招死く~まねく~ その弐
八坂島の港らしきところで船は停まり、橋が島と船の間に渡された。その橋を九人が通り、島に降り立った。『九人』というキーワードで、読者の中には考えを巡らせている人もいるかもしれないから断っておく。旅行参加者八人とシャーロックを会わせて『九人』と呼んだに過ぎない。
「皆様。これより少し進むと館が見えてきます。その館で七日間宿泊していただくことになっております。
館に到着いたしましたら、まずは全員で集まって自己紹介を始めましょう。その後で、当宿泊の本当の目的でもお話ししましょう」
「宿泊の目的?」
参加者たちが漫画で見たようなポーズをとって、理解できていないことをシャーロックに理解させた。
「後ほど八坂島管理者様が出て参りますから、それまでお待ちを」
そこまで話すと、シャーロックは山に向かって歩き出した。参加者もシャーロックの後に続く形で歩き出した。
少し──と言っても十数分──歩くと、山の中にポツンと絢爛豪華な館が見えてきた。入り口の大きい扉には『八坂島 別邸』とあった。中に入ると一階は皆が集まれる広間になっていて、その中央にある螺旋階段を上がった二階には各個室八つがあった。二階の部屋の配置は船と同じだった。外から見た感じだと、五階建てに見えたが二階から上に上がる手段がなかった。
「三階へは特別な方法をしないといけません」
シャーロックは参加者の後ろでそう言った。すると、参加者の一人が尋ねた。
「どうやったら、三階に上がれるんだ?」
「それは、これからのお楽しみでございます。それより、皆様は扉のプレートに書かれたご自分の名前を探し、その部屋に入っておいてください」
私は船と同じく小室の隣りの部屋に入った。船と配置は同じでも部屋の中はものすごく広い。ベッド、机、本棚、ソファ、テレビ、エアコン──。全てが充実していた。
その数分後、扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します、井草様。これより自己紹介を行いますので、一階の広間でお待ちください」
「わかりました」
シャーロックは一礼すると、部屋を出た。私も扉を開けて出ると、小室と桂家ちゃんがいた。
「広間に行こう」
「わかりました」
三人で一階に降りると、他の参加者が全員揃っていた。シャーロックは前に進むと、中央に立った。
「一人ずつお立ちになって、お名前とご職業を言ってください。他の皆様は椅子に座っていてください」
全員はまず、椅子を持ってきて、座った。それから、お互いが相手を見合ってアイコンタクトのようなことをしたあとで、一人の男が立ち上がった。
「僕は乾颯馬という。職業はただのサラリーマン。よろしく」
中肉中背でスーツが似合わない、年齢は三十半ばくらいの男だった。
乾が自己紹介を終えて椅子に座ると、隣りの男が立った。
「俺は三上辰。父は三上海運の社長だから、俺は無職。ただ、お金なら腐るほどあるよ」
三上は座った。あまり良い印象を受けなかった。なぜなら、身なりや付けている腕時計からボンボンだとは察しがつくが、高身長のイケメンときた。男は黙っちゃいない。
それはさておき、次は女性が立ち上がった。
「私は真壁春香よ。仕事は美容師をしているの」
真壁は女性の一般的身長で、髪はショート。ボーイッシュな服装だ。美容師に見えなくもない。
次は小室が立った。
「僕は私立探偵をしている小室錠家だ」
なんとも簡単な説明だろうか。それは良いとして、次が私なのか。
「私は小室さんの助手をしている井草仁という者です」
椅子に座ってから自分の発言を振り返ると、我ながらあっさりとした感じだった。
「はーい! 私は錠家の妹の桂家でーす! 運送会社で働いています!」
次は男が立ち上がった。
「自分は熊井輝義と申します。仕事はとある会で小麦粉に似た何かを取り引きするぐらいでさぁ」
こいつ、やばい奴だ。身長は低く見積もっても190はある。そしてフォルムは太く、顔は安田に負けないくらいの強面。
最後にまた女性が立った。
「私は熊谷直実と言います。学校で教師をしています」
確か、平清盛の甥の平敦盛を一ノ谷の戦いで倒した人物の名前が『熊谷直実』だったな~などと考えてしまった。まさか、親はわざと『直実』と付けて『熊谷直実』に擦らせたのではないだろうか。
平敦盛はかなりのイケメンと学校で習ったが、それでは源氏の源頼朝もイケメンだから平治の乱はイケメン対決だったのか? と頭に浮かんだ。いや、平清盛があれだから、それはないか。いやいや、源義経は──。
ちなみに源頼朝がイケメンに描かれたあの絵は本物ではないらしい。本物の顔はどこかの彫刻を見ればわかると記憶しているが...。
いろいろと脱線してしまったが、これで登場人物は全員揃ったというものである。