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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
大会社社長密室殺人事件
2/17

騙死す~だます~ その壱

「社長は今、どうしてる?」

「社長は現在、別荘ですが、場所は伝えかねます」

「私でもか?」

「ええ。副社長でもです」

 私は中古車買い取り・販売大手の『ガレージ・(ひいらぎ)』副社長の高島泰蔵(たかじまたいぞう)だ。社長である高島泰治(たかじまたいじ)は私の父で、今は別荘で考え事をしているらしい。しかし、急いで伝えたい用件があるから別荘の場所を社長秘書の畠山桜(はたけやまさくら)から教えてもらわなくてはならない。

「そこを何とか...、畠山さん!」

「では、まずはその急用の内容をお話ください」

「会社関係ではないが、いいかい?」

「まあ、検討はついておりますからどうぞ」

「高岡さんとの結婚についてだ」

「やはり、そうでしたか」

 私は一年前に高岡優芽(たかおかゆめ)に一目惚れをし、半年求婚した。やっとの思いで高岡さんの親に認められたが、社長は私と高岡さんとの結婚を許可していない。高岡さんの父親はそろそろしびれを切らし始めている。なんとか今日中に結婚を承諾してもらわないといけなかった。

「そうですね...。では、私が社長の安全をこれから確認しに行くので、ついでについてくるくらいなら許しましょう」

「あ、ありがとうございます」

「ふ、副社長! 頭を上げてください」

 十分後。私は地下駐車場に停められた畠山の車の助手席に乗り込んだ。運転席にはもちろん、畠山が乗りこむ。

「大体、何分ほどかかるかな?」

「ここからだと、四十分ほどでしょうか?」

「なるほど」

 私は腕時計に目を向けた。


 別荘。その名にふさわしく、別荘は山の中に建っている。木造五階建てで絢爛豪華。こんな別荘が他にも数個ほどある。

「社長はこの別荘の二階書斎室にいるはずです」

「ああ」

 私はインターホンを鳴らした。二、三回押したが反応はなかった。畠山が扉をノックして「社長、社長」と繰り返していた。

 嫌な予感がして、近くの木に登り二階のベランダに降りた。

「畠山さん、書斎室はどの窓だい?」

「副社長の立っているところの二つ右です」

「わかった」

 私は窓から書斎室を覗いた。カーテンが邪魔だったが、よく覗いていると人影が床に倒れていることに気づいた。社長だ。

「社長!」

「副社長、どうしましたか?」

「社長が部屋で倒れている! すぐそっちに降りるから、君は救急車を呼んでくれ」

「承知いたしました」

 畠山が救急車を要請し終わってから、私は地上に降りれた。

「中に入るぞ」

「左の窓を破りましょう」

 私は近くから中くらいの大きさの石を手に持って、窓に投げつけた。ガラスはすぐに割れて、その穴を広げた。

「行こう」

「ええ」

 畠山が書斎室まで私を案内してくれた。ドアノブに手をかけたが、回らなかった。

「鍵をかけているな」

 私と畠山が協力して体当たりをし、扉を破った。中では、本棚の近くで社長が倒れていた。

「社長!」

 社長をすぐに抱きかかえた。そして、腕の上に手を置いた。

「脈がないぞ!」

「何ですって!」

 畠山も脈を確かめた。

「ないです!」

 社長のまぶたを指で上に上げた。

「瞳孔が...開いている...」

「!」

「畠山さん! 急いで警察にも電話してくれ!」

「わかりました!」

 畠山はスマートフォンをポケットから出して110番にかけて、耳にあてた。


 相変わらずと言っていい。小室はインスタントコーヒーを飲みながら事務所で時代劇ものの本を読んでいた。

「小室さん。その本、面白いんですか?」

「ん? シナリオ的には面白くはあった。ただ、ちょっと現実味に欠けるね」

「どんなところですか?」

「まず、第一章で主人公が溺れているシーンだ。人は溺れたときには呼吸するのに精一杯で大声は出ないはずだ。だが、この本では大声で主人公が助けを求める描写があった。

 第三章では、違うもののようで同じものの例として『(かき)』と『(こけら)』をあげているが、この二つはまったくの別物だ。(こけら)の右側部分は縦棒が横棒を突き抜ける書き順で、(かき)の右側部分は『(いち)』の書き順と同じで縦棒が横棒を突き抜けていない。

