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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第三章 聖女の力
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4.父(1)


 最近、貴族の登城が増えた。

 主な理由付けは国王の機嫌伺いだが、聖女の姿を垣間見ようという魂胆が見え見えだ。

 用事も無いのに「魔道士塔の見学に」などと言いながらうろついてみたり。

「関係者以外は立ち入り禁止ですよ」

 前方から歩いて来る見覚えの無い黒髪の男に、だからユーリベルトは溜息混じりに声を掛けた。


「許可は頂いている。魔道士長殿は部屋にいるか」

「魔道士長は今は外出中ですが」

 返答に、男は「ふむ」と腕を組んだ。

「わかった。出直そう」

 そう言うと、男はくるりと踵を返して元来た廊下を帰ろうとし、右へ曲がって渡り廊下の方へと進んだ。

「待って下さい。そちらの路だと王宮に行ってしまいます。外まで案内しましょうか」

 提案に、男は右手を軽く上げた。

「城内の路には明るいから大丈夫。ありがとう」

 振り向いてユーリベルトに優しく微笑みかけたその瞳は、金色にきらりと光っていた。

「…どういたしまして」

 若い故に小柄だと自負しているユーリベルトから見て、1番上の兄であるアーダルベルトよりも大きかったなと、男の背中を見送った。

ー否、父上以上かも。

 


「鈍色か。綺麗だな」

 呟きながら、先程親切にしてくれた青年を思い描く。

 城内で無く、日に当たる場所で見たなら、きっともっと美しかっただろう。


 かつて、我々の同胞は、人間が大好きだった。

 住まう地を同じくし、神々と、神獣と、魔物と人間は一緒に暮らしていた。


 今から6000年程も昔の話だ。


 神々も神獣も魔物も人間が大好きだったが、人間は彼等と共に過ごすには脆すぎた。

 同じ時を歩めず、同じような強靭な肉体をも持たない。

 

 その脆さ故に、惹かれたのかも知れないが。


 又、魔物の愛情表現は、人間には受け入れられなかった。

 「受け止められなかった」というのが、正確かも知れない。




「ルドヴィア・フォン・ドゥ・シシリーに取り次ぎを」

 

 扉の前に控える近衛に取り次ぎを頼む。

 

 黒髪に、金色の瞳。


 近衛騎士は、容姿を確認した後に、扉に向かって声を掛けた。

「国王陛下、例の、謁見の者が来ております」

 声が掛かると、ややもして、扉は内側から開かれた。

「ウォルディアス」

「久しいな」

 和かに挨拶を交わし、2人は部屋の中へと入って行く。

 共に入室しようとした部屋付きの近衛騎士を、国王は手で制した。

「しかし」

 思わず抗議の声を上げた近衛騎士に、ルドヴィアは和かに微笑んで首を振った。

「必要ない」



「相変わらず、よく躾けられている」

 羽織って来た漆黒のマントを脱ぎ、案内された来客用のソファの背に掛ける。

「好かれていると、言ってくれ」

 ははっと笑って、ウォルディアスは口を閉じた。

「茶は飲むか」

「いただこう」

 ルドヴィアが入れたお茶に、ウォルディアスの片眉が上がった。

「これは」

「美味いだろう?」

「…美味いのもだが、向こうにもある茶だ」

 ルドヴィアの手が一瞬止まり、そして茶器を机に置いた。

「なんと」

「この茶葉は何処で?」

「例の我が国の魔道士長が」

 一瞬考え、ウォルディアスも茶器を机に置いた。

「他の者も飲んでいるのか? 身体に影響は無いか」

「…今の所は。普通に王都に構えている店舗で購入したようだから、多くの者達が飲んではいるだろう。茶くらいは大丈夫なのではないか?」


 心配のし過ぎでは。


「お前はまだしも、私達と他の者達では身体の作りが根本的に違う。大丈夫かどうかは調べてみなければわからない」

 

 言って、改めて茶の香りを嗅ぐ。

 少し香りが薄い様にも感じられたが、念頭にある茶葉に間違い無いのを確認し、再び茶器を机に置いた。

「まったく。油断も隙も無いな」

「単純に美味しいモノを薦めたいだけだったのでは?」

 溜息混じりの言葉に、ルドヴィアが苦笑しながら応えた。

「で、あったとしてもだ。ところで」

 煌く金の瞳が、ひたりとルドヴィアに止まった。

「あの子が来たのか」

 力の篭った真剣な眼差しに、ルドヴィアがふっと息を吐いた。


「魔素に耐性が無いとは聞いてなかったがな」

 


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