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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第四章 披露目に向けて
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1.打ち合わせ(1)


「ようこそいらっしゃいました」

「ささっ。聖女様。皆様、中へ中へ」

 神殿に着いた途端にわらわらと3、4人の神官達が出迎えてくれてびっくりするくらいの歓待を受けて、レヴィアスとアーダルベルトが桜の両サイドをがちりと固めた。


「取って喰いそうな勢いだな。サクラ、気を付けろよ」

 ぼそりとレヴィアスに耳元で囁かれて、桜は苦笑した。

「千年ぶりに聖女が来たのですから、仕方ありませんよ」

 アーダルベルトも、溜息混じりに小声で囁いた。

 神官達は数々の神を祀り、毎日祈りを捧げているらしいが、それらは『豊穣の神』や『闘いの神』、『自由と慈しみの神』、『美の神』、『死を司る神』等、実に万を越す種の神が祀られているらしいのだ。

「その昔、多くの神々が、この地上にいらしたのです。今では神話としてしか残っていませんが、昔からの口伝を書き留め読み解いて行くと、我々人間が神々達に本当に愛されていた事がわかります」

 この世界の事を知らない桜に、簡単に神殿の存在の意義と、神々と人間の関わり等について講義を受け、さっそく披露目の日の打ち合わせに入る。

 神殿は基本的には神に仕える使徒であるが、いずれ出るであろう魔物の討伐にも随行する。

 その際は、神兵という立場で、『神の手足となって人間を護る』ということになるらしく、攻撃魔法が達者な者と、水回復系魔法が得意な者が主に選抜されるらしい。

 披露目の際には、集まった貴族達に今後国・神殿・聖女の間でどの様に討伐隊が組まれ、『新しき壁再生の儀』に臨むかを説明する。

 尚、討伐隊が組まれる際には、諸外国からも魔力の強い者の参加者を受け入れ、かなりの人数になる予定らしい。


『新しき壁』が再生されれば、今の様に魔物が来る『穴』が頻繁に発生することは全くなくなり、今後はまた、千年近くの間、平和が約束されることになるらしい。


ーでも、『穴』は不規則に、世界中に発生しているのよね?


 儀式の意義の説明を聞きながら、桜は首を傾げた。


ーもし此処が地球の様に丸い星だったとして、『壁』は一体今現在何処にあるのかしら?

 星全体を覆い尽くす様な形で『見えない壁』なるモノが存在し、一度の儀式で新しい『見えない壁』が出来て終わるものなのか、各国に赴いて、その地その地其々で国を覆う様に、要は結界の様な新しい『壁』を作るのか。


ー一度、『穴』を見てみないと分からないわね。


 儀式についての説明も、『穴』の説明も、『壁』の説明も、桜には抽象的過ぎて、良く理解できなかった。

 説明の中でも、便宜上『壁』や『穴』と呼んでいるが、正確な呼び名なのかと問われれば、何とも言えないらしい。


 百聞は一見にしかず


ー見てみたら、分かるのかも。


 勉強をしていても、分からない事はとりあえずは分からないまま進める。

 いずれ、分からなかった事の周辺知識が固まってくれば、自ずと理解出来る様になる事が多々あるからだ。


ー今は宴会芸程度の光魔法を披露目の為にレヴィアス様と秘密特訓しているけれど、その先にある討伐と儀式では、私が重要な立場に立って全ての…沢山の人を護らなければならないんだ。


 急に、肩に乗る重責のその重さが『ずしり』と、リアルに感じられたような気がした。


 魔物も、『穴』も、そしてそれらによる被害も見た事が無いのだから、今まで実感が湧かなかったのも無理はない。

 だが、披露目をして、多くの貴族達に『聖女』として認知された後は、国の…否、この世界の人々の期待の全てが『聖女』や、討伐隊に掛かる事になるのだろう。


 すうっと、指の先から血の気が引いて手が冷たくなってきているのがわかる。


ー今更ながら、逃げ出したくなるくらい、責任重大よね。


 皆がついている長く豪華な机の下、膝の上ですりすりと手を擦り合わせて体温を確保しようとしていると。

「⁈」

 すぐ横の席に着いているレヴィアスが、膝の上で擦り合わせている桜の両手を握った。

 顔は、儀式の場所や流れ、どの様にするかを説明している上位神官の方に向けられたままだが、まるで桜の心の不安を感じ取った様に両手を少しの間握り、その後ぽんぽんと軽く叩いて、離れた。


『大丈夫』


 そう、言ってくれているようだった。


 あたたかかったレヴィアスの手にあたためられた桜の手が、血の気を取り戻す。


ー私にしか出来ない事を、力の限り頑張るだけだわ。


 膝の上の両手を強く握り締めて、桜は前方を向き、再び話に聞き入った。

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