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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
モルグ街の殺人
14/17

操人る~あやつる~ その陸

 小室は知り合いの精神科医の元へ昨日向かった。それから、安田は私のところに入り浸って捜査状況を逐一報告してくる。

「井草君」

「あ、安田さん」

「ああ。今日もあまり成果はなかったよ」

「なるほど」

「で、小室君はいつ戻ってくるのかな?」

「わかりません。知り合いの精神科医に会いに行ったんですが...」

「小室君がいないと、捜査が進まないな...」

「大丈夫です。精神科医に会いに行ったのは、考えたトリックを立証させるためですから」

「ほお?」

「私は何も聞いてないですけど」

「だが、小室君に精神科医の知り合いはいたかな?」

「小室さんは自分のことはあまり語りませんからね」

「だよな...。まあ小室君のお陰で、警部補に昇進出来たから何も言えないんだが...」

「安田さんは小室さんと何年前からの知り合いなんですか?」

「五年前だよ。会ってから、かれこれもう五年か」

 四年前の話だから、現在は九年というわけだ。

「どこで会ったんですか?」

「事件現場だよ。小室君は俺が初めて担当した殺人事件の第一容疑者だったんだよ」

「そうなんですか!」

「ああ。それから、小室君に事件概要を話すとすぐに解決してしまった。で、パートナーになった」

「そうなんですね」

 その時、扉が開いた。お客さんだと思って玄関に向かうと、それはまさに小室だった。

「安田! なぜ五年前の話しをペラペラ話しているんだ」

「やっ! 小室君じゃないか。トリックはわかったのか?」

「もちろんだ。今から華麗なる推理劇を披露してやるよ」

「推理劇?」

「容疑者の前で推理をぶつけるんだ」

「なるほど。いい考えだ」

「安田が準備しとけ。全員集めるんだぞ」

「わかってるって! 早速してくるぞ!」

「頼む」

 安田は急いで井草屋を飛び出した。小室はそれを横目に五号室に向かった。胸ポケットから煙草を一本取り出すと、口にくわえてライターで火を着けた。その後でカバンからインスタントコーヒーを出した。この時から小室はインスタントコーヒーが好きだったのだ。

「仁」

「なんですか?」

「推理劇には、君も出てもらう」

「!」

「驚いているね。君は僕の助手にむいている。どうだい? 仮じゃなくてちゃんとした助手になってくれるか?」

「父がどう言うかですけど、上京するのは良いですね」

「なら、推理劇が終わったら考えておいてくれ」

「わかりました」

「うん」

 小室は二回うなずくと、五号室に入っていった。ここは禁煙何だけどな...。


 一時間ほどして、安田が戻ってきた。

「推理劇の準備が出来たぞ」

「わかった」

「すぐ来るか?」

「ああ。仁も来るんだ」

「わ、わかりました」

 私達三人で、三笠家に向かった。三笠家の広間では、容疑者全員が集まって、椅子に座っていた。

「来たか」

 宗司が椅子にふんぞり返って、偉そうな口調でこちらに言った。

「いや、すんませんね。これから犯人をすぐに炙り出すので...」

「炙り出すまでもない。トリックさえわかれば犯人もわかる。犯人はずさんなトリックを使ったんだ。だが、少し面白いトリックだよ。と言っても、康成を操ったに過ぎないが」

 小室は厚いコートを脱ぐと、携帯電話のように床に放り投げた。

「犯人は、ずさんだが実に巧妙なトリックを思いついた。康成の(やまい)を利用していた。

 宗二が怪談を話すときに彼特製の線香を焚いたようだが、それで怪談の話しと線香の香りが康成の中でセットになった」

 小室は頭を()きむしった。

「例えば。例えばだ。勤めている会社でパワハラにあっていたとしよう。ストレス軽減のためアロマを焚く。それと同じアロマを寝るときにも焚くと、パワハラの夢を見るんだ。それだけ、匂いというものは影響力を持つ。

 康成では怪談話しと線香の香りがセットになったと言ったが、康成は寝るときにも宗二の勧めで線香を焚いていた。眠りやすくなると騙して、だ。つまり、康成は殺人の夜に怪談話しの夢を見たんだ」

 宗二が横から口をはさんだ。

「夢を見たからって、何になる! 夢で殺人を犯す程度だ」

「違う。康成の部屋では時計などが壊れていた。もしかすると、レム睡眠行動障害の可能性がある。レム睡眠行動障害とは、夢で行った行動をいちいち現実でも寝ている間に行ってしまう病だ。

 話しをまとめるとこうだ。康成は以前からレム睡眠行動障害で悩まされていた。そのことを宗二に相談していた。宗二は逆に利用しようと考えて線香を焚いて寝ることを勧めた。その後に怪談話しをする最中に線香を焚いて関連づけた。で、殺人の夜に康成に宗弥と一緒に寝るように言った。その時にも欠かさず線香を焚くように念を押したはずだ。それに、包丁は護身用で康成は持っているからこれも利用した。結果、線香のせいで怪談話しの夢を見て、同じ行動をしたんだ。これでわかったと思うが、こんなトリックを使えるのは宗二だけだ。

 宗二は他の三件の殺人にも関わっているはずだ。そして、最終的に康成に全てをなすりつけた」

 皆の目が一斉に宗二の方に向いた。精神科医に会いに行ったのは、レム睡眠行動障害を確認するためだろう。

 宗二は椅子から立ち上がると、ゆっくりと小室に歩み寄った。

「そうじゃ。わしが犯人。わしが殺した」

「夜に警備員が聞いた中国語は寝ている康成が発した寝言か何かだろう。まあ、あんたは終わりだよ」

「いや、終わらない」

 宗二は(ふところ)から包丁を出して私に向けた。

「わしは生きる。動いたら仁を殺す」

 すかさず小室は宗二の手首をひねった。それから、包丁を落とすと縛り上げた。

「僕には武道の心得があるをだ。...動機は地代増額だろ? 他三人も地代増額に賛成していた。宗弥も賛成していたが、たが康成は反対していたはずだ。なぜ、殺した?」

「ただ利用しただけじゃ」

「あんたはただのクズだ」

「その通り」

 宗二は笑いながら、安田に捕縛された上で連行された。その後、命を救ってくれた小室の後を追って上京。めでたく助手となった。


「だから、命の恩人なんだ」

 話しを聞き終えた桂家ちゃんが、納得したように話した。

「ちょっと長かったでしょ?」

「まあね。ただ、面白かったよ」

「なら、よかったです」

 桂家ちゃんとインスタントコーヒーを買うと、事務所に直行した。

「小室さん、買ってきました」

「ああ、ありがとう」

「いえ、大丈夫です」

「へへー。井草さんに四年前の出会いを聞いちゃった」

「なんだ、仁。話したのか」

「聞かれたので答えただけです」

「まあ、いい」

 小室は椅子から立ち上がって、ポストを確認した。

「おや、何か入っているよ。珍しい」

 小室はポストに入っていた封筒を開けて、手紙を読み上げた。

「『あなたは離島宿泊特別旅行参加者に選ばれました! 封筒に入っているチケットを持って二十三日に八坂港(やさかこう)に来てね』だと。チケットは三枚。ああ、これか。先々月に駄目元で応募したが、当選しちまった」

 これが、地獄への片道切符だとはまだ知るよしもなかった。

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