第七章 それぞれの思惑
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2.初代魔王 回顧(1)


 桜が召喚された時、私は死んだ事になっている息子の墓参りに一緒に行くために、桜の通う高校の校門近くに停めた車で、授業を終えた桜が出て来るのを待っていた。

 こちらの世界では、月命日というものがあり、毎月亡くなった日に弔いをするようだ。

 

 千年前、この世界から召喚された聖女は名を紫苑といい、『壁』の『儀』を通して息子と知り合い、再生を決めて『壁』と同化した後、息子の…ウォルディアスの伴侶となった。

 私は聖女が住んでいた世界に興味を持ち、聖女があちらの世界に来た直後にこちらの「日本」という世界に来て、住み始めた。

 死なず、老いず、娶らず人間の中で暮らすのは無理があり、何度か養子を取ったりして、今では巨大な財閥を創り上げるに至った。

 屋敷を構えて悠々自適に暮らしている所に、息子が可愛い孫娘を連れてやって来た。

 聞けば、向こうの世界に孫息子を置いて来たという。

 人間達が孫を可愛がる姿を微笑ましく見ていた私は、突然現れた孫に歓喜した。

 息子とも久しく会っていなかったので、喜んで受け入れて、共に暮らす様になった。

 だが、約千年かけて創り上げた九条の家の養子達には、突然降って湧いた実子は受け入れ難かったようで。

 息子は私の養子達の策略にかかり、人間としての生命を終わらせざるを得なくなった。


 向こうの世界で時折り覚醒する以外はほぼずっと眠り続ける紫苑を気にしつつ生活していたが、これを機にウォルディアスは元の世界に帰ってしまった。


 此方(こちら)彼方(あちら)を半々で過ごしていたのを、彼方(あちら)だけで過ごす様になった訳だが、残された桜の(しお)れ具合は可哀想な程だった。


 仕方なく、墓をつくり、毎月桜と参った。


 生きている息子の墓をつくるなど馬鹿げていると思っていたが、死んだ事にしなければならない以上、仕方のない事だったと言える。

 息子は、時折り桜の様子を見には来ていたが、混乱させない為に、桜の前に息子が顔を出す事は無かった。


 息子には、願いがあった。


 生まれたのは、紫苑が『壁』と生命を繋いでしまってからややもして…だったらしいが、双子の子供達は暫く封印していたそうだ。

 

 ステイタスに『魔王』とある息子はまだしも、『聖女』とある娘は、受け入れ難かったのだ。


 何とかして、ステイタス『聖女』が消えないかと考えたが、変わるモノでも変えられるモノでも無く、槐が『魔王』を引き継げるぎりぎりの時、桜が、『聖女』として紫苑がやって来た年頃に間に合うその時に、仕方なく封印を解き、日本に連れて来た。

 

 ステイタスが見えるというのは、厄介なモノだ。

 私には見えないから、ウォルディアスの心配に充分には寄り添えていないかも知れない。

 だが、時折り迷う金の瞳が、あの娘を思い出させる。

 良く似ていると、思う。

 

 今、ウォルディアスは槐と共に城にいる。

 今まで一緒に暮らせなかった時間を取り戻そうとするように、2人は…3人は、時を過ごしている。

 桜は(すんで)の所で神に連れて行かれてしまったが、私としては近々取り返しに行こうと思っている。


 私が魔王を退いたのも、『壁』に関して、もう私が協力する気が無くなったからだ。


 『壁』は、いらない。


 聖女に協力出来なければ、魔物代表にはなり得ない。

 だから、息子に継がせたのだ。

 決して、私の力が衰えたからでは無い。

 息子には、私程ではないが、私を継いで壁を護る力があった。果たして、槐には、どれ程の力が引き継がれたか。


 あの娘は、人間の世界と魔物とを分ける壁を作る時、「自分にはその力があるから」と言っていた。

 彼女自身は、決して壁を必要とはしていなかった。

 だが、周囲で魔物に対して怒りを露わにする人間達に、又、自分達が人間達を大切に思っているその表現のカタチを理解して貰えない魔物達に対して、心を痛めていたのは確かだ。


 約千年の後、彼女が亡くなる直前に、壁を護る為にと聖女と名乗る女がやって来た。


 そう、初代聖女は、自らを聖女だと名乗ったのだ。


 彼女は、自分は全能の方からこの地の人間を守って欲しいと言われて送られて来たと言った。


 神も、全能とは大きく出たものだ。

 『壁』と繋がり、役目を果たした聖女は、自分が現れた場所に次の聖女も現れるだろうと言ったので、シシリーは『はじまりの地』に築いていた城を捨て、その聖女が現れた場所に改めて城を築き、その場所に召喚の間を配した。


 千年の後、新たな聖女が、初代聖女の言った通りに、召喚の間に現れた。


 そして、驚いた事に、二代目の聖女が『壁』と繋がると同時に、初代聖女が亡くなったのである。


 あの時に、私は疑問を感じた。


 否、疑問は、恐らくはもっと前に感じていた。


 『あの娘はこんな事を望んだのだろうか』と。


 確かに、この『壁』は、強大な力で人間と魔物を分ける事を可能にしているが、『聖女』となる1人の少女がその一生を犠牲にしてまで、守らなければならないモノだろうか、と。


 私といたあの娘は、『自分の持て余す力』だけが犠牲になれば、人間も魔物も哀しくならずに済むならと。

 恐らくはそう思ったのではないだろうか。

 力を使い過ぎて寿命が短くなってしまったのは想定外だったようだが、もともとあまり生きる事に執着は無かったようだった。


 疑問を感じると、もう、『壁』の維持が正しい事には思えなくなり。

 なかば投げ出す様に、ウォルディアスに役割を引き継がせた。


 二代目聖女が『壁』と繋がり、『壁』を守り続ける中、ウォルディアスは時々聖女のもとに足を運んでは、話をしているようだった。

 だが、また千年が過ぎると、次の聖女がやって来た。

 生命を『壁』に吸い取られて終えて行く少女。

 三代目の聖女は、神が召喚の間へ連れて来た。

 初代聖女は『全能の方』から言われて来たといったが、三代目は神自らが連れて来たのだ。

 『壁』についての説明は全て神から聞いていたらしく、聖女は素直に『壁』と繋がった。

 そして、三代目聖女は、神の1人と契った様だった。

 詳しくは私は預かり知るところでは無いが、時折り小さな女の子が、聖女の居るべき空間から人間の世界に出入りしていた様だった。


 三代目の聖女は、驚く程従順に『壁』と同化し、静かに衰えていった。


 そう。

 四代目聖女がいたからこそ、三代目は本当に従順に従う人間だったのだと思える。


 四代目聖女は、召喚された途端に、死を選ぼうとしたのだから。

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