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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
モルグ街の殺人
9/17

操人る~あやつる~ その壱

 私は桂家ちゃんと手をつなぎながらショッピングモールに向かっていた。

「井草さん...」

「ど、どうしたんですか?」

「おにいちゃんと井草さんの出会いが知りたいな」

「出会いって...」

「お願い」

「断ってはないよ。話すけど、長くなるよ?」

「うん」 

「あれは四年くらい前だったかな。私は三笠村で民宿『井草屋』を営む父の手伝いをしていました」


 ──四年前。

 千葉県の三笠村。

「仁! お湯を沸かしとけ」

 これが父の井草仁史(いぐさひとし)だ。

「わかりました」

 私は奥の部屋に入って、栓を閉めてからお湯を沸かした。みるみるうちにお湯が沸き出した。

「人の技術ってすごいですね」

 そんな独り言をつぶやいていたと思う。

「こんにちは」

 お客さんが来た。すぐに玄関に行った。彼は長身でそこそこ良い顔をした人で、カバンには本が詰まっていた。

「ようこそ、井草屋へ。ご予約ですか?」

「いや、予約はしてない」

「名前を教えてください」

「錠家。小室錠家だ。職業は小説家」

「かしこまりました。五号室です。これが鍵で、お食事は外でしますか?」

「中でする。中に勝手に入って食事の用意をしてくれ。頼むよ」

「わかりました」

「じゃあ」

 小室は私から鍵を受け取ると、五号室に入った。すぐにカバンを開けて、本をテーブルに並べた。そして適当に一冊を抜き出すと、床に寝そべって読み始めた。

 二時間後、小室は本を閉じると立ち上がった。それから、新聞を広げた。その時の時刻は七時だ。そろそろ食事の用意をする時間だから、私は五号室の扉をノックした。

「どうぞ」

「失礼します」

 扉を開けて、テーブルに料理を並べた。そこで、私は小室が新聞のある部分を凝視しているのに気づいた。

「その記事、三笠村連続殺人事件のですよね?」

「ああ、そうだ」

「気になりますか?」

「もちろん。三笠村は代々、三笠家(みかさけ)が地主となって納めてきた土地だ。その三笠家の家令・三方家(みかたけ)の人々が死んでいった。この連続殺人事件が三笠村に語り継がれる呪いに関係していると新聞社は騒いでいる。ところで、その呪いとはどんなものなんだ?」

「あの呪いの伝承ですか...。この村では禁句なので、軽々しく話さないでくださいね」

「ああ、わかった」

「三笠家一代目当主の三笠宗一郎(みかさそういちろう)さんは家令・三方家から(おど)してお金を巻き上げていたんです。そして、そのお金は全部宝石を買うために使っていたんです。それに激怒した三方家の人達は夜に三笠宗一郎さんの寝込みを襲って刀で串刺しにしました。その時に言い残した宗一郎さんの言葉が


『時代が移り変わろうとも、我の(うら)みが消えることはない。いずれ、我が積年の恨みが貴様ら下郎を呪い殺す! 小作人は小作人らしく、税を納めていればいいんだぁ!』


 というものです。その二年後には、宗一郎さんを襲った三方家の人は全員病気で亡くなりました。この話しを呪いと言って、三笠村での禁句なんです」

 小室は腕を組みながら口を開いた。

「なぜ、当主を襲ったのに、実行犯は殺されずに二年も生きれたんだ?」

「襲撃したのは宗一郎さんの息子で二代目当主の宗太郎(そうたろう)さんが公認したからです」

「なるほど。宗一郎は全員に裏切られたのか」

「ええ」

「そして、その宗一郎とかいう奴の呪いで三方家の奴らが死んでいっていると思ってんのか? バカだな」

「村の風習ですから...」

「俺に任せな」

「?」

「だから、俺が呪いをどうにかしてやる」

 そう言うと、小室はご飯を食べ始めた。

「あの...」

「何だ?」

「もしかして、小説のネタになんかにはしませんよね?」

「ああ──安心しろ。僕は小説家じゃなくて、探偵だ。私立探偵」

「探偵?」

「と言っても、殺人事件を扱ったことは過去に十数回しかないけどな。だが、警視庁の捜査一課刑事と知り合いだ。そのことで、三笠家から事件解決を依頼された」

「えぇー!」

「誰にも言うなよ。それと、明日は三笠家の人達と会食する予定だけど、お前も来いよ」

「な、なんでですか?」

「んー? なんとなく、今回は助手がいた方がはかどるんだ」

「は、はぁ...なるほど」

「んじゃ、明日の午前八時に三笠家に行くから起こしてくれ」

「はい、かしこまりました」

「おう」

 こうして、私は小室の助手(仮)になった。


「起きてください、小室さん!」

「ん? ふあぁー」

「今は七時です。早く支度しないと会食遅れますよ」

「マジか!」

「ええ。ここから三笠家までは徒歩で二十分ですから」

「そんな遠いのか?」

「はい。それに、道がいろいろとありますからすぐに迷子になります」

「大変だな」

「辺境の村ですから」

「支度するから、三笠家まで案内を頼むよ」

「わかりました」

 小室は急いでカバンにいろいろと詰め込んで、手に持った。

「井草、行くぞ」

「は、はい!」

 昨日、父には嘘をついて七時に出かけると話していた。

「そこを右です」

「わかった」

「そこを左です」

「おう」

 厄介な道を通り過ぎると、大きい五階建ての木造の家が出てくる。表札には『三笠』とある。

「ここが三笠家か?」

「はい。門は三回叩いてください」

「ああ」

 小室は右手の拳を握って、三回叩いた。すると、扉が開いた。

「お待ちしておりました。小室錠家様」

 出迎えたのは三方家の若頭・三方大志(みかたたいし)だった。

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