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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第三章 聖女の力
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3.一応神殿もある


 披露目の日程が決まった。

 それと同時に、神殿に行く事になった。

 今まで魔素耐性が無いという特異体質もあって、王宮のレヴィアスの部屋からあまり出ない生活が続いていたが、披露目の日取りが決まった事を皮切りに、式典の内容についての擦り合わせや神官達との顔合わせも兼ねて、シシリー王国中央神殿にレヴィアスと一緒に出向く事になったのだ。

 ちなみに、神殿の神官達にも、私の体質については秘密らしい。

『敵は何処に潜んでいるかわからないからな』

 そう言ったのはレヴィアスだったが、カイとヴィルヘルムも「うんうん」と頷いていたあたり、何か神殿と王宮の間に確執を疑ってしまう。

 アーダルベルトは最近涼しい顔で遠い目をしているし、彼は彼で何かあったのではないかと、桜は少し心配している。


「殿下。サクラ様のお衣装を合わせる時間です」


 部屋の扉からの声掛けに、レヴィアスが入室を許可した。


 今日はベリア様が部屋付きだ。


 ベリア様はレヴィアスがもっと幼い頃から、レヴィアスのお世話をされていたという子爵令嬢で、濃紫のお(ぐし)とヘーゼルの瞳を持つ、本当に優しくて綺麗なお姉様だ。

 レヴィアスの部屋で過ごす時間の長い桜にとって、この世界の事を女性の目線から教えてくれる、大変貴重な存在である。


 食事中にこっそりコルセットを緩める方法や、淑女の挨拶を綺麗に決めるコツ、貴族名鑑の中の貴族達の裏話など、あまり声高には言えない様な内容も含めて、沢山教えて貰っている。

「披露目の際に着るお衣装は、白を基調とした艶のある布地に金色の刺繍を刺した、比較的ゆったりとしたデザインになります。サクラ様に教えて頂いた『手品』のタネとか、仕込みやすそうですよ」

 にっこりと身体に仮縫いの衣装を当てながら、ベリアが、少し長過ぎる裾に金の鈴のついたまち針を刺して丈を合わせてくれる。

 ちなみに、今は日本の着物の襦袢のような下着一枚なので、男性陣は隣室に移っている。

 神殿との打ち合わせの為の打ち合わせだったので、護衛に付く予定のアーダルベルトと、何故か神殿行きを嫌がっているヴィルヘルムの替わりに随行する予定のカイと、言わずと知れたレヴィアスだ。

 神殿の意向を伝える為に派遣された上位神官も話し合いに参加している様だが、桜の衣装合わせが始まってから合流したようで、まだ桜には顔もわからない。

「肩は自由に動きますか?」

 肩周りを少し詰めて、ベリアが桜に着心地を確かめた。

 くるりと両肩を回して確認する。

 まち針についた鈴が一斉にりりりりりんと涼しげな音を立てた。

「…大丈夫です」

 にこりと微笑んで、ベリアが頷いた。

「終わりましたので、このまま針子に渡します。針に気を付けて脱ぎましょう」

 手早く脱がせてくれたベリアは素早く聖女の衣装を畳んで桜の服装を整えると、「失礼します」と部屋から出て行った。

 と、ベリアと入れ替わりに、カイが入ってきた。

 隣室とレヴィアスの執務室は勿論部屋の中の扉で繋がっているし、隣室側から廊下へ出る事も可能だが、隣室に移動したカイが廊下側から入ってくるとは思わなかった。

「ちょっといい? 確認したいことがあるんだけど」

 言うと、素早く胸元から一枚の紙を出した。

 広げると、とても綺麗なモチーフの様な絵が描かれていた。


「これ、2つの花が重なっているように見えますね」


 


 開いた途端に、サクラが呟いた。

「どんな花?」

 この世界では見た事は無い。

 紋章を描き取った紙の余白に、サクラはさらさらと花弁が5枚の花を真ん中に描き、それを取り囲む様に蝶の様な花弁の小さな花が鈴なりに連なった花を描き、花弁が5枚の花を指差した。

「こちらは桜。私の名前の由来の花です。そして…」

 小さな蝶のような花弁の花が連なる方を指差した。

「こちらは、多分エンジュの花だと思います。お爺様のお家の庭に咲いてましたから」

 花の下に、さらさらと何かをかいた。

「この花は、私の国の文字で『桜』と書いて、『サクラ』と読みます。こちらは、『槐』と書いて、『エンジュ』と読みます。ちなみに、この文字は『漢字』と言って、読み方がいくつかあるんです。『桜』は『サクラ』の他に『オウ』とも読めるし、『槐』は『エンジュ』とも読めるし、『カイ』とも読めます」

 言ってから、サクラは「あらっ」と、口に手を当てた。


「カイの名前と同じですね」


 笑んだサクラの顔。

 

ー『カイの名前と同じですね』

 桜と槐。

 サクラと…カイ。


「でも、こちらの世界には無い花ですよね。違うモノかも知れません。このモチーフは何処にあったのですか?」

 にっこりと首を傾げる桜に、カイは言い淀む。

「この紋章は…」


ーこの紋章は、君の中に。


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