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異世界に召喚された聖女は呼吸すら奪われる  作者: 里尾るみ
第三章 聖女の力
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2.光魔法の密輸入


 どんなに欲しても、努力だけでは手に入らないものがある。

 それは、ある程度以上の身分だったり。

 人によっては、容姿や身長や、自分の持つモノ以外の属性の魔法だったり。


 ルイーズ・フォン・リュイにとってのそれは、この世界をひれ伏せさせるだけの『力』だった。


 はじまりの国と言われるシシリー王国において、王家、公爵家に次ぐ高い地位であるリュイ侯爵家の嫡男として生まれ、その類稀なる容貌と、この世界に於いて特別な意味を持つ『黒』以外の色を纏いながらも、『黒』を持つ者に負けずとも劣らない力を持つ令息。

 舞踏会に出れば必ず衆目を集め、貴婦人達が放ってはおかない。

 有り余る財力と、侯爵家としての権力と、他国の者にも一目置かれる程の魔力と。

 

 それだけのモノがあっても、まだ上には、この国で唯一の公爵家であるフリードリヒ公爵家と、シシリー王家が立ち開かる。

 

「ルイーズ様」

 自室の前からの聴き慣れた声の呼び掛けに、ページをめくる手を止めた。

「入れ」

「失礼致します」

 入室して来たのは、リュイ家に長く仕えるバトラーのジョバンニだった。

「カテリーナ・ボリスと名乗るお嬢様が、ルイーズ様とお約束があるとおっしゃって来ております」

 カテリーナ・ボリス。カテリーナ・ボリス…。

 聞き覚えがない。

「わかった。伺おう」

 ぱたんと本を閉じて、椅子の近くにある艶やかなテーブルの上にそっと置いた。


 広い、大理石を敷き詰めた廊下をカツンカツンと音をたてながら歩き、応接室へ向かう。

 一口に応接室と言っても、対応する客の身分に合わせていくつかある応接室の中から部屋を選ぶ。

 (おも)にどの部屋に通すかは、リュイ家では特に主人からの要望が無ければバトラーが決めるが。

 

ーあまり重要な客だとは思われなかったようだな。


 通されたのは、碧の間。

 ファブリック類が碧色で統一され、茶色の差し色の入った部屋だ。

 比較的庶民的な客が通される事が多い。

 がちゃりと扉を開けて、部屋へ入る。

「お待たせしました」

 ルイーズが綺麗に微笑み、カテリーナと思しき娘に声を掛けると、娘はソファから立ち上がり、綺麗な淑女のお辞儀をした。

「初めまして。カテリーナ・ボリスと申します。隣国セクドルから参りました、聖女にございます」

 『聖女』の言葉に、ルイーズが弾かれた様に顔を上げ、カテリーナを凝視した。

 薄い茶色の髪に、緑の瞳。

「では、君が叔母様の」

「はい。紹介に預かりました。レディ・エリザには大変良くして頂いております」

 身なりは叔母が整えたのだろう。

 艶は抑えてあるが、良い生地のワンピースである事は一目で分かった。


ージョバンニは何故この部屋へ彼女を通したのだろう?


 疑問の光がアイスブルーの瞳に浮かんだのが分かったのか、娘が首を傾げて微笑んだ。

「レディからの指示で、ジョバンニに会ったら碧の間へ通す様に言えと。それから、ジョバンニには、レディからの指示では無く、ルイーズ様と約束があると言えと」

 隣国に嫁いだルイーズの父の姉は、父よりも強い魔力を努力によって身に付けた人だった。

 本当はリュイ家を継ぎたかったし、その実力が誰よりもあった方だったが、「いずれ、外から侯爵家を助ける事も出来るだろう。これは、外に嫁いで行ける、私にしか出来ない事だ」と、あっさり求婚に応じて出て行ってしまった。

 シシリー王国は、この世界のはじまりの国とされている為か、他国からの求婚も多い。

 たまたま叔母は、その中でも1番金と権力を持っていそうなセクドルの伯爵からの求婚に乗ったと言う訳だ。


ー『力』を得るのに1番効率が良いのは、王族や公爵家や侯爵等高位貴族に嫁ぐ方法だが、年頃やタイミングもある。 

 あの頃、セクドルの国王はまだ新婚だったし、同国の公爵家や侯爵家には年頃の男子がいなかった。


「叔母様は元気にしていらっしゃいますか?」

 ふっと笑ったカテリーナは、緑の瞳を優しげに細めた。

「レディ・エリザが病床に伏す姿は、想像出来ませんね。いえ、失礼しました。お元気ですとお答えしようとして、ふっと脳裏を掠めたものですから」

 確かに。

 自らに厳しい人で、常に鍛錬を怠らない人だ。

 体調を崩すなど、槍でも降って来ても可笑しく無いくらいの出来事だ。

「貴女は余程、叔母様の近くにいる方の様だ」

「可愛い甥っ子様の恋路の応援の為に、助力を頼まれる位には」

 

 一瞬にして、空気が硬質なものに変わった。

「光魔法が御入用とか。何にでもお使い下さい」

 優しげな光を宿していた緑の瞳に、鋭い光が走る。


 『手足として使いなさい』


 叔母からのメッセージが、聞こえた様な気がした。


ー恋路…そうだ。間違ってはいない。いずれ結婚して、子供を産んで欲しいと望む娘を手に入れたいのだから。


「この国の聖女を手に入れたい。その為に、力を貸してくれるね」

 差し出された右手に、カテリーナと名乗った聖女が手を重ねた。

 カテリーナは重ねた手を取り、唇を当てる仕草をし、跪く。


「仰せのままに。マイ・ロード」

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