1.繋がる者と繋がらぬ者
魔法の授業が始まった。
正確には、とりあえず披露目の際に出席者の貴族達に聖女の魔力を確認させる目的の、ちょっとしたセレモニー的な光魔法の練習だ。
勿論、属性を持たない桜は、今のところ属性無しでも使えるような無属性魔法の収納魔法や簡単な生活魔法すら、ちらりとも発動はしない。
今日はレヴィアスの執務室に、レヴィアスと桜とヴィルヘルムの3人が顔をつきあわせている。
ーそんな簡単に魔法が使えるようなら、既に向こうの世界で魔法少女とかになってヤバい人扱いだったわよね。
私に魔力があるというカイの言葉だってマユツバものだ。
ーだって、私にはいつもは見えないし、わからないし、感じられないから。
勿論、使えないし。
ステイタスが見えるのはカイだけだ。
『聖女』って、本当に書いてあるのかしら? と思っても、自分では確認も出来ないのだから。
「ところでレヴィアス殿下。サクラに披露目の当日、披露させる芸は何にする予定ですか?」
ー芸…。
ヴィルヘルム曰く、サクラがこれから仕込まれ…もとい、練習するのは、『宴会芸』と言っても差し支えないようなモノらしい。
『皆、本当にホンモノの聖女が来たのか不安に思っているから、簡単な光魔法を披露して安心させてくださいね』との事だ。
私1人では今のところ何も出来ないので、当日はレヴィアスが簡単な光魔法を私に送って私の中の魔力と繋がり、さも私が光魔法を発動させたかのように披露する…という流れになるらしい。
「まだ考え中だし、決まっても2人だけで練習して披露目の日までは皆には秘密だ。不自然にならないように、一緒に沢山練習をしよう。私も力加減を練習して、サクラの中の魔力を暴走させないようにしないといけないし」
キラキラの笑顔で両手を握り締めて来る殿下に、『御尊顔が近い…』と、桜は内心吐血している。
何せ、笑顔は眩し過ぎて見えていない。
「その役は、私では駄目なのですか?」
問い掛けに、ヴィルヘルムの方を見た。
「ヴィルヘルム様が?」
「うん。当日は私は別に役割も無いから列席するだけだし、私の方が魔法の使い方は上手いだろうし、私も光魔法が使えるし」
何より、私は1回も失敗してないし。
ー言われてみれば、私は聖女として紹介されるのだから、恐らくはいずれ一緒に魔物討伐に行って共に戦う事になるであろう魔導士長のヴィルヘルム様の近くにいてる方が自然かも?
考えていると、レヴィアスが何かをぼそりと呟いた。
「?」
呟かれた言葉の意味が分からずにレヴィアスの顔を見詰めると、レヴィアスは面白くなさそうに桜の手を離した。
「やってみると良い」
くるりとヴィルヘルムの方へ向き直されて、桜は『では』と微笑むヴィルヘルムに両手を取られた。
「目を閉じて。力を抜いて」
両手の温もりだけを感じて。
素直に目を閉じて、呼吸を整える。
『失敗してない』の言葉に、以前魔素浄化の光魔法を使う際に王様が失敗した事を思い出した。
あの時は、自分の中に入ってきた魔力が体の隅々まで行き渡る感覚を初めて味わい、そして『ぱんっ』と弾ける感覚と、見た事ないような光と、体内からの魔力の放出を初めて感じ、相当に驚いた。
後から、あれは国王の施した光魔法による魔素浄化が桜の体内の魔力と繋がり増幅され、暴走したのだと教えられた。
そして、自分が意識が無い間に、レヴィアス殿下も同じ失敗をしたと聞いていた。
ーそう言われてみれば。ヴィルヘルム様が魔素の浄化をして下さった時には、確かに1度もそんな失敗は無かった。
上手、という事なのかしら…?
考えながら、ひたすらにヴィルヘルムの手の温かさを感じている…が、王様の時のように流れ込んで来る『何か』を感じる事は無かった。
「あれ?」
驚いているのはヴィルヘルムも同じようで、桜の両手を掴んだまま珍しく狼狽えている。
「サクラちゃんに、私の魔力は入らないね」
諦めて、手を離した。
「え…」
「じゃあ、私で決まりだな」
ぐいっと肩を引き寄せられて、レヴィアスの胸の中に肩を抱きこまれた。
「本当に簡単な光魔法で、ちゃんと慎重にするからな」
いつものレヴィアスの笑顔を見上げて、桜は違和感を感じた。
『出来るわけがない』
先程、レヴィアスはそう呟いた。
聞き取れない程小さな声だったが、桜にはそう聞こえた。
ー何故…?
何故、ヴィルヘルムには出来ないと思ったのか。
分かっていたのか…?
「まずは、私の魔力を感じる所から練習しよう」
桜の考えなど気が付かないような笑顔でそう言って、桜の両手を取り。
「えっ、あ…?」
ぼんっ‼︎
眩し過ぎる光と共に、失敗した。