7.披露目(2)
色取り取りの光る花が部屋いっぱいに舞い散る様に出現し、会場内は歓喜の声に包まれた。
練習の際は黄金色に光る花だけだったので、これはある意味レヴィアスから桜へのサプライズであると言えた。
「聞いてなかったんですけど」
小さく、背後にいるレヴィアスに言えば、ぽんと肩に手を置かれた。
「笑顔笑顔。上手くいって良かったな」
にーっこりと顔に笑顔を貼り付ける。
「…ありがとうございます」
礼を言うと、頭を撫でられた。
「今日はカイも帰って来てるし、少し話して来ると良い。私とヴィルヘルムで、会場内なら大丈夫にしておく話にはなっている」
主には、ヴィルヘルムが桜をピンポイントで探知して、魔素を取り除いているのだが。
「ありがとうございます」
優しく細められたスカイブルーの瞳を見上げた。
開会の挨拶を終え、聖女として桜の紹介も終えた。
一通り貴族達の挨拶も終わり、会場は和やかな歓談の場となっている。
今回、他国から来た聖女は3人だった。
リーファ王子のセクドル王国から来た聖女が、王宮にいる間に是非お茶の会をといってくれたので、聖女4人でお茶会を開く事が決まった。
レヴィアスも先程勧めてくれたが、最近カイがよく城にいないので、彼に聞きたい事は山程あった。
大方の魔法の詠唱等はヴィルヘルムについて習ってはいるが、闇魔法についてはヴィルヘルムは使えないので、桜も習えてはいない。
しかし、闇魔法の詠唱他、魔法の講義内容は、披露目の会場で話す様な内容では無い。
ーまたお出掛けされるかもだし、いつなら予定が大丈夫かだけでも確認しておこう。
令嬢や各国の使者達に囲まれはじめたレヴィアスの側を辞して、桜は会場の前方壁際に立つカイのもとへと歩いた。
ー? 誰かしら。
カイの横には、体格の良い、長い黒髪を編んで肩に垂らした、朱金の瞳の男が立っていた。
たまに会話を交わしている様で、目が合っている様だ。
カイは、いつも言葉少なく静かにしている印象が強く、親しげに会話をする姿は珍しい。
ー知り合いとお話ししてるのなら、もう少し後にした方がいいかしら?
歩み寄りながら、歩く速度を落とした時。
「サクラ様。今、宜しいですか?」
背後からかけられた声に、桜は素直に振り返った。
「セクドルの…」
「カテリーナ・ボリスと申します。カテリーナとお呼び下さい」
優雅に淑女の礼をされて、桜も慌てて礼を返そうとすると、やんわりと制された。
「サクラ様に礼などさせては、私、怒られてしまいますわ。そもそも、召喚された聖女と私達のような聖女には格差がございます。是非ご記憶に留めておいて下さいませ」
口を挟めずに目を大きくしていると、カテリーナの横に立っていたプラチナブロンドの青年がアイスブルーの瞳を細めて微笑んだ。
「カテリーナ殿。サクラ殿が驚いていますよ」
レヴィアスやカイ、アーダルベルトやヴィルヘルム等、キラキラした方々を最近見慣れてはいたが、それでも綺麗だと驚く程、整った目鼻立ちをしている。
「先程、リュイ侯爵様とご一緒に…」
「ええ。ルイーズ・フォン・リュイと申します」
美しく礼をして、桜の手を取り、キスをした。
この挨拶には、いつまで経っても慣れない。
桜は、素早く握手の形に手を持ち替えて、軽く握手した。
「九条桜と申します。サクラとお呼び下さい」
桜とルイーズが挨拶を交わしている間に、カテリーナが飲み物を取って来てくれたようだった。
さり気なく渡してくれるピンク色のドリンクを受け取って、桜は一口飲んだ。
「苺の味がする」
ほのかに甘い味に、桜は思わず口を押さえた。
「ティアの実のジュースです。あまり口にされた事はありませんでしたか?」
「初めてです」
桜の周りにいる男性陣は主にお茶を好んだ為、お話や講義の友にはお茶を頂く事が常だった。
くらり と、少し目がまわった気がした。
「…?」
足元がふらついて、思わずルイーズの腕に手を添える。
謝ろうとするが、頭が回らない。
「大丈夫ですか?」
身体を支えられて、桜は何が起こっているのか分からないままルイーズに寄り掛かる形になった。
「気分がお悪い様ですね。会場から出た方が良さそうだ」
腰に手を添えられて、会場の扉へと誘導される。
ー私、この会場からは出られない…。
必死にまわらない頭を回転させて、見慣れた顔を探そうと会場に目をやろうとするが、周囲はさりげなく背の高い男達に囲まれているようで、視界が阻まれて誰も見えない。
ーヴィルヘルム様が私を探知して下さっている筈だわ…。
促されて歩を進めながら、何とか意識を保とうとする。
「大丈夫ですよ。カテリーナも、魔素を取り除く光魔法は使えます」
にこりと微笑んで顔を覗き込んでくるルイーズに、桜はぼんやりと疑問を覚える。
「人が多すぎて、疲れてしまったのかも知れませんね。休める場所へ移動しましょう」
カテリーナが、桜の手を握る。
ー何故、ルイーズ様とカテリーナ様が、私の体質の事を知っているの……?
意識が暗闇に落ちて行くのを感じながら、桜は考えることを諦めた。