 第五章では、悪役を成敗するために主人公が刀を抜いて敵を倒すシーンだ。主人公が『峰打ちだ。安心しろ』と言って格好つけている部分だが、日本刀の反っている内側部分が峰というとこだけど、生身を打たないと折れてしまう。力がかかると折れやすいのが峰だからな」

「実際に生身を打ったんじゃないんですか?」

「五章の描写で生身に打ちつけると、推測だが死んでいる。日本刀は一キログラムもするからな。つまり、峰打ちをする意味がない」

「はあ...なるほど。ですが、それはフィクションですから」

「こだわるところはとことんこだわってもらいないね。僕は認めないよ」

 小室はすました顔で椅子を立ち上がると、冷蔵庫を開けた。

「もう昼だな。腹減った」

「そうですね...。料理をします」

「よろしく」

「はい」

 私はキッチンに立つと、皿に白いご飯を入れた。そして、冷蔵庫から生卵を出すと、殻を割ってご飯にかけた。箸でかき混ぜてハムを切り刻んだものと野菜をいれて、フライパンに出した。

 十分後、フライパンの上にチャーハンが出来ていた。

「仁はいつも特殊な料理をするな」

「普通ですよ。さあ、どうぞ」

「あんがと」

 小室はチャーハンを口の中にかっこんだ。そして、牛乳をコップに注いで飲み干した。

 ガラガラ、という音がしてその方向に私と小室は顔を向けた。音は事務所の扉を開けたもので、安田が入ってきた。

「やあ、小室君と井草君」

「安田警部。また、難事件か?」

「もちろんだ。密室殺人さ」

「そうか。まあ、そこの椅子に腰をかけろ」

「ああ」

 安田は小室の横にある椅子に座った。

「説明しろ」

「わかっている。大手の中古車買い取り・販売チェーン『ガレージ・柊』の社長である高島泰治が死亡した」

「まだ公表されてないな」

「そうなんだ。第一発見者は副社長で社長の息子の高島泰蔵と社長秘書の畠山桜の二人。遺書制作で別荘に篭もっていた社長に結婚を認めてもらえるために副社長は社長秘書と別荘に向かった。インターホンを押しても反応がないから副社長が木に登って中を覗いた。んで、倒れている社長を発見した。二人は別荘に侵入して社長が倒れている書斎室の扉を破った。その時にはすでに社長には脈はなく瞳孔も開いていたらしい。二人が確認している。それに窓ははめ殺しで、密室だったんだ」

「前回みたいに凶器をすり替えたりは出来なかったのか?」

「意味がない。今回は絞殺体だ。しかも、死体は床に倒れていた。つまり、自主的に殺させることはできない」

「凶器は?」

「死体のすぐ隣りに落ちていた。縄だったよ」

「なるほど。今回ばかりは難しいな。容疑者の説明をしろ」

「もちろん容疑者は第一発見者の二人だ」

「そういうことじゃない」

「ああ、そういうことか。畠山桜の趣味は野球観戦。高島泰蔵は社長同様にゴルフ。休日は二人ともその趣味に没頭していた。アリバイは両者とも皆無だ。現場に社長がいることを知っていたのは畠山桜ただ一人」

「なるほど、なるほど。今回は少し骨折りだ」

 小室は椅子から立ち上がると、机の引き出しから煙草を一本取りだして口にくわえた。ライターを探して、口にくわえた煙草に火を着けた。

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