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犯人達の工作  作者: 髙橋朔也
モルグ街の殺人
13/17

操人る~あやつる~ その伍

 宗二が語った怪談は概ね事件と一致していた。

「なるほど」

 安田は腕を組んでうなずいた。

 その後も聞き込みをしたが、いい結果は得られなかった。一応、小室に聞き込みをした内容を話した。

「何だ。全然役に立つ情報がないな」

「そうですよね...」

「それと、気になるんだが現場で良い香りがしたんだろ?」

「はい。死体がなかったので、線香でも焚いたのかと思いました」

「多分、それが宗二の特製線香だろ?」

「あ、なるほど。線香を焚いて寝るって言ってましたね」

「ああ、そうだな」

 小室は三笠家の見取り図を開いた。

「犯人は康成をどうやって操ったか...」

「上から紐とかで操ったということはないんですか?」

「現場には一ミリのすき間もないらしい」

「ああー、なるほど」

「誰かが康成を脅して、やった可能性はあるか?」

「安田さんによると、ないらしいです」

「なるほど。で、包丁を康成が持ってたんだ?」

「あ、ええとですね...」

 私は記憶を辿(たど)った。すると、珍しく思い出した。

「三方家の人はすでに三人も殺されていますから、護身用で持っていたらしいですよ」

「なるほど。だが、護身用であんな鋭利な包丁を持つか? 普通...」

「どうなんでしょうね?」

「まあ、この事件を解決したらわかんだろ」

 小室は見取り図の現場と宗二の部屋を見た。

「宗二が一番怪しい」

「何でですか?」

「そりゃ、こいつは怪談を話している」

「まあ、そうですけど、宗二さんには動機がありません。それに、優しい方ですよ」

「そうらしいな。老後の道楽とはいえ、慈善事業も行っているらしいし」

「あと、警備員によると夜に現場に近づいたのは宗司さんです」

「あのバカ当主か」

「そうです」

「なら、的を絞ってみるか」

 小室は容疑者を一人ずつ潰していった。何か考えがあるらしい。

「何かわかりましたか?」

「怪しいのは宗司と宗二だな」

「!」

「だって、二人とも三笠家の人間だ。家の構造をよく理解しているはずだ」

「そうですけど、動機が...」

 その時、小室の携帯電話が鳴った。

「もしもし、安田警部補か?」

「もちろんだ」

「何かわかったのか?」

「ようくわかったんだ」

「ほお? 話してみろ」

「ああ、そのつもりだ。宗二らは地代の増額に反対していた。が、大志と圭吾、宗司が押し切った。つまり、宗司、康治、その他諸々には動機があった」

「以前の三件の殺人も地代の増額が原因か?」

「ああ、そうらしい」

「なるほど。これで宗二に動機があったことがわかった」

「これからも、調べてみる」

「刑事なんだから当たり前だ」

「わかってるって」

「それと、もう一つ調べてほしいことがある」

「何だ?」

「怪談が行われていた状況を知りたい。その時の画像動画証言その他いろいろと調べてくれ」

「怪談の状況、か。わかった。調べてみる」

「頼むよ」

 電話が切れた。小室は携帯電話を床に放り投げた。

「もし安田が調べてきて、それが僕の予想通りなら犯人はやはり宗二に違いない」

「そうなんですか?」

「ああ」

「どんなトリックを考えているんですか?」

「不完全なトリックを言うことは出来ない」

「そうですか」

「それと、僕は寝るから安田から連絡があったら起こしてくれ。その内容によっては少し行きたい場所がある」

「どこにですか?」

「知り合いの精神科医のいる場所だ」

「精神科医?」

「ああ」

「なんで精神科医なんですか?」

「トリックが精神科医の範疇(はんちゅう)だからだ」

「精神科医の範疇?」

「そうだ」

「それは、康成さんが最近眠れないのと関係があるんですか?」

「少なからずあるだろう」

「なるほど」

「まあ、寝るからな」

「わかりました」

 私は椅子に座ると、小室の蔵書から一冊の本を手に取った。そして、開いて読み始めた。十ページほと読み進めると、小室はいびきをかき始めた。


「プルルプルル!」

 そんな音に気づいて本を読むのを中止した。本をテーブルに置くと、音が聞こえる方を向いた。床に放り投げられた小室の携帯電話が鳴ってい。急いで寝ている小室のところへ行き、体を揺すった。すると、大きく伸びをしならが起き上がった。

「どうした?」

「携帯電話が鳴っています」

「そういうことか」

 小室は素早く携帯電話を右手で取った。そして、指を画面上でスライドさせて携帯電話を耳に当てた。

「安田、何かわかったか?」

「それなりにはわかったよ」

「話してみろ」

「当然だ」

 安田は咳払いをすると、話し始めた。

「宗二が怪談話しをしている時、ちょうど線香を焚いていたらしい。宗二が焚いたんだが、その香りのせいで怪談が怖くなかったそうだよ」

「なるほど」

「で、他には宗二は珍しく椅子に座って話しを始めたらしい。もう歳だからな」

「続けろ」

「宗司は嫌な顔で煙草を吸い始めたが、宗二が怒ったらしい。線香の香りが阻害されるって怒鳴ったんだとよ」

「ほお」

「画像と動画を入手したが、どうする?」

「今の証言は僕が考えるトリックと一致する」

「わかったのか?」

「もちろんだ」

「教えてくれ」

「いや、これから知り合いの精神科医のところへ行くんだ」

 小室は電話を切ると、ポケットに携帯電話をつっこんだ。

「じゃあ、仁。出かけるからな」

「わかりました」

 あれ、私のことを仁と呼ばなかったか? と思いながら小室を見送った。小室はやけに元気があった。

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