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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
まだらの紐
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使蛇う~つかう~ その肆

 私は小室の言うとおりに安田に桂家ちゃんの携帯電話を渡した。それから一分と経たずに安田は私に携帯電話を返し、捜査を再開した。

「小室さん?」

「なんだ、仁」

「トリックはどんなもの何ですか?」

「そうだな...言おうか言わないか。まあ、俺がそっち向かうから、その時にでも説明する」

「わ、わかりました」

 小室はそのまま電話を切った。

 安田は鑑識を一人捕まえて、何かを伝えていた。その後で電話をした。

「田治見君! アニコチンの他に蛇の体内から探してくれ」

「まだらの蛇、ですか?」

「ああ、そうだ。頼むよ」

「わかりました」

 電話は切れた。

「井草君」

「何ですか?」

「小室君の話しを聞いて、これは殺人事件だとわかった」

「はい」

「だから、まずはクサリヘビを最近購入したこの会社の社員を探そう」

「今は夜ですよ」

「なら、あと五時間で朝の七時だ。待とうじゃないか」


 現在の時刻は六時。そろそろ起きて会社に行かなくては...。

「ふあぁ...!」

 起き上がってすぐにあくびをした。それから洗面所に向かって顔を洗って眠気を覚ました。歯ブラシを取ると、歯を磨き始める。

 社会人になって五年目の今年。大学に二浪してまで入って、遊ぶために大学院に行った。勉強は好きじゃない。というか、嫌いだ。

 五年前はそこそこの会社には入社しようと思って『株式会社 千葉県高西不動産(ちばけんたかにしふどうさん)』の面接を受けた。それから合格したが、入社当日にブラック企業だと知った。先輩は俺に仕事を押しつけてくるし、部下は俺より仕事が出来る。そんなところでも松方先輩だけは優しかった。わかりやすく指導をしてくれて...。だが、俺は昨日死のうと決意して、松方先輩にだけは伝えようとした。だけど、何時間待っても松方先輩は現れなかった。おそらく、先輩は俺に見切りをつけたのだろう。松方先輩にすら見捨てられた。でも、会社には行かなくてはならない。一応、いつでも会社を辞められるように退職願を三枚は(ふところ)に忍ばせていた。

「行くか」

 会社へは徒歩で通える距離だった。といっても、三十分はかかるが、なまった足腰を鍛えるにはいい運動だ。

 目の前を学生が通った。(なつ)かしいな。中学校を思い出す。確か、あの頃は社会人に(あこが)れていた。今じゃ落ちこぼれだ。どうして俺の人生はこうなったんだろう。

 ──そろそろ会社だ。社員証を出しておかなくては。カバンをあさって社員証を出すと、首にかけた。それからちょっと進むと、いつもとは違う警備の奴らがいた。胸元には『POLICE(ポリス)』とある。警察だな。何があったんだろう。

 警察官の前に立って社員証を見せた。

「あの、千葉県高西不動産の西河原竜哉(にしがわらたつや)ですが、何かあったんですか?」

「松方修さんをご存じですか?」

「ご存じも何も、親しくしてくれた優しい先輩です」

「松方修を知っているんだな?」

「それは、よく知っています」

 すると、警察官は無線を出した。

「安田警部。松方修をよく知る人物が来ました。どうします?」

「連れてこい」

「了解」

 無線を切ると、警察官は俺の腕をつかんで二階まで連れて行った。

「俺は警視庁捜査一課の安田だ。松方修を知っているのか? 名前は?」

「西河原竜哉です。それより、松方先輩がどうかしたんですか?」

「ああ。大変酷だが、伝えなくてはならないな。......松方修は昨日、死んだ」

「は、はあ?」

 俺の体は一瞬にして床に倒れた。安田と名乗る男は俺を抱きかかえた。

「松方修は死んだ。しかも、密室殺人だ!」

 まさか、身近な人が密室内で死ぬとは。ドラマとか小説の世界でしかあり得ないと思っていたのに......。

「ま、松方先輩は今どこに!?」

「あっちだ」

 俺は全力で走った。警察官を押しのけて走った。すると、シートが被せられたものがあった。急いでシートを取った。シートの下には青くなった松方先輩の顔があったのだ。

「松方先輩! 松方先輩!」

 俺はただ、叫ぶことしか出来なかった。唯一の優しかった先輩はもうこの世にはいないという現実から逃げるために...。

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