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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第六章 神々の国へ
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3.神々の国


 目が覚めた時に見覚えのない天井を見るのは2回目だ。

 シンプルに、ひたすらに白い室内に、少し寒々しい空気を感じる。


ーールイーズ様とカテリーナ様に連れられて会場を出た所までは覚えているけれど…。


 肌触りの良いシーツの中でもそりと寝返りをうって、部屋を見渡す。

 シシリー王城の部屋の様な、既に見慣れた華美さは無く、シンプルな中にも洗練された家具や(しつら)えを見て、『王城では無いのかも』と、ぼんやりと考える。


ーー取り敢えず、呼吸は出来ているわ。


 息苦しさを感じる事が無いのは、せめてもの救いだ。

 目が覚めてしまったし、寝ていても仕方がないので、桜は身体を起こした。


ーー私、また知らない場所に来てしまったのね。


「取り乱さないのだな」

 静かに空中(くうちゅう)に現れた男に、桜は視線を向けた。

 金の髪に金の瞳の、随分と体格の大きな男性。

 目付きは鋭いが、何故か怖さなどは無かった。

 ふわりと床に降り立つ男に、桜は首を傾げて微笑んだ。

「…初めまして。九条桜と申します。どうか、桜とお呼び下さい」

 寝かされていたベッドから足を下ろして床に立ち、丁寧にお辞儀をした。

 男は、一瞬驚愕に目を見張り、そして桜を朱金の瞳で見つめ返した。

「…ユリシズだ」

「ユリシズ様」

「様はいらない。呼び捨てでいい」

「…はい。では、ユリシズ」

 にっこりと微笑んで、桜がユリシズの高い位置にある瞳を見上げた。

「…此処は、神の国の私の神殿だ。何故、ここにいるかわかるか?」

 質問に、桜は自分がいる場所を初めて理解した。

「恐らくは、私が聖女と呼ばれる役割を持つ者だからでしょうか」

 

 この娘は、頭の回転が早いのか、理解が早い。


 ユリシズは無言で頷いた。

 近くのテーブルにある椅子を引き、桜に座る様に促した。

 桜は素直に支持に従い、椅子に座った。

 ユリシズはテーブルを挟んで桜の正面の席に着く。


「暫くは、こちらで生活してもらう。不自由はない様にすると約束しよう」


 静かに耳を傾けていた桜は、一瞬眉根を寄せたが、次の瞬間には笑顔をのせた。

「わかりました。分からない事が多いと思いますが、宜しくお願いします」

 頭を下げて、再びユリシズの顔を見る。

 ユリシズは、桜の感情を探る様に、真っ直ぐに見つめて来るその桜の瞳をじっと見つめ返した。

「…水鏡で見た時は漆黒だったと記憶していたが…」

 ふっと呟く声に、桜が首を傾げる。

「何か?」

「いや。何でもない。記憶違いだろう」

 かたんと立ち上がって、桜の横に立った。

「空腹を覚えたら、誰でも神殿の者に言うといい。我々はモノは食べないが、神殿の者達にはお前を預かっている事は知らせてある」

 びっくりした顔で、桜は傍に立った大柄な神を見上げた。

「食べないのですか? 何も?」

 その表情に、ユリシズは「ふっ」と眉間に皺が入ったまま苦笑した。

「お前達人間には理解が難しいかもしれないな」

 笑顔に、桜は懐かしいような、不思議な感覚を覚えた。

「どうした?」

 一瞬、なんとも言えない顔をした桜に、ユリシズが聞いた。

「…いえ。では、食堂なども無さそうですね。あればこちらから伺おうと思ったのですが。どなたかにお願いすることにします」

「うむ。分からない事も、私は勿論、神殿内の誰にでも聞くがいい」



※※※


 ユリシズは来た時とは違い、部屋の扉から出て行った。

 椅子に座ったまま、桜はぼんやりと窓の外を眺める。

 風に揺れる木々の葉や立派な太さの木の幹を見て、此処が建物の1階部分である事が分かる。

 

ーーこの世界には、魔物の国と人間の世界を隔てる壁と、人間の世界と神々の国を隔てる壁がある。 私は、今まで議論していた再生すべき壁とは違う、もう一つの方の壁の向こう側に来てしまったのね。


 不意に、目頭が熱くなる。

 あたたかかった皆んなの笑顔や過ごした時間が、どうしようもなく懐かしい。

 俯いて、テーブルに置いた、両手を握り締めた手と手の間に挟む様に顔を埋め、額をテーブルに付ける。


ーー『儀』までには帰れるのだろうけど…。


 大切に過ごそうと思っていた時間を、思いもよらぬ形で失ってしまった。


ーーまだ、聖女として知らなければならない事があるから、ユリシズが…神が、来たのだわ。


 私は、遊ぶために、この世界に来たわけではない。

 日本から離れ、この世界の未来をどうするか、その助力を求められて、此処に来たのだ。


ーーまずは共に生活をして、神々の事を知る事を求められている。


 『儀』までまだ日はあるはずだが、何を理解する事を求められているのかを知らなければ、次に進めない。


ーー泣いている場合では無いわ。レヴィアス様やヴィルヘルム様のもとへ帰るためにも、こちらで学ぶべき事を学ばなければ。


 拳を作っていた両の手を広げてテーブルに置くと、力を込めてがばりと上半身を起こした。


「『腹が減っては戦はできぬ』ですね。さっそく何か頂きに行きましょう」


 桜は力強く立ち上がって、部屋から出て、1人目に出会った40代くらいの女性を捕まえた。


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