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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
まだらの紐
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使蛇う~つかう~ その壱

 今日、私は事務所に来ていた。別に料理をつくりにきたわけではない。なんと、あの自称・安楽椅子探偵にしてニートの小室に外に行くと言い出したのだ。こんなことは私が助手になってから初めてである。どんな風の吹き回しだろうと思っていたが、事務所に到着して理由がわかった。事務所に桂家がいることから考えると、おそらく妹想いの兄なのだろう。桂家が外に出たいと言い出したに違いない。

「んで、どこに行くんだ?」

「私はファミリーレストランでまずは食べたいよ」

「仁はどこに行くか、希望はあるか?」

「特にはないです」

「そうか...。なら、近くのファミレスに行こう」

 小室は棚から車の鍵をつかんで事務所を出た。

「井草さん。実家はどこなの?」

「あ、ええ。実家は千葉県の山奥の三笠(みかさ)村っていうところにあります。三笠村で唯一、温泉のある民宿です」

「そうなんだ。三笠村ってどんなところ?」

「空気が澄んでて綺麗なところですね」

「私、行ってみたいな」

「小室さんと初めて出会った場所なんです」

「そこで知り合って、助手になったの?」

「命を救ってくれたんです」

「命を?」

 その時、小室が事務所に入ってきた。

「お前ら、車に乗れ」

 皆が車に乗り込み、小室が運転席に座って発車した。


「お客様、何名様でしょうか?」

「三人だ」

「かしこまりました」

 店員は私達を窓側の奥の席に案内した。

「さあて、ゲームしようか? 負けた奴が今日の食事代を払うんだ」

「えっ! 小室さん持ちじゃないんですか?」

「当たり前だ」

「おにいちゃん、ゲームって何するの?」

「簡単だ。相手を観察して職業を当てるんだ」

「それ、小室さんの特技じゃないですか」

「ああ。超得意だ」

 小室は今ファミレスにいる全員に目を向けた。そして、五分して目を閉じながら話した。

「ここにいる奴ら全員の職業を推理した。それでわかったが、同業者がいる」

「同業者?」

「探偵だ。まあ、調査しているのは浮気だがな」

「なんでそこまで...」

「見りゃわかんだろ?」

「わかりません」

「探偵はあいつだ」

 小室は右手の指で示した。

「探偵...。何でわかたっんですか?」

「見てみろ、あの探偵の手元。本を読んでいると見せかけて、手鏡で後ろの様子をうかがっているだろ?」

「はい」

「探偵が見ている席にいる人物はぽっちゃりした女性一人とガリガリの男性一人がいる。その女の方の指を見ろ」

「指、ですか?」

「ああ」

「何もわかりません」

「なんだ、わかんないのか? 左手の薬指の根元と左手の人差し指に絆創膏(ばんそうこう)が貼られているが、薬指に貼られている絆創膏をよく見ろ」

「ちょっと、膨らんでますね」

「そう。絆創膏の下には結婚指輪がある」

「何で隠しているんですか?」

「相手の男が浮気相手だからだ。だが、女は結婚していることを伝えていないんだろう」

「では、何で結婚指輪を外さないんですか?」

「おそらく、結婚する前は痩せていたが、結婚指輪をはめてから太ったんだろう。それで、指輪が外せなくなったんだ」

「なるほど」

 小室はすました顔で煙草を出した。それを一本口にくわえると、店員が近づいてきた。

「お客様、喫煙はお控えください」

「...おう」

 小室は煙草をケースに戻した。

「私にも出来る話しをしようよー」

「...そうだな、だがゲームは職業当てるだけだからな」

「なら、ゲーム内容を変えませんか?」

「どんなのに変えるんだ?」

「そうですね...トランプゲームしましょう」

「んじゃ、ババ抜きしよう」

「......小室さんなら、ポーカーやると思っていました」

「ああ、ポーカーか。ルール知んない」

「おにいちゃんは昔っから覚えるのは苦手なのよね」

「そうなんですね」

 三人は料理を注文してから、トランプでポーカーを始めた。

「くっ! またこの俺が負けるだと」

「ワンペアじゃ勝ってませんよ。せめて、ポーカーフェイスで駆け引きくらいはしないと」

「ポーカーフェイス?」

「顔に表情を出さないってことです」


「私、フォーカードよ!」

「僕はフルハウス」

「私はフルハウス」

「おい、仁。役が同じのが出たらどうするんだよ」

「カードの順位は同じですし、スートが高い方が価値です」

「カードの順位? スート?」

「A、K、Q、J、10、9、8、7、6、5、4、3、2がカードの順位で、スペード、ハート、ダイヤ、クローバーがスートの順位です。スートで、小室さんが勝っています」

「おお! 初めて勝ったぞ」

 小室はため息をついた。

「もうそろそろ、ファミレス出ない? 私、眠くなっちゃった」

「そうか...。ちょっと待ってろ。車を表に回してから会計するから」

「わかった」

 小室はファミレスを出た。それから十分しても帰ってこない。

「桂家さん。私、小室さんのスマホの電話番号知らないんで、電話かけてもらっていいですか?」

「いいわよ。あっ! スマホを貸すよ」

 桂家は自分のスマホを井草に渡した。

「あ、ありがとうございます」

 スマホをいじって、小室に電話をかけた。

「もしもし、小室さん?」

「なんだ、仁か?」

「どうして遅いんですか?」

「ああ、ちょっとな......車の鍵を落としたから探してんだ」

「なるほど」

「忙しいから切るぞ」

「ええ」

 電話を切って、スマホを桂家に渡した。

「ありがとうございます」

「いいのよ。それより、来週空いてる日はある?」

「いつでも空いてますよ」

「なら、来週の土曜日に一緒にどこか行かない?」

「良いですね。土曜日なら事務所も休日に出来るから小室さんも行けますね」

「あ、あのさ...おにいちゃんとじゃなくて私と二人で行かない?」

「ふ、二人で?」

「うん...」

 その時、浮気調査をしていた探偵が叫んだ。

「お、おいっ! 向かいのビルで...!」

 なんだ? 桂家ちゃんと楽しく話していたのに...。と思ってビルに顔を向けてみると、人が倒れていた。そして、死んでいるらしかった。 

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