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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第四章 披露目に向けて
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2.打ち合わせ(2)



「ところで、今日は何故ヴィルヘルム様はいらっしゃっていないのでしょうか?」

 問い掛けに、桜は思わずレヴィアスを見た。

 代わりに来るはずだったカイも、今はまだ来ていない。

 出掛けに国王陛下からの急な呼び出しがあり、遅れているのだ。

 だからといって、ヴィルヘルムが代わりに来る事は無かった。

 何故来なかったかと問われれば、行きたく無かったみたい…とは言えないし…?

「ヴィルヘルムは別件で急遽調査が入り、今は出ている」

 レヴィアスの応えに、黒髪に濃茶の瞳の高位神官が眉を顰める。

「それは、また『穴』が出来たと言う事でしょうか?』

「結果が出るまではノーコメントだ」

ーん?

 今日は来る予定も無かったが、もしかして私が知らない間に『穴』が出来て、知らない間に調査に出ていたのだろうか?


「披露目は、討伐隊結成準備を開始した旨を各国に報せる役割も持ちます。今回の打ち合わせには是非来て頂きたいと再三申し入れていたのですが」

 非難の色も(うかが)える神官の態度に、レヴィアスを包む空気がざわりと質を変える。

「光魔法は、我が国では使い手が少なくヴィルヘルムはとても貴重な存在だ。神殿がいかに光魔法の使い手を欲していようとも、城の魔道士であるヴィルヘルムには魔道士としての予定がある」

 にこやかに話してはいるが、決して友好的ではない感じがする。

「ご理解いただきたい」

 神官は「勿論でございます」と慌てて同意した。

 

 レヴィアスが神殿に来るのを嫌がった理由が、分かった気がした。


 神殿は、光の属性を持つ者が欲しいのだ。


 確かに、今までこの国では、レヴィアスとその父である国王、それにヴィルヘルムしか光魔法の使い手はいなかったと聞いている。

 レヴィアスはいずれ王様になる人だから神殿には招けないが、ヴィルヘルムはもしかして神官になってくれていたら、神兵として国のお手伝いも出来る、優秀な神官になれたのかも知れない。


ー私が魔素に耐性が無い事は、だから知られたらいけないのね。


 使える、使えないに関わらず、私は光の精霊の祝福と相当強い魔力を持っている…らしい。

 その上、魔素に耐性が無い事は弱点になるだろうから、魔素対策さえ取られてしまえば、神殿にとって『欲しい人材』になってしまう…?


ー待って。属性が無くて使えない力を抱え込んでるだけなら、私ってやっぱり全くもって要らない存在なんじゃない?


 はたと、またもや自分のこの世界での存在意義について考えがめぐる。


ーでも、レヴィアス様と私の中の力が繋がれば、私の力は、レヴィアス様が使える力になるのよね?


 レヴィアスが使える力を私が持っている。


 そっと、隣の席に座るレヴィアスの姿を見つめる。

 ヴィルヘルムと繋がれない事がわかった今、討伐や儀式の際は、レヴィアスと共に闘ったり新しい『壁』を作ったりする事になるのだろう。


ー今の私、出来る事が無いわ。


 今練習している披露目の『芸』だって、力加減はレヴィアス次第だ。


ー魔法の勉強だって、身体の中の魔力だって、まだ自分で感じた事は無い。


 ふっと、視線を感じたのか、レヴィアスが桜の方を振り返った。

 首を傾げながら、桜は微笑んだ。

「どうした?」

 小さな声で聞いてくれるレヴィアスに、桜はふんっと両手で拳を作って見せた。

「練習、頑張りましょうね」

 まだ、練習も勉強も始まったばかりだ。

 音を上げるには早すぎる。

 力を持ってるって言うなら、どうやっても無理だと分かるまでは、自分で使える様になる練習をやり尽くすまでだ。


 此処に来て、簡単には帰れないと分かって、此処の人たちには私の力が必要だと聞いて、何度も私自身に聞いた言葉。


 私はどうしたいの?


 何度も自分に問うた問い。

 答えは変わらない。


ー私は、私の意思で力を使って、この世界の人達を護りたい。

 そして、呼ばれた役割を果たして、胸を張ってお爺様の処に還して貰うのだ。


 亡くなったお父様にも、今尚心配して下さっているだろうお爺様にも、胸を張って「ただいま」と言う為に。


「おう。 頑張ろうな?」


 小さな声で、応えてくれる。

 机の向こう側には、アーダルベルト様も優し気な瞳で見ていてくれている。


 私は1人じゃ無いし、まだまだ此処でやるべき事がある。


ー音を上げるのは、全てをやり尽くした後に、それでもやるべき事が出来なかった時。


『お前を頼ってくれる人がいたら、全力で応えてやるんだよ。それがきっと、お前の為にもなるから』


 何事にも手を抜くなと言う祖父が、よく言っていた言葉だ。


 情けは人の為ならず


 祖父は、きっと私にその事を教えたかったんだ。

 情けは、人の為じゃなく、自分の為にかけるもの。


 為せば成る

 為さねば成らぬ 何事も

 成らぬは人の為さぬなりけり


 これは、私の座右の銘。


 この世界にいたって、私は私よ。

 日本から離れてしまったって、私を形作ったモノが変わるわけじゃ無い。

 それに…。


ーやるべき事がある事は、幸せな事だもの。

 

 にこりと微笑んで、再び両手に拳を作った。

 すると、振り返っていたレヴィアスも、机の反対側のアーダルベルトも、そっと拳をぐっと作って見せてくれた。


 3人でぐっと無言で頷きあって、再び神官の話に耳を傾けた。

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