操人る~あやつる~ その肆
宗弥と康成が殺されたという事件は瞬く間に村中に広まった。もちろん、昼には私と小室の元にも広がってきていた。小室は直ちに私を五号室に招き入れた。
「とうする?」
「どうしましょう」
「安田は呼んである。今、事件を綿密に調査して僕にそろそろ伝えに来るはずだ」
「なるほど」
その時だった。扉が二回ノックされて、安田が入ってきた。
「やあ、小室君」
「安田警部補。何度言ったらわかるんだ。二回ノックだとトイレだ。三回ノックしろ」
「ああ、わかってるって。それより、わかったことがある」
「事件のことか?」
「もちろんだ」
「話せ」
「殺したのは康成だ。康成は宗弥を包丁で刺して、それから自分を刺した」
「なら、事件じゃないな。犯人は康成で決まりだ」
「それが、そうもいかない。三笠家の人達が騒ぎ立ている。康成は殺すはずがない、と。だから、君に解決してもらいたい」
「なるほどな。最悪、康成が犯行を行う動機さえ見つけたら良いってことか」
「そういうことだ」
「つまり、康成をどうやって操るか」
「催眠術で誰かに人を殺させる、というのはほぼ無理だ。警察側でも、それは考えていた」
「なあ、気になること聞いて良いか?」
「ああ、いってみろ」
「ここは千葉県だろ?」
「ああ」
「なんで警視庁のあんたがいるんだ?」
「いろいろ手引きした」
「なるほど...。で、何か他に不可解な点はあるのか?」
「ある。非常にある」
「いってみろ」
「前日、つまり昨日だ。昨日、宗二が怪談を行った」
「怪談?」
「ああ。宗二は老後の道楽で怪談をしたりしている。で、その怪談の内容と宗弥康成死亡事件の内容は酷似している」
「ほお?」
「面白くなっただろ?」
「ああ。怪談の内容通りに康成を操ったということだな?」
「そういうことだ。な? 興味深い事件だろ?」
「久しぶりに手応えがありそうな事件だ。マリオネットのように、どうやって康成を操ったか」
「もしくは、操ったように見せかけたか」
「だな」
小室は立ち上がると、隅に向かった。
「安田。現場の状況と康成の部屋の状態、もしくは写真でもいい」
「わかった。まずは写真を渡す。これさ康成の部屋の写真だ」
「ああ」
小室は安田から写真を受け取って、じっくりと見た。
「時計が壊れているな」
「ああ。康成はヒステリーの可能性が高い」
「なるほど。あと、何だ? この線香」
「ああ。何か、康成は最近眠れなくなったらしい。そのことを宗二に相談したら、宗二特製の線香を渡されたらしい。良い香りで眠りやすかったと康成が言っていたと証言がある」
「なるほど、なるほど」
小室は写真を安田に返した。
「次は現場の写真。あと、細かい説明」
「ほら、写真」
「ああ」
「現場の状況はひどい。回りに血が飛び散っている。しかも、宗弥は胸のあたりを滅多刺しだ」
「ほお?」
「死亡推定時刻は警備員が変な声を聞いた時間と一致する。死体におかしな点はない」
「...。大体わかった」
「何が?」
「事件概要だ」
「なるほど。で、次はどうする?」
「もっとくわしく調べてから、また伝えに来い」
「わかった。では、また来るよ」
「ああ」
安田は手帳を胸ポケットにしまって、五号室を出て行った。
「あの、今のが?」
「唯一の知り合いの刑事だ」
「ああ、わかりました」
「さて...」
小室は本棚に向かうと、一冊の本を取りだした。
「僕は安田が来るまで本を読んでいるよ」
「わかりました。では、私はこれで」
「待て」
「どうしました?」
「面白いから、安田に着いていけ」
「わ、わかりました」
私は小室に言われた通りに、安田を追って現場に着いていった。
「井草君は民間人だから、死体は見せられない。証言の聞き取りくらいだ」
「わかりました」
「うむ。では、着いてきたまえ」
「はい!」
安田はまず、怪談を話した宗二に聞きに行った。
「宗二さん」
「刑事さん」
「どうも。まずは、怪談を聞かせてもらいませんかね」
「かまわんよ」
宗二は咳払いをしてから、話を始めた